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lightwoブログ

競馬のスポーツとしての魅力や、感動的な人と馬とのドラマを熱く語ります。

夢浪漫から桜可憐へ

2005-07-18 21:38:58 | 感動エピソード
本日は先週に引き続き、またサラブレッドのセリが行われた。
たまたま、グリーンチャンネルの中継を観ていたが、先週行われたセリとは全然違う。

眼も眩むような良血馬もいなければ、億単位の値段もない。
あのセールが異常であって、本来のセリのイメージはやはりこういう感じである。
それでもある程度選別された馬たちなので、中々の血統が並んでいる。

セリが始まると次々と落札されて行く。
やがて、全ての馬に値がつき落札されて行くのに違和感を感じる。
落札率100%のセリなどあるわけがない。

そういえば、このセリにはお台が無い。
よって、売却申込者もセリに参加し、希望の値段以下で落札されないように値段を上げる。
そのまま、売却申込者が落札してしまった場合が主取となる形式か。

しかし、見ていても落札されたのか主取なのか全くわからない。
非常にわかりにくいこのシステムはどうにかならないものかと思ってしまう。

やがて、大声で「よろしくお願いします」と挨拶をする売却申込者が現れる。
順番の回ってきた馬は、北海道静内農業高校の生産馬と紹介される。
そうか、あの馬の妹か。

今年、中央競馬の新馬戦を勝ったあの馬。

静内農業高校の生徒たちがサラブレッドを生産するようになったのは、1999年から。
学校と隣接する牧場から繁殖牝馬を譲り受けたのがキッカケだったのだという。

いくら農業高校とはいえ、そこには大きなハンデもあった。
繁殖牝馬が1頭しかいないために、毎年“1人っ子”になってしまうという点だ。
競走馬というのは通常、5~6頭で放牧すると闘争心が身に付き、筋肉も発達するのだが、彼らの育てる馬はそれができない。

そんなハンデを乗り越えて、中央のエリートたちを相手に、見事新馬勝ちを収めた。
馬名は生徒たちの公募によって付けられたらしく、名前のとおり生徒たちの夢を乗せてこれからも活躍してほしいと切に願ってしまう。

妹は無事落札され、「ありがとうございました」という元気な声が会場に響き渡った。

美しく儚い者達

2005-07-17 23:34:58 | 感動エピソード
本日の私のメインレース、新馬戦。
パドックで初めて見た、私のお目当ての馬は母を彷彿とさせた。
牝馬には見えないガッチリとした体躯。
気合の乗った二人引き。
何もかもが母親に重なり、近いようで遠い記憶を刺激し胸を熱くする。

返し馬では、首を上げ気味に時折イヤイヤと首を振る。
お母さんに似てヤンチャな姿に思わず目を細める。

ファンファーレが鳴り、いよいよゲートイン。
最後のゲート入りで、メンコを外した姿が映し出される。
その素顔は、とても母親似で誰が見てもあの馬の仔だとわかるだろう。

大外枠から抜群のスタートを決めたその馬は、そのまま先行馬群の外につける。
母の気性から折り合いが心配だったが、行きたがる素振りもなく上手く先行している。
だが、3コーナーを回ったところで馬群に異変が起こる。
全体的にスピードが緩む感じで馬ごみが混乱する。
外にいたこの馬もズルッと一気に後ろに下がったように見えた。

後にパトロールビデオで見ると、最内の馬が外によれた影響で次々にその外の馬が不利を受け、大外のこの馬までその波が達していた。
外ラチ近くまで大きく振られて、そのままコーナーを回る羽目となる。
距離損だけでも5、6馬身はくだらないだろう。
何より、内の馬に邪魔されあれだけ外に寄れざるを得ない不利。
レース経験の無いこの馬が、この時点で嫌気が差してしまう恐れもあった。

だが、大外から懸命に前の馬を追いかけた。
あれだけ外を回って脚を使ったので、もはや余力は無い。
抜け出した内の馬とは、走った距離が全然違うだろう。
それでも諦めず頑張って、4番手でゴールを駆け抜けた。

勝てなかったが、一生懸命走る姿を観られて私は満足だった。
何より無事にレースを終えられてホッとした。


やがて全レースが終了した後、私は府中に向った。
夜空の下の東京競馬場。
そこには疾走するサラブレッドの姿は無い。
人が大勢集まり、中には浴衣姿の女性もいる。
今日は一年に一度の東京競馬場花火大会。
JRAでも大っぴらには宣伝せず、府中市民以外にはあまり知られていない。

