091:渇
地におちてなほうち伏せぬ夏つばき空にいかなる渇望やある
092:生い立ち
生ひ立ちを低く語ればゆつくりとわが血に翳る父とふ過去世
093:周
円周率しらざる半弧やはらかにそのなな色を風に溶きたり
094:沈黙
一杯のみづにも重さあるものを沈黙のうちに墓の背を拭く
095:しっぽ
尾をしきり振りつつ低く唸りをりしつぽで笑ふと詠まれし犬が
096:複
複眼のひとつひとつにこの秋をやきつけて逝けとんぼもひとも
097:訴
頭を垂れてみづから死へと近づける薔薇の反意語なのか愁訴は
098:地下
咳払ひのこして父の留守電は切れたり孤独あふるる地下に
099:勇
誤植されし勇を舅となほすときわが歌に強き夏の陽の生る
100:おやすみ
おやすみはintroduction 初夏の椿のやうな夢をみごもる
地におちてなほうち伏せぬ夏つばき空にいかなる渇望やある
092:生い立ち
生ひ立ちを低く語ればゆつくりとわが血に翳る父とふ過去世
093:周
円周率しらざる半弧やはらかにそのなな色を風に溶きたり
094:沈黙
一杯のみづにも重さあるものを沈黙のうちに墓の背を拭く
095:しっぽ
尾をしきり振りつつ低く唸りをりしつぽで笑ふと詠まれし犬が
096:複
複眼のひとつひとつにこの秋をやきつけて逝けとんぼもひとも
097:訴
頭を垂れてみづから死へと近づける薔薇の反意語なのか愁訴は
098:地下
咳払ひのこして父の留守電は切れたり孤独あふるる地下に
099:勇
誤植されし勇を舅となほすときわが歌に強き夏の陽の生る
100:おやすみ
おやすみはintroduction 初夏の椿のやうな夢をみごもる