ルールーのお気に入り

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お気に入りをツラツラと…

『張込み』(野村芳太郎監督特集@東劇)

2005-09-15 20:23:59 | 恋する映画
刑事の下岡と柚木は、質屋殺しの主犯が逃亡した共犯者が別れた女に会いたいと漏らしていたという証言を聞いた。二人は、女がいる佐賀に飛び、さっそく彼女への張り込みを開始するが……。九州の果てまで凶悪犯を追って苦闘する刑事たちの姿を、スリルとヒューマニズムで描く本格サスペンス・ドラマ。心憎い心理描写とドラマチックな構成、そして豪華異色キャストも話題を呼んだ。(東劇パンフレットより)

原作/松本清張
出演/大木実、高千穂ひづる、田村高廣、高峰秀子、宮口清二
(松竹 1958年作品)



かれこれ1ヵ月前に観たのですが
まず最初は『張込み』から(^^;;;;;


質屋殺しのいまだ逃亡中の共犯者が、3年前に別れた女に逢いたがっていることを知り、今は佐賀の銀行員の後妻になった女を張るために東京から刑事が2人、列車で佐賀に赴くのだが…


張込み対象が一般人であることから、マスコミを避けるために、刑事たちはこっそりと夜行列車に乗るわけなんです。
列車の車内はクーラーもなくうだるような暑さ、さらに九州までの道程がいかに長いかを、各地の駅や風景を織り込みながらリアルに映し出して、いかにこの先の張込みが、猛暑の中での昼夜の別なく行なわれる苦闘に満ちたものかが窺い知れるというものでした。
(わたしは個人的に、同じように直角の椅子の夜行列車で神戸まで行って、のっけから疲れ果てて観光どころじゃなくなり、その後九州一周と貧乏旅行をした学生時代を思い出したりして、よけい辛さに共感してしまいました…苦笑)

列車のシーンから、現地で張り込みを開始して数日という前半は、本当にゆったりとしたペースで流れて、ときおり若い刑事柚木(大木実=なんとなく名高達郎に似ている)の個人的なエピソードなんかも織り込まれて、本当にサスペンスであることを忘れさせる感じです。

女の家の向かいの旅館での張込みシーンも、身分を隠している刑事たちと、彼等を怪しげに訝しがる女将や女中たちのやりとりがユーモラスで、なかなか情緒があって、なんとなく小津映画のような趣だったり、寅さん映画みたいなユーモアなんかも感じさせてくれます。


来る日も来る日も男は現れず、そろそろ諦めかける刑事たち。
一方同じような毎日を送り、ともすると不幸にも見える女。


本当に男は女に逢いに来るのか?
女もまだ男のことを思い続けているのか?
また、もし男が現れたら女はどうするだろうか?


じわりじわりと微妙に観客の興味をずらしていく展開で、物語はサスペンスではあっても、推理劇というよりはむしろこうした心理描写が巧みで、さしずめ心理劇的ヒュ-マンドラマの趣きです。

で、この、男が3年も前に別れたのに逢いたいと切望しているという、熱烈な恋愛対象であったはずの女=さだ子なんですが。
これがそんな情熱的な恋愛をしたとは思えないような平凡でどちらかというと地味で冴えない女で、高峰秀子さんがまんまのイメージで演じられているわけです。(^^;;;
(ダーリンなどは、この映画にそれほどハマれなかったのは、綺麗な女優さんが出なかったからだ、なんて言う始末^^;


ところが後半、柚木が1人で見張っている時にとうとう彼女が動き出し、一気にサスペンス色も強まっていきます。
そして不幸に見えたさだ子が、男に逢って抱き合い、本来の自分を取り戻したかのように生き生きとした表情になる…
その変貌ぶりが、ある意味この映画の見どころのひとつで、女優高峰秀子の本来の美しさが引き出されて見事ですね。

でも結局は男は逮捕されてしまう。
家を捨て、男についていく決心をしたさだ子だけど、柚木刑事は旦那が帰宅するまでに帰らせようとする。


たった数時間、再び心を焦がすような情熱的な時間を過ごすものの、はらはらと泣き崩れるさだ子…


張込みを通じてずっと見てきたさだ子の、女の哀しみを目の当たりにして、柚木の心に変化が生じるわけです。
最初に出てきた柚木の個人的なエピソードというのが、実は深い関係を持つ恋人がいながら、彼女の貧しい家庭事情や、他に条件のいい結婚話が持ち上がったりで迷っていたというものだったのですが、この一件で恋人との結婚を決意するのでした…



って、え゛?
オチはここに繋がるわけ?なのん??


終わり方がこういう終わり方だったので、ある程度内容を確認してから観たわたしは素直に「ああ、恋人よ、よかったね」で終わったのですが…
ダーリンはなんの予備知識もなく観たので、思わず拍子抜けしていたようでした…(汗)

でもたとえば
「さだ子はあの後、やっぱり家に帰るのか?」
というふうに、観る人の想像を膨らませる余韻を持たせた終わり方なのは、さすがは松本清張、野村芳太郎ですね。

『AERA』で横山秀夫さんが、
優れた短編は、歳を取ってどれだけ自分の心のヒダが増えたかを、確認できる。その意味でも再読の価値はあります。」
と書かれていたのですが…

心のヒダ
わたしもダーリンも、まだまだ少し足りないみたいです!(^^;;;


でも、特別大きな展開や出来事がなくともサスペンスは成り立つという、飽きさせない巧みなストーリー展開は素晴らしかったです。



・・・そんなわけで
ルールーのお気に入り度
★★★★★★☆(65点/100点満点)
※内容を知らずに観ると、終わり方とか拍子抜けするかも?(^^;;;;;
でも、情緒があって、雰囲気はなかなか好み♪


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
TBとコメントありがとうございました。 (アスカパパ)
2005-09-16 09:40:13
はじめまして。

ルールーさんの鑑賞文も拝読しました。見事な文章表現に感服しました。

東京では野村芳太郎特集上映があるのですね。さすが首都!

彼の監督作品では、『砂の器』も良かったです。

松本清張をして「原作を上回る映画」と言わしめたエピソードも頷けます。

では、今後もよろしくお願いいたします。
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アスカパパさん♪ (ルールー)
2005-09-16 11:41:05
いらっしゃいませ、コメントありがとうございます



>東京では野村芳太郎特集上映があるのですね。さすが首都!



『砂の器』のデジタルリマスター版の公開の後、野村監督の追悼の意味も兼ねているのだと思うのですが、同じ東劇という映画館で1日2作品ずつ、3週間に渡ってのべ13作品公開されたんですよ。

でもこんなことしてくれるのはこの映画館だけです。

ここはこういう、他ではやらないような上映をしてくれるんですよね。

『ロード・オブ・ザ・リング』の完全版などもやりましたし。



『砂の器』はわたしも、今年観た映画のベストワンです

こちらこそよろしくです~
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