かくいう私も昨晩まで知らなかった。
ひょんなことからこの事実を知った私はぶらっと一人でここに訪れた。

一説によると日ごろ迷惑をかけている地域住民の方に対する感謝の気持ち。
アナウンスをすると東京近郊の人が集まり混雑してしまい、その意味合いからずれてしまうかららしい。
確かに、私も競馬場のすぐ近所に住みたいとは思わない。
大混雑。大歓声。マナーの悪い客の捨てるゴミ。
このくらいでは足りないだろうが、少しでもその気持ちを見せる姿勢に好感が持てる。

競馬場で花火というのは言われてみると、なるほどと思った。
空を隠す高い建物はないし、多くの人を収容できるその施設。
さらに、普段実況などを流している音響設備も使える。
これほど、花火にうってつけの場所はないだろう。

G1レースのような人たちが見守る中、高らかにG1ファンファーレが流れる。
それと共に、夜空に鮮やかな光の華が咲き乱れる。
あまりに美しく儚く消える、夜空の光景にサラブレッドの姿が重なる。

疾走する姿は人の心を魅了するほど美しく、その競争生活は儚いほど短い。
闇夜に浮かぶひと時の光景は競馬そのものだった。

ある厩務員の物語

2005-07-08 23:46:56 | 感動エピソード
日本調教馬、初の米G1制覇を成し遂げた馬がレースから引き上げてきたとき、出迎えた調教助手は涙にくれていた。
その姿は号泣といっても差支えがないほどだったという。
厩舎関係者の中でも調教助手や厩務員は毎日馬と接しているだけに、こういう瞬間の喜びはひとしおだろう。

この話を聞いて、ある男の事を思い出し本棚の「馬と人、真実の物語」という本をまた取り出した。
そこに書かれているある馬と調教厩務員の物語。

その馬は2歳牝馬チャンピオン。
男馬と見間違うほど立派な体躯とカッとしやすい性格の持ち主。
そんな我がまま娘を温和な厩務員はやわらかく包むように献身し続け、結果2歳牝馬チャンピオン決定戦に勝つことができた。
だが、ある日その厩務員が倒れて、そのまま帰らぬ人となってしまう。

亡くなった厩務員と気心の知れた仲だった男にその馬は引き継がれる。
だが、思った以上に凄まじい気性のその馬は手に負えなかった。
目を吊り上げ噛み付いたり、立ち上がったり…
腫れ物に触るようだった。

そんな状態で迎えた3歳の緒戦。
向こう正面で激しく口を割るほどの気性の悪さをだして敗れてしまう。
あんな姿は今まで見たことがない。
厩務員は青ざめた。
その結果に打ちのめされ、日々の、そしてレースでの抵抗の理由を考えた。

自分を優しく呼ぶ声も
鼻面を撫でてくれた肉厚の手も
ある日突然、目の前から消えてしまったのだから
どうして…

理不尽な思いを新しい担当者にぶつける他なかったのだろう。

その晩から厩務員の居残りが始まった。
夜もふけた人気のない厩舎で、燃えるような牝馬に何度も抱きついた。
かじられても、蹴られても…
厩務員は気長にそれを続けた。

無理もないよな…
突然人の手が変わったんだ
ショックだったよな

いたわるような気持ちでやさしく抱きしめた。
その手を何度跳ね返されても、辛抱強く抱擁を繰り返した。

そんな努力を続けていたある晩。
上着のポケットをその馬がまさぐり、ニンジンをくれと鼻を鳴らした。
あんなにつり上がっていた目が、まん丸になっていた。
厩務員は嬉しくて、なんともいえず頬を寄せた。
それはお互いに甘えているようだった。

やがて迎えた樫の舞台。
あの激しい牝馬が鞍上と折り合い、鋭い末脚で先頭に踊り出る。
そして、後続を引き離しゴール板を駆け抜けた。

馬房に戻れば自分の後ろをついて歩くようになった。
だいぶ俺に親しんでくれたのかな
3歳牝馬の頂点を極めた喜びばかりでなく、胸が熱くなった。

その牝馬は結局5つのG1を勝つことができた。
だが、なにより無事牧場に帰すことができてなにより嬉しかった。
亡くなった気心の知れた先輩厩務員も一番それを喜んでくれているだろう。

