25 井戸の底のカエル
一回り以上、年上の知人がいる。友人というにはおこがましいので知人と友人の間に属するとしよう。
この方、すでに後期高齢者エイジに突入しているが単身まだ現役で美容師でご活躍されている。 週に数日、横浜の美容室に通い別の日には顧客の家に出張カットに出かける
10年ほど前には自分のサロンがあったがとある事情で閉店した。 その時、僕が内装設計をしたのだが色々あって施工業者さんにも迷惑を掛けたこともありそれ以来、僕のカットは生涯無料になった 女性の髪を触りながら艶やかな女性の声を聞いているのがとても心地よいのだという。 今まで大病もないようで現在の電車移動がたまたま健康にもいいらしく女性も好きでたまに好みの熟女をデートに誘うようだが・・・概して美容師さんはオサレさんで若く見えそして女性ぽいと思う。 会話しているとオヤジや老人といる気がしないのだ。
趣味はカンツオーネを歌って市民コンサートのような舞台に立ったり友人を作ってゴルフコンペに出かけたり積極的に人生楽しんでいるがゴルフはひどいものでまあ本人楽しければいいのだろうけど・・・ そんなゴルフの時には車をよく貸す、その時はコンビニで支払いできる一日800円の自動車保険にはいってもらうようしているが。 先日は新年早々1泊二日でパーティー&ゴルフコンペに行ってきたらしい、寒いのに元気ですね。
さて、話はここからファイン・・・ ゴルフの翌日にはよく、ラインで「オツカレーライス」とか「生きてますか?」とかふざけて生存確認の冷やかしメールするのだがなかなか既読にならない 翌々日は何度もコールした。 さては熱い浴槽で心臓麻痺か?まさかね?と思っても区内にいる娘さんの連絡先も知らないし。 そんな翌々日の夕方、ピンポン!! と鳴って美容師が訪ねてきた。 「スマホをどこかに無くして困っている。 家中探しまくったが出てない。帰りの道も探した。 だから多分借りた車内に落ちて居るはず??」ということだった。 でも車にはなかった。
自分の忘れ物癖はさておき他に心当たりはないかと聞いたら唯一持ち帰ったプーマのキャディバッグの底は見ていないが底に落ちるはずはないという。 そこで無かったら交番に連絡するようアドバイスした。 しかし家に固定電話はないからスマホがなきゃ電話もできないしね。
そのまま隣町のご自宅に送り届けたらまもなくスマホが鳴った。 果たして・・・キャデバの底にいたらしい。 ゴルフ帰りにスマホのホールインワンだ。 やれやれ、通話音量を下げていては鳴っていてもキャデバの底ではわからないはずだ。 井戸の底でじっと助けを待つカエルが思い浮かんだ。
僕は最低限の所持品が入る小型のサコッシュを首から下げるようアドバイスしたが持っていないというのでレンガ色のそれをプレゼントした。 もちろんホールインワンのお祝いのつもりだけどこのシャレご本人はわかっていないだろうなあ
(*サコッシュとは小さめなショルダーバッグのことです)
(2022.01.14 未発表)