遊月(ゆづき)の日々これ修行なり~

パワースポット研究家(おたる案内人)でセラピスト遊月のブログ
【パワースポットニッポン(VOICE)北海道担当】

光から生まれる~白石弁財天

2020-12-23 22:22:00 | 100物語【パワースポット物語】

【遊月100物語 その1】白石弁財天


鯉が池で跳ねた音で目を覚ますと、新緑の木々に覆われた階段を、ひとりの女性がゆっくりと降りてくるのが見えた。池に浮かぶ祠の女神に願かけにやってきた人だろうか。
私は池のそばの高い木の梢に腰掛けて、その子のことをぼんやり見ていた。
橋を渡り始めたとき、その子は突然こちらを振り返った。その子と目があったので、ああ、私が見えるのだと思った。
すると、「見えています」とその子が言った。
「ずっとここにいるのですか? 」

そう語りかけてきたがその意味がわからない。
ずっとここにいる?
わたしはずっとここにいたのだろうか。
そう考えた途端に、突然木々の緑が消えて、吹雪いている寒そうな風景に変わる。


粗末な玄関の隙間から雪が吹き込んで寒いので、私は幼い弟や妹たちと体を寄せ合って座っていた。
玄関でしゃがみ込んで母さんが泣いている。父さんは泣いている母さんのすぐ隣に立ち、上から母さんを叱っていた。
父さんと母さんの前に立っていた知らない男の人が口を開く。
「その子はね、ここで暮らすよりずっといい暮らしができるんだよ。
あったかくて美味いもんたくさん食えるし、綺麗な着物も着れるし、いい旦那さんにみそめられたら、夫婦になることもできるんだから。そしたらうんといい暮らしができるんだ。安心してくれや」

母さんは顔をあげて悲しそうな目で私を見た。
私は母さんに頷いて見せる。そのおじさんのいうことが本当なら、私はいっていいよとそう伝えるために。

それから私は家族と離れ、船と列車で遠い街まで来た。連れて行かれた先はおじさんの話していたいい場所なんかじゃなくて、故郷よりずっと寒い北の国だった。
美味しいものなんか食べられなかった。確かに少しは綺麗な着物を着ることができたけど、それだけだ。与えられた粗末な部屋と仕事をする部屋の往復で、心と身体がどんどんすり減った。そしてある日私は血を吐いて床に倒れてしまった。
人と会える場所にいただけ幸せだったと気付いた時はもう遅く、窓のない狭い部屋で寝たきりになった。

なぜまだ生きているのだろう。
目覚めて薄暗い部屋の天井を見ながら何度もそう思った。

ある朝目覚めると、私の周りを真っ白な光が覆っているのが見えた。動けなかったはずの身体をすいっと起こすことができた。
光りの中で起き上がると私はふらふらと外に出た。十歳で故郷をあとにしてから初めて建物の外に出た。
私は嬉しくなった。見てみたい景色があったから、あちこちふらふら彷徨っているうちに、強い光に誘われてこの池のほとりまで来たのだ。

池の中には真っ白な着物を着た綺麗な女神様が立っていた。
女神様は何か私に話してくれていたけれどその声は聞こえなかった。だけど優しい空気が私を包んでくれたから。私はずっとここにいたいと思った。その日からずっとここにいるのだ。

「そうだったんだ」その子がそう声に出したので、やっぱり声が聞こえていたのだと思った。
「いいえ、あなたの人生が見えてきたの」

何故かわからないけれど、その子に見つめられると心のどこかでほんの少し炎がともったみたいな明るさを感じた。よく見ると、その子の背後に女神様のような白い光がゆらゆら見えた。
「あなたの人生を見ていたら、ひいおばあちゃんの話を思い出したの。
若く死んじゃった私のひいおばあちゃんの家はとても貧しくて、食べるものも着るものもろくになくて、生きているのが大変だったって。だけど生まれてしまったから、生きるしかないんだといつもそう言っていたって」
その子の後ろの光は切なそうにもっと揺れた。まるで私に何かを語りかけているみたいだった。
「だからね、あなたには一日も早く成仏してほしい。空に登って生まれ変わって幸せになってほしい」

