078:予想（丹羽まゆみ）

告げられし余命は予想　ゆふぐれの個室に苺タルト分け合ふ

077:針（丹羽まゆみ）

棒針に育つセーター菜の花の色の時間も編み込むやうに

076:あくび（丹羽まゆみ）

ぽかぽかとローカル線に運ばるる陽射しあくびを伝染させて

075:打 （丹羽まゆみ）

子の頬を打てば寂しきものとしてわが両脇に垂るる手のひら

074:水晶（丹羽まゆみ）

去勢され春を知らざる猫たちが水晶体にねむり映せり

073:トランプ（丹羽まゆみ）

誰もかもペアとなり得るトランプに残されてゆく婆の寂しさ

072:箱（丹羽まゆみ）

たんたんと日用品を箱詰めす持ち主だけがゐぬ病室に

071:老人（丹羽まゆみ）

還らざる友を想ふや満開のさくらに止まる老人（おいびと）の足

070:章 （丹羽まゆみ）

明日から着ない制服たたみゐて子は愛しげに校章はづす

069:カフェ（丹羽まゆみ）

春浅きカフェにアイスの虹色が壊されてゆくまでを見てゐつ