その厩務員は定年までまだ十年以上の猶予がある。
あの馬にそっくりなやんちゃ娘を扱うのが、ひそかな願いになっている。

夢の溢れる血統

2005-07-03 19:03:35 | 感動エピソード
血統。
競馬が他のスポーツと大きく違うところはここだろう。
自分の好きだった馬の仔を応援する。
親の無念を仔が晴らす。
この将来の楽しみがあるから、競馬を観続けてしまう。
そして、見続けることで楽しみの奥行きが増してゆく。

最近では現役時代に活躍した馬の仔が走るようになってきた。
だが、昔は輸入種牡馬に押され内国産種牡馬はほとんど成功しなかった。
一時代を築き上げた、芦毛の怪物と言われたアイドルホースでさえも。

しかし、つい先日その馬の仔の話を久々に聞いた。
あのアイルランドの、いや世界の名門牧場クールモアスタッドでその仔が生まれたと言う。
そして、その母馬も血統のロマンが溢れる血筋の馬だった。

流星の貴公子と言われた、稀代の悲劇の馬。
この馬は祖母の代から血統のドラマに溢れている。

繁殖に上がったその馬は突然伝染病の疑いをかけられる。
その病気の馬は殺処分にされてしまう深刻な病。
だが、関係者は診断に疑問を持ち、偽の死亡届を出し密かに匿う。
裁判まで起こし、冤罪を晴らした時に生まれた仔が流星の貴公子の母馬。

その馬は一族の名誉を晴らすように活躍した。
そして、母が2着と敗れた桜花賞を勝利するのだった。
その馬の血を引いている馬が母馬。

この悲劇の血統を復活させるために、世界的名種牡馬が数多く繋養されているクールモアに運んだと言う。
海外へ運ぶ前に種付けした仔が芦毛の怪物だった。
そういう話らしい。

生まれた仔はクールモアで、なかなか高い評価を受けているようで、2年後は日本でデビューする予定。
この馬がもし大活躍したら。
父が出走できなかったクラシックを制したら。
なんてことを考えると、今からワクワクしてしまう。
また、先の楽しみが増えた。

だから、競馬を観続けてしまう。
やっぱり、競馬は止められない。

遅咲きの友

2005-07-02 18:07:02 | 感動エピソード
数日前、3年前のダービー3着馬が亡くなったという記事を目にした。
レース後の上がり運動中に心不全を起こし突然倒れたという。
この記事を読み終えた後ある馬を思い出し、本棚の「馬と人、真実の物語」という本を取り出した。
そこに書かれているある馬の物語。

その馬はフランス生まれ。
セリに出かけた調教師が惚れ込み、日本で競争生活を送ることになった。
血統、馬体、動きどれをとっても大器の予感を思わせる馬だった。
だが、体質が弱くなかなか思うように調教をつむことが出来なかった。
そんなこの馬を厩務員は懸命の努力でケアし続けた。
調教師は馬の体質が本当に強くなるまで、使いたい大レースも我慢し何度も休養させた。

そんな努力が実ったのはこの馬がすでに7歳となったとき。
レース直前の追い切り後、蹄に熱を持ち厩務員は24時間湿布で脚元を冷やし続け何とか出走に漕ぎ付けた。
馬を立て直したい。
そんな厩務員の半端ではない献身に応えるように、とうとう初めての重賞を勝った。
調教師は運命の瞬間を待つように声を押し殺して勝利を祈っていたと言う。
馬は死ぬほど自分たちのために走ってくれるから、これ以上頑張れなんて言えない…
そんなことを想いながら。
それぞれの切ない思いがあの馬に通じた。
その年、この馬はあと2つ重賞を勝った。
弱かった若馬は、7歳になって重賞3勝馬に出世した。

季節は巡り8歳の秋。
ここまで勝てないまでも順調にレースを使っていた。
年を重ねたせいか、道中で息が抜けるようになってきている。
そんなことから、重賞アルゼンチン共和国杯に出走することに決まった。
結果、スピード馬といわれていたこの馬が長距離戦で4着に逃げ粘った。
レース後、いつもと違うこの馬の仕草や、精も根も尽き果てたような顔色に調教師も厩務員も不安を覚えた。
だが、この馬は安全に騎手を下馬させ、地下馬道まで戻ってきた。
その直後、トモから崩れ落ちる様にこの馬は倒れた。
急性心不全で亡くなった。