その子の言葉に私は驚いた。
成仏?
私は死んでいるというの?
そんなこと、考えたこともなかった。生きているのか死んでいるのか、そんなことどちらでも良かったから。

『空に登って』と言われた私は空を見上げた。
遠い昔、この場所に連れてこられる旅の途中で見上げた空と、同じ青い空だった。

ああ…、空が青い。それに…お日様が光っている。いったいどれくらい長い間お日様を見上げたことがなかったのだろう。
そう思った瞬間だった。

私の体はどんどんお日様に向かって上昇しはじめる。どこまでもどこまでも昇る。
池も小さくなりやがてあの子の姿が見えなくなった。
どこまでも昇っていくと、やがて真っ白い世界に着いた。雲の中にいるのかと思った。

「お龍(たつ)」

そう呼ぶ声がした。それはとても懐かしい声だった。
ああ、そうだ。私の名前は龍だった。
「みんな生まれ年をそのまま名前につけたんだ。そうしたら生まれた年のことは忘れないだろ」
父さんがそう言っていたっけ。
振り返ると母がそこに立っていた。離れ離れになった日と同じ姿のままだった。

「ごめんな。お龍。おいしいものをたらふく食わせてくれるって。きれいな洋服を着せてくれるって。そんなの嘘だって、ほんとうは違うって母さん知っていたんだ。だから本当に…ごめんな」
「だからここで私が昇ってくるのを、ずっと待っていてくれたの? 」
私の問に答えず母さんはただ泣いていた。私は母さんのところに歩み寄り、その手を握った。
「母さん、ずっと待たせてごめんね」
「お龍」
母さんが私を抱きしめてくれた。女神様が包んでくれた時よりも、ずっとずっと暖かくて柔らかだった。
「母さん、会いたかったよ」
そう声に出したら涙がどんどんあふれてきた。涙が頬を伝い、首から胸に落ちていく。涙が通ったあとはどんどんぬくもりが蘇る。
生まれ変わりたい。今度こそちゃんと生きて幸せになりたい。はじめてまた生まれてきたいとそう思えた。

「母さん」
母の顔を見て私は言った。
「母さんも早く生まれ変わってほしい。そして早く私を産んで」
母は驚いて目を見開いた。
「私またお母さんの子供に生まれたいから」

「お龍・・・ 」
母に強く抱きしめられながら、ああ、そうだ。こんな風に誰かのぬくもりを感じたいとずっと思っていたなぁと母の胸で静かに泣いていた。

白い光の中に美しい女神のような存在を見た。池の上にいた女神様だ。光が私たちを包みこむと、私の心の奥から暖かい光が溢れてくるのを感じた。自分の体が溶けていき、光の中に消えていく。
やがて母の姿が見えなくなった。そして光だけが世界の全てになり、私の意識も消えていく。
光の粒子の中に溶け込みながら幸せな気持ちでいっぱいになる。遠くに暗闇が見えた。でもそれは悲しい暗闇ではなく、どこか清々しくもある暗闇だった。その証拠に私は怖くなかった。

誰かの声がする。その声がする方に進んでいくと暗闇の遥か彼方に小さな白い光が見えた。その光に吸い込まれるように進むと最後の最後に暗闇が渦になり、その渦はどんどん狭くなった。少し苦しかったけれど、私はくじけなかった。あの先にもっと輝く場所があるとわかっていたから。

やがて小さな光は大きな光になり、とうとう光が世界の全てになった。
私はまぶしくて目を閉じた。

誰かが言った。
「生まれてきておめでとう」
あの子の声かもしれないと思った。だけどそれが誰だったのか、曖昧で思い出せずにいた。
「やっと会えたね」
優しくそうつぶやく母さんの声がして私は光の中で大声で泣いた。


※あくまでもわたしの創作なので、この場所がそのような場所であるということではありません。
哀しい人生を生きた女性を救ってくれるエネルギーを感じたことから創作したものです。
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