日記 私の父 3
父は、例えば子供とキャッチボールをするといったような、遊び相手になりながら子供との関係性を築く、といった様な、所謂子育ては、ほとんどしない人でございました。
ただ、毎週日曜には子供たちを連れておもちゃ屋へ出向き、好きなオモチャを買い与えてくれました。
ファミコン以前のテレビゲームなんかも、近所ではうちにだけにしかなく、よく近所の子どもたちが遊びに来ておりました。
子供たちが欲しい物は、大概全て買ってくれました。
レストラン、食堂などへも毎週連れて行ってくれました。
父の散髪の際にも子供たちを連れて行き、待合室で散髪し終わるのを、私は楽しみながら待っておりました。
そこは家から歩いて5,6分ほどの、夫婦で営む理容院でございました。
蒸しタオルの熱い蒸気を飛すため、タオルに空気を入れる様。
その蒸しタオルを顔に当てがわれ、気持ちよくしている父の様。
白い陶器の器の中で、刷毛で泡を掻き立て、蒸しタオルを剥ぎ取って、顔にパタパタと泡を塗っていく様。
そうしていよいよ髭を、ジョリっと剃ってもらう。
子供ながらに、それがどれだけ気持ちの良いものなのか、私も髪はこちらで切ってもらっていたので、蒸しタオルの快感は、手に取るように、わかるのでございました。
また、そこの待合室には瓶の中に作られた、帆船の置物が飾ってございました。
同じく帆船が描かれた瓶のヘアクリームが幾つか並べられていて、父の髪にも付けるそのクリームの香りが好きでした。
重厚感があり過ぎる黒い散髪椅子。
適度に配置された観葉植物。
そんな光景を嬉々として眺めながら、父の散髪を楽しんだのでございました。