探し物は・・・

何かを探して見つからない時、悲しくなるけれど
探すものがあるって、それだけで、すてきなこと 

消えていくもの

2007年08月30日 | Tea

横浜で保存運動が行われていたストロングビルが、その甲斐なく取り壊しになるそうですね。『リターナー』ミヤモトのアパートとして武迷さんの間では有名なビル。今年3月に初めて連れて行っていただいたとき、撮影時そのままの雰囲気が残っていて感激しました。今にもミヤモトが出てくるんじゃないかと、裏口ばかり注目してしまいましたが・・・。通りに面した表は時代を感じさせる端正な造りで、並木の春の新緑に映えていました。
こういう建物がなくなってしまうのは、ほんとうに寂しいですね。日本は、木造住宅では古いものがよく残っているのに、ビルとなると、寿命が短いように思います。配管や配線の修理や変更が難しいからでしょうか。
今週末に見学会があって、自由に参加できるようです。きっと、内部も見せてもらえるのでしょうね。ミヤモトの代わりに、たくさんの武迷さんが訪れることでしょう。

私の周りでもうひとつ、消えていくものがあります。
時々、一人でお茶を飲みにいったお店です。東京に来て初めて一緒に仕事をした人から教えてもらったお茶の専門店。メニューには中国茶だけでなく、ネパールやイランのお茶も並んでいました。地下鉄の駅前で交通量の多い通り沿いですが、地下ということもあって、外の喧騒が嘘のように静か。店内はオーナーご夫妻のこだわりが随所に見られます。テーブルが古い民家の引き戸だったり、山寺の門のような鋲を打った分厚い板のついたてがあったり。また、照明は全て手作り(竹かごをかぶせたものや、糸巻きに電球を載せたもの、ただ和紙でくるんだだけのものもあります)の間接照明ですから、店内は隅のほうには光の届かない、ほどよい暗さで落ち着けます。
初めての時、手書きのメニューに並ぶお茶の名前がどれも知らないものばかりで、戸惑ってしまいました。オーナーに「おすすめのお茶は?」と聞いたら、「そんなものはありません。ご自分でこれと思うものを選んでいただかないと。私とあなたとでは好みが違うんですから」とはっきり言われてしまいました。そして、メニューの上から順番に、その産地と特徴の詳しい説明が始まりました。その語り口はまるでワインのソムリエのようで、聞いているほうはわかったようなわからないような。最後まで聞いたものの、「さぁ、どれにします」と言われても頭の中は新情報でグチャグチャ。一番シンプルな名前のものという妙な理由で「白茶」を選びました。一体どんなものが出てくるのか、興味津々で待っていたら、ものすごく薄い色のお茶が登場。まだ出ていないんじゃないのと思いながら一口飲むと、えっと思うほど豊かな味わいです。日本茶のような濃い、薄いという表現は合わないと思いました。ほのかに甘味が残るお茶を、サンザシのお茶うけとともに楽しみました。
この白茶、とても気に入ったのですが、毎回行くたびにわざと違うものを注文しました。だって、オーナーはメニューのお茶一つ一つに違う表現をしたんですから、全部飲んでみたくなります。といっても、数ヶ月に一度の楽しみでしたが。
数年後、久しぶりに訪れてメニューを開けると、白茶が消されています。オーナーに理由を尋ねたら、「いい茶葉が手に入らなくなったから」という答え。その後も、メニューから少しずつお茶が消えていきました。それとともにオーナーの元気もなくなっていくような気がしたものです。
そして、この夏、とうとう閉店の知らせを聞きました。店内のものを全て売りつくすことにしたというので、もうお茶は飲めないけれど、足を運びました。


入り口の看板も地下に下りる階段もまだそのままですが、店内は、壁を飾る額や、テーブル、いすも数が減って、ガランとしていました。他には誰もいなかったので、ゆっくり見て回り、いくつか残った茶壷のうちの一つを選びました。


そのうち、奥からオーナー夫人が出て来られたので、並べられた茶器のことや、店内の装飾について少しお話を伺いました。そして、初めてのとき飲んだ白茶が忘れられないと言うと、ため息を一つついて「そうね、もう、あれだけのお茶は手に入らなくなってしまったのよね。中国は目先の発展に気をとられて、どんどんダメになってる。いいお茶もできなくなってしまって・・・」。お茶の産地としては台湾のほうが主流かと思っていたのですが、「台湾の生産量は限られているから、とても間に合わない。ほんとうにいいものは回ってこないんですよ。でも、まだ台湾産のものは安心して飲めますよ」とのことでした。
自分たちの納得できる茶葉が手に入らなくなってしまったから、店を閉めるというオーナーご夫妻。最後までこだわりを捨てない姿勢が潔いです。でも、中国に惹かれ、関わりを持ち、がんばってきた方が、その国に裏切られたように感じ、がっかりしている姿を見るのは辛いです。いつかまた、その想いがプラスの方に向きますように。
こちらにまだHPが残っています(看板犬ゆきちゃんの写真もありますよ)。


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2 コメント

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淋しいですね・・・ (ponちゃん)
2007-08-30 15:48:03
時の移ろいは仕方ない事とはいえ淋しいですね・・・。
やはり近いうちに横浜方面散策してきます。

今日新聞に小さくチャン・チェン来日の文字が。
「呉清源」の記者会見?で昨日来日され呉清源さんも同席されたそうです。
トニーさんはアン・リー監督とヴェネツィア映画祭に「色・戒」で乗り込んでいらっしゃるし
「赤壁」組のキャストが世界中に出かけている感じ。
ジョン・ウー監督のご苦労はいかばかりか・・・。

茶楽さんの閉店残念ですね。
昔はこだわりのある喫茶店て多かったですが
大きなチェーン店やファーストフードが全盛。
でも素敵な茶壺が思い出と一緒に残りましたね。
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ジョン・ウー監督、ファイト! (ゆきんこ)
2007-08-30 23:32:22
ponちゃんさん

トニーさん=ヴェネチア、
チャン・チェンさん=日本
もしかして、金城さん=日本(アフレコ)?
「ジョン・ウー監督、めげないでね」と応援したくなります。
映画はほんとうに身を削ってつくられるものですね。

この夏『呉清元』の予告に何度か出会いました。
金城さんも名前のあがっていた役ですが、
痛めた膝では正座は辛かろうと、予告を見ながら、
思っていました。。
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