それから数日後、美浦トレセンで供養が行われた。
あいつはあんな思いをしながら、俺の傍らまで戻って来てくれた。
厩務員は6年も一緒に暮らした無二の相棒なんだと感涙せずにはいられなかった。
調教師はフランスで出会った仔馬に人生の思い出を調教師としての財産をたくさん与えてもらった。
馬の見方も、我慢することも…

厩舎の小さな庭に立てられた石碑に調教師は迷わずこう刻んだ。

友ダイワカーリアン


真摯な馬を思い出しては、人々は今日も目の前の仕事に励んでいる。

風のシルフィード

2005-06-16 23:01:06 | 感動エピソード
原点。
辞書でその意味を調べたら「そこから物事が出発した、基本となるところ」と書かれていた。
私の競馬の原点は一冊の漫画だった。

友達が持っていたその漫画。
面白いから読んでみなと言われて手に取ったが、正直あまり読みたいとは思わなかった。
なぜなら、それが競馬の漫画だったからだ。

そのときの私が抱いていた競馬のイメージはギャンブルということしかなかった。
馬券を握り締め、赤鉛筆を耳に挟んで、新聞を丸めて、大声を出すおっさん。
競馬という響きからは、そんな想像しか出来なかった。
だが、この漫画はそんな想像とは全くかけ離れたものだった。

始まりは小さな牧場。
その牧場の子供は仔馬が生まれるのを楽しみにしていた。
母馬はその子が幼い頃に一緒に遊んだ仲良しの馬。
競走馬になるために一度牧場を離れたが、母となるため生まれ故郷に戻ってきた。
その馬の初仔がもうすぐ生まれる。

やがて出産を迎えるのだが、酷い難産となる。
何とか仔馬を引っ張り出した時、母馬は力尽きてしまった。
母馬の命と引き換えに生まれたその仔馬。
だが、その仔馬は生まれながらに重度の屈腱炎をわずらっていた。

こんな馬は競走馬になれるわけが無い。
そんな理由でその仔馬は処分されそうだった。
それを必死で止めたのが牧場の子供。
自分も母親の命と引き換えに生まれてきた。
その馬と自分は一緒じゃないかと、父親に訴えて。
その叫びが通じて、仔馬は競走馬を目指すことになる。

この最初の第一話だけで、私の心は引き込まれてしまった。
当時、競馬で走っている馬の生産者のことなど考えたことも無かった。
一頭の馬にこれほどの想いが、願いが込められていたのかと、目から鱗が落ちたような気がした。
そして、競馬に対する見方が180度変わった。

それからの展開も熱く感動的だった。
ライバルとの死闘。
大レースの前のアクシデント。
馬と騎手との絆。

競馬というものは馬と人とが織り成すドラマ。
この漫画は私にそれを教えてくれた。

私はこの漫画に出会えて幸運だったと思う。
もし、あのときこの漫画を読まなかったら、今頃いったい何を楽しみに生きているんだろう。
今の自分には想像もつかない。

馬なり1ハロン劇場「Smile…」

2005-06-15 22:15:27 | 感動エピソード
漫画を読まなくなったのはいつの頃からだろうか。

少なくとも、学生時代は毎週数冊の漫画雑誌を読んでいた気がする。
きっと、忙しく働くなった頃から切り捨てた色々なものの中に漫画もあったのだろう。
だが、週に4ページだけ、今でも読んでいる漫画がある。
それは競馬の漫画である。

ちょうど私が競馬を覚えた頃に始まったので、考えてみるとかなりの長期連載である。
この作品を知ったきっかけは何だっただろうか。
馬を可愛いイラストで描いているのを見たのがきっかけだった気がする。
でも、実際に漫画を読むと、その絵よりも内容に惹かれてしまった。

基本的に毎週のレースがネタになっている。
登場人物はそのレースに出走した馬たち。
その馬たちが作者によりキャラクター付けされ、しゃべったり、笑ったりする。
時に、調教師や騎手も登場するが、あくまで主役は馬たち。
レースの結果を受けて作者がコミカルにストーリをつける。
たった4ページの漫画である。

