古事記 下つ巻 現代語訳 四十三
古事記 下つ巻
阿岐豆野
書き下し文
阿岐豆野に幸でまして、御獦りしたまふ時に、天皇、御呉床に坐しき。尓して、虻御腕を咋ひつ。蜻蛉來て、其の虻を咋ひて、飛ぶ。是に御歌を作りたまふ。其の歌に曰りたまはく、み吉野の 哀牟漏が岳に猪鹿伏すと誰そ 大前に申すやすみしし 我が大君の猪鹿待つと 呉床にいまし白栲の 袖着具ふ手腓に 虻掻き付きその虻を 蜻蛉早食いかくのごと 名に負はむとそらみつ 倭の国を蜻蛉島とふ故、其の時より、其の野を號けて阿岐豆野と謂ふ。
現代語訳
阿岐豆野(あずきの)に幸(い)でまして、御獦(みか)りをなさった時に、天皇は、御(おほみ)呉床(あぐら)に坐(いま)した。尓して、虻が御腕(みただむき)を咋(く)いました。蜻蛉(あきづき)が來て、その虻を咋って、飛びました。ここに御歌をお作りになりました。その歌に、仰せになられて、
み吉野の 袁牟漏(おむろ)が岳に
猪鹿伏すと
誰そ 大前に申す
やすみしし 我が大君の
猪鹿待つと 呉床にいまし
白栲の 袖着具ふ
手腓(たこむら)に 虻掻き付き
その虻を 蜻蛉早食い
かくのごと 名に負はむと
そらみつ 倭の国を
蜻蛉島(あきつしま)とふ
故に、その時より、その野を號(なづ)けて阿岐豆野と謂います。
・袁牟漏(おむろ)が岳
奈良県中東部、東吉野村にある山。峰(お)の群がる山の意とする説もある。おおむろやま
・やすみしし
国のすみずみまで知らす(治める)意、または安らかに知ろしめす意から、「わが大君」「わご大君」にかかる枕詞
・白妙の(しろたえの)
1・衣・布に関する「衣」「袖 (そで) 」「袂 (たもと) 」「たすき」「紐 (ひも) 」「領布 (ひれ) 」などにかかる枕詞2・白い色の意から、「雲」「雪」「波」「浜のまさご」などにかかる枕詞
・手腓(たこむら)
腕の内側の肉が少し膨れている部分
・そらみつ
「やまと(大和)」にかかる枕詞
現代語訳(ゆる~っと訳)
雄略天皇は、阿岐豆野にお出かけになられて、狩をなさった時に、天皇は、椅子に座っていました。
この時、アブが腕を噛みました。そこへ、トンボが飛んできて、そのアブを食べて飛んでいきました。
これにより、御歌をお作りになりました。
その歌に、歌って、
吉野の
哀牟漏が岳に
猪や鹿が隠れていると
誰かが
天皇の御前に申し上げた
(国の隅々まで統治する)
我が大君が
猪や鹿が現れるのを待つと
椅子にお座りになられ
(白い布の)
袖のついた衣を装っていたのに
二の腕の膨らみに
アブが食いついた
そのアブに
トンボが素早く食らいついた
このようなことがあったから
名で表そうと
そらみつ
大和の国を
あきづしまという
こういうわけで、その時より、その野を名付けて阿岐豆野といいます。
続きます。
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ありがとうございました。