終わらざる夏
浅田次郎 集英社 2010年発行
占守島(しゅむすとう)という聞きなれない地名。
北海道、千島列島24島の、最北端の島、
カムチャッカ半島から数えると千島列島第一島です。
地図を見てびっくりの、最果ての島でした。
戦前は日本の領土だったのですね。
第二次世界大戦の終わりごろ、米軍がこの地に上陸して航空基地を作り
攻め入ることを恐れた日本は
満州から引き揚げさせた精鋭部隊をここに配備していました。
ここで終戦を迎えることになった軍隊でしたが
ポツダム宣言を受諾して降伏した数日後から、それを無視したソ連軍の攻撃が始まりました。
恐れていたアメリカではなく、敵は千島を取りに来たソ連でした。
日本の精鋭部隊ですから反撃して優勢だったものの、
敗戦国の兵士として捕虜になりシベリアに送られ
過酷な労働を強いられることになりました。
シベリア抑留とはこのように仕掛けられた
何とも腹立たしいものだったのですね。
日本が降伏したのに何故戦うのだと思いながらも
スターリンの命令に従わざるを得なかったソ連兵達は
日本の反撃にあっても負けて引き返すことも許されず、
千島列島を奪うためには多くの犠牲者を出すことが要求され
命を落としたソ連兵も哀れです。
上下の厚い本ですが、この戦闘部分は、最後に少し有るだけです。
そこに至るまでの太平洋戦争末期の市民の異常な国家総動員と、
召集される市民だけでなく、誰を徴兵するか決める立場の者の苦悩、
残される家族、地方に疎開するその子どもと
引率の先生などひとりひとりの心に寄り添って描かれている長編小説です。
そして年齢的にも身体的にも徴兵されるはずがないと思われた3人の市民が
徴兵されて占守島に送られてきます。
その3人とは
終戦処理の交渉のためにいずれ英語通訳として必要となるだろうと
本人には任務を明かされないまま徴兵された出版社に勤める翻訳家の片岡。
妻と晩婚のため小さい息子がおり学童疎開しています。
そして医師の菊池
何度も戦場に出て指を失い母親の元に戻っていた軍曹の富永の元にも
再び赤紙が届きました。年老いた母親をひとり残していかなければなりません。
片岡と富永は、無念な死を遂げ、
菊池はシベリアに抑留され過酷な環境の中で次々と命を落としていく兵士たちを
医者として看取っていきます。理不尽な仕打ちに怒りを爆発させながら・・・
はらはらしながら、みんな生き残ってほしいと願いながら読みましたが・・
戦争は二度としてはいけない。作者の思いがしっかりと伝わってきました。
いつも行く図書館で借りて読んだ本です。