例えば、ある牡馬と牝馬が毎回同じレースに出走して、1着2着になったりする。
作者はこいつらできてるんじゃないのと勝手に想像し、馬のキャラクターにあわせてストーリーを作る。
このストーリーとキャラクター付けが絶妙で、私もその漫画になった馬のファンになってしまったほどである。
漫画に出てきた馬が次のレースで、時に作者の思う壺となるような結果が出たりすると、果たしてどんな漫画にしてくれるのかとても楽しみになってくる。
競馬好きにはたまらない漫画なのである。

基本的にはコミカルなのだが、ときにホロリとさせる内容のときもある。
その中でも、私が思わず涙を流してしまった話がある。

その話は、ダイヤモンドステークスが基になっている。
その数日前に、厩舎火災が起こり何頭かの馬が犠牲になってしまった。
犠牲になった馬と同厩舎の馬が、そのレースに出走した話である。
この回は無声映画ならぬ、無声漫画に仕立てて、台詞はたった一言のみにしている。

主人公はユーセイトップラン。
最近は年齢のせいか、レースでは不振が続いていて、落ち込んでいた。
それを慰めてくれていたのが同じ厩舎のエガオヲミセテ。
名前のとおり、いつも笑顔の明るい子で何度も「Smile、Smile」とトップランを元気付けてくれていた。

だが、今はその姿はもう無い。
先日の、厩舎火災に巻き込まれてしまったからだ。
そんな彼女のことを思い出してはため息をつくトップランだった。

だが、もっと落ち込んでいたのは自分たちの調教師だった。
肩を落とした調教師の姿を見て、トップランは今度は自分が元気付けようと思い立つ。
レースで良い走りをすれば、調教師も元気になるに違いない。
そう考えたトップランは今週のダイヤモンドSに出走させてくれるように調教師にお願いをする。
だが、調教師は最近の不振や年齢を理由に、なかなか首を立てに振らない。
それでも、トップランは粘り強く説得し、調教師は渋々出走に了承するのだった。
レースに向けて、トップランは一生懸命に調教をこなした。
いつも元気付けてくれたエガオヲミセテのために。

そして、ダイヤモンドS当日。
調教師はレース中もあまり期待せずに、トップランの走りをぼんやりと観ていた。
だが、直線に入りトップランが先頭に立つとビックリしてその走りに注目しだす。
トップランが先頭でゴール板を駆け抜けたとき、調教師は嬉しさのあまり涙を流す。

レースを終えたトップランは、そんな調教師に一言声をかける。
「エガオヲミセテ」
そして、一人と一頭は笑顔で勝利を喜び合うのだった。

「Smile…」とタイトルがつけられたこの話は、今も思い出すだけで胸に熱いものがこみ上げてくる。
それくらい、史実と内容とがマッチした素晴らしい作品に仕上がっていた。

この漫画を読むと、作者は本当に馬を心から愛していることがヒシヒシと伝わってくる。
だから、この漫画は今でも切り捨てずに読み続けているのかも知れない。

シンデレラストーリー

2005-05-17 23:24:00 | 感動エピソード
樫の季節になると思い出す馬がいる。

その馬は抽選馬だった。
その響きだけで、地味な印象をあたえるが、メンコを被ったその見た目も地味だった。
だが、そんな地味な馬も競馬になると、違っていた。
快速の逃げで、連戦連勝。
無敗の5連勝で桜花賞トライアルを制し、桜の女王の最有力候補に躍り出た。

華やかな印象のある桜花賞。
ここで無敗の女王となれば、もう誰も地味な馬とは言わなくなるだろう。
しかし、運命のいたずらか、スタート前に落鉄してしまうアクシデントに見舞われる。
結局、蹄鉄の打ち直しができずに、裸足のままで桜花賞のスタートを迎える。
それでも、必死に無敗の女王を目指し走ったが、勝つことはできなかった。
勝ったのは、天馬と呼ばれた馬を父に持つ名血で、綺麗な栗毛の馬だった。
ここまで3戦全勝で、こちらが無敗の女王となった。

続いて迎えたオークス。
短距離をスピードに任せて逃げてきたこの馬には、ただでさえ2400mという距離に不安があった。
だが、さらに運命はまたこの馬に試練を与える。
逃げ馬にとっては致命的な、大外枠の20番枠。
そんな状況では、もうこの馬に注目する人も少なくなる。
この日最も注目を集めていたのは、華やかな感じのする、無敗の桜の女王だった。

