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うずくまって泣きました、との書店評   ≪モルヒネ≫

2007-03-07 | 本・映画・ドラマのレビュー&気になる作品
恋愛小説のリアルって何ですか?

恋愛小説というものの醍醐味っていうのは
やはり主人公に感情移入できるかどうかで
味わえるか、味わえないかが
決まるのじゃないかと思うのですが・・・

安達千夏「モルヒネ」祥伝社文庫

≪在宅医療の医師・藤原真紀の前に、
 元恋人の倉橋克秀が7年ぶりに現れた。
 ピアニストとして海外留学するため
 姿を消した彼がなぜ?
 真紀には婚約者がいたが、
 かつて心の傷を唯一人共有できた
 克秀の出現に、心を惑わせる。
 やがて、克秀は余命3ヶ月の末期がんで
 あることが発覚。悪化する病状に、
 真紀は彼の部屋を訪れた・・・。≫

 真紀は母親を自殺で亡くしています。
 姉は父の児童虐待によって殺されました。
 まだ小学生でした。
 真紀が父を告発し、逮捕されました。
 養子縁組をしたのは医者の家。
 母と姉のことについては真紀は
 婚約者にも話せずにいます。
 たったひとり話した相手、
 それは7年前、真紀をすてて
 オランダへ旅立った克秀(ヒデ)でした。

 ヒデは真紀が拠点とするホスピスに現れます。
 彼は末期がんでした。
 婚約者とは多忙で言葉をかわす暇もないほどですが
 真紀は穏やかな幸せのなかにいたのです

 突然現れたヒデはホスピスのなかで
 やりたい放題
 ホスピスを退院せざるを得なくなります
 彼が真紀に望んだものは自殺用のモルヒネでした

 がんの進行にともなう麻痺のせいで2度と
 ピアノを弾けなくなったヒデは
 生を引き伸ばす必要がないと真紀に訴えるのです

 真紀はヒデの願いを拒否しますが、
 ヒデのオランダへの最後になるであろう旅行に
 付き添った時にはモルヒネをバッグに忍ばせていました

 オランダで一緒に暮らしていた恋人にきちんと別れを
 告げるために旅してきたヒデでしたが、
 いよいよ日本へ戻る時がきても、
 ヒデは空港に姿を見せませんでした・・・

 
 
 書店評には「うずくまって泣きました・・」
 とありますが、涙腺が弱い私でもそういう思いは
 ありませんでした

 彼女はヒデへの想いを抱きながら生きてきたのですが
 死にゆくヒデの、最後の、日常のなかの姿を
 刻み付けてゆくのです
 取りすがって泣くわけでもなく、
 閉じ込めるわけでもありません

 ヒデ流のやりかたのさよならを
 受け止めるのです

 生きているヒデを刻み込みたいから
 そしてヒデもそのことを強制するのです

 これはきついなあと思いました
 ただの1度も相手にどっぷり依存しあわない恋愛、
 傷を舐めあわない関係。
 自制する感情と尊重する相手の意思。
 そんなことできるわけがないと思いながら、
 真紀の覚悟に感動しました

 恋愛という、
 自分を消して相手にのめりこむような熱情のなか、
 反対に、どんどん覚醒してゆき、昇華してゆくひとつの愛に
 真紀の人生のありかたも集約されていると思いました。

 凛とした恋人たちの、恋のかたち。
 一読の価値がたしかにあると思いました。

 

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