古事記 下つ巻 現代語訳 四十八
古事記 下つ巻
天語歌
書き下し文
尓して大后、歌ひたまふ、其の歌に曰りたまはく、倭の この高市に小高る 市の高処新嘗屋に 生ひ立てる葉広 ゆつ真椿其が葉の 広りいまし其の花の 照りいます高光る 日の御子に豊御酒 献らせ事の 語り言も こをば天皇歌ひ曰りたまはく、百石城の 大宮人は鶉鳥 領巾取り掛けて鶺鴒 尾行き合へ庭雀 うずすまり居て今日もかも 酒みづくらし高光る 日の宮人事の 語り言も こをば此の三つの歌は、天語歌なり。故豊樂に、其の三重の婇を譽めて、多の祿を給ふ。
現代語訳
尓して、大后(おほきさき)が、歌いになられて、その歌に、仰せになられて、
倭の この高市(たけち)に
小高る 市の高処(つかさ)
新嘗屋に 生ひ立てる
葉広 ゆつ真椿
其が葉の 広りいまし
其の花の 照りいます
高光る 日の御子に
豊御酒(とよみき) 献らせ
事の 語り言も こをば
天皇が歌い、仰せになられて、
百石城の(ももしきの) 大宮人は
鶉鳥(うづらとり) 領巾取り掛けて
鶺鴒(まなばしら) 尾行き合へ
庭雀(にわすずめ) うずすまり居て
今日もかも 酒みづくらし
高光る 日の宮人
事の 語り言も こをば
この三つの歌は、天語歌(あまがたりうた)です。故、豊樂に、その三重の婇を譽めて、多(あまた)の祿(もの)を与えました。
・高市(たけち)
土地の高い所にある市
・豊御酒(とよみき)
酒をたたえていう語。おおみき
・百石城の(ももしきの )
多くの石や木で造ってあるの意から「大宮」にかかる枕詞
・鶺鴒(まなばしら)
セキレイの古名
・高光る(たかひかる)
空高く輝き光る意から、「日」にかかる枕詞
現代語訳(ゆる~っと訳)
そこで、皇后が、歌いになられて、その歌に歌っていう、
大和の
この土地の高い所にある市
さらにすこし高くなっている
市の高処
新嘗の御殿に
生い立っている
葉の広い
神聖な椿
その葉のように
広く
その花のように
照り輝いている
(空高く輝き光る)
日の御子に
豊かな御酒を
差し上げましょう
語り伝えの故事は
この通りです
天皇が歌っていう、
(多くの石や木で造った)
大宮の官人は
ウズラのように
領巾を取り掛けている
セキレイのように
長い裾を尾を交叉させ
庭のスズメのように
うずくまり集まっている
今日も
酒浸りらしい
(空高く輝き光る)
日の宮の官人たち
語り伝えの故事は
この通りです
この三つの歌は、天語歌です。
故、新嘗の宴会で、その三重の采女を褒めて、多くの物を与えました。
続きます。
読んでいただき
ありがとうございました。