大多数の人間が無敗の二冠馬の誕生を期待する中、ゲートが開いた。
飛び出したのは、前走裸足で駆けた馬。
大外枠だろうが、2400mだろうが、今まで逃げて勝ってきた。
そんな意地さえ感じるような、果敢な逃げを打ったのだった。

どうせ、距離がもたずにそのうちバテるだろう。
直線であっさりと差されるんじゃないか。
誰もがそう思っていた。

だが、直線入っても粘り続ける。
一向に下がってくる気配はない。
このまま逃げ切ってしまうんではないか。
そう思ったときに、大外から鋭い脚で迫ってくる馬がいた。
無敗の桜の女王だった。
そして、ついに捕らえたと思った瞬間、そこがゴール板だった。

ほとんど鼻面を並べてのゴール。
見た目ではわからないほどの際どい勝負。
写真判定にゆだねられることになる。

大外枠からの見事な逃げ。
それに迫った猛烈な末脚。
どちらが勝ったにしても、素晴らしいレースだったことは間違いない。

写真判定の結果、桜の舞台で靴を履き忘れたシンデレラが、靴を履いた樫の舞台で、女王の称号を手にした。

約束

2005-05-07 22:58:00 | 感動エピソード
ふと思い出した話がある。

ジャパンカップ。
近頃では、日本馬が勝って当たり前、外国馬は掲示板に載れれば好走したという時代になった。
だが、創世記の第1回、第2回ともに外国馬に上位を独占され、日本馬は10年は勝てないと言われていた。
そして第3回、その年は19年ぶりに三冠馬が誕生した年だった。
しかし、ジャパンカップへの出走を取りやめ、記者会見で外国人記者に詰め寄られた。
なぜ、日本の最強馬が出走しないのかと。

だが、ある調教師はこう応えた。
日本最強馬は出走している。
それは、その年の秋の天皇賞を制した馬の調教師だった。
その馬に騎乗する騎手も勝ちに行くと宣言した。

そして、レースではその言葉どおりのものとなる。
直線で、その日本最強馬と外国馬との壮絶な叩き合いとなった。
ゴールでは頭差だけ外国馬が先着していた。

レース後、その日本最強馬は左前腱断裂で競争能力喪失となった。
騎手はゴール手前で力が抜けてゆくのがわかったそうだ。
でも、馬は走るのを止めなかった。
その騎手は、故障さえなければ勝てたのではという問いに対し、ただ一言こう答えたという。

勝ちたかった。

心からの言葉のみ相手の心に届く。
そんな言葉を思い出したとき、この一言が思い浮かんだ。

地方のお話

2005-04-29 23:42:00 | 感動エピソード
地方競馬は中央と違って、競馬場の雰囲気は鉄火場というようなイメージがあった。
そこにいる客はただのギャンブル好きと思っていた。
しかし、こんな話を聞いたとき、その考えは変わった。

地方競馬、宇都宮の最強牝馬の話。
その馬は地元では無敵の強さを誇り、北関東クラシック三冠に輝いた。
地元以外のレースにも果敢に挑戦し、大井競馬場の交流重賞、東京盃では中央のエリート馬、地元南関東の馬たちを抑えて見事に勝利し、その年のNARグランプリ年度代表馬に輝いた。
そんな凄い馬でも調子を落とし勝てなくなることがある。
そんな状態で、地元のレースに出走したときのこと。

そのレースでは、今まで主戦として乗っていた騎手が、他の馬に乗っていた。
すると、パドックでその騎手に対して、なぜ他の馬に乗っているんだというヤジが飛んだ。
パドックでそんなヤジが飛ぶなんて聞いたことが無く、表現は悪いがその馬への愛情が感じられ心が熱くなる。

結局、そのレースは人気になりながら惨敗してしまった。
だが、レース後のその馬に対しては汚いヤジなど一切飛ばずに、労いの言葉と拍手で迎えたという。
みんなその馬の馬券を勝って、損しているはずなのに。

そんな人たちが単なるギャンブル好きなわけが無い。
地方競馬も、やはり心から競馬が好きな人たち支えている。
競馬好きの人間は、自分と同じような人たちは、いろんなところにいるんだと、なんだか嬉しくなった。

しかし、その宇都宮競馬場は今年の3月に廃止となった・・

競馬の真の面白さというものは、未だに世間一般的にはなっていない。
もっと、いろんな人に競馬の楽しさ、感動を知って欲しいと思う。