新・私に続きを記させて(くろまっくのブログ)

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青ざめた記憶 ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝とシルミド

2019年11月01日 | 映画/音楽
 好きな映画作品を聞かれたとき、ベスト4以下はその日の気分でコロコロ変わるのだが、映画ベスト3までは、だいたい決まっている。ここ10年以上、ベスト3に変動はなかったのだが、今年になって『エレニの旅』『ミツバチのささやき』『ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝』になった。

 『エレニの旅』については、いずれきちんと書きたい。この映画のラストには完全に打ちのめされ、しばし席から立ち上がれなかった。『ミツバチのささやき』は、岩波ホールのリバイバルを観て、それ以来、私の大切な映画になっている。気がつくと、ベスト3は、どれも戦争と少女(こども)をテーマにしている。

 『ヴァイオレット』に出会う前のベスト3は、『シルミド』だった。本作は、北朝鮮の金日成首相暗殺計画と、それにかかわった韓国の北派工作員部隊(684部隊)に基づく実話である。雨の夜の砂浜で、684部隊が金日成暗殺に出発する出陣式のシークエンスが美しい。
 「大韓民国万歳 대한민국 만세」(テハンミングク マンセ)と万歳三唱するのだが、この万歳が日本式とは全然違う。日本式は勢いよく両腕を振り上げるが、あれは降参のスタイルで、どてっ腹を撃ち抜いてくれと言っているようなもので、私は気にくわない。韓国式は前腕だけを振り上げ、両手の位置は顔の横にキープされ、肩から肘までの二の腕まで振り上げない。これならいつでもすぐに拳銃やナイフを手に取り、戦闘態勢に入れる。むだがなく、理にかなっている。
 しかし684部隊は、出撃の直後、作戦中止命令が下る。684部隊の軍規は乱れ、集団脱走を起こして韓国正規軍との戦闘になり、悲劇の結末を迎える。
 死を覚悟して命がけで決起したのに、突然の路線転換、そして作戦中止を下されたときの怒りと逆上は、体験した者でなければわかるまい。私はこの映画を、当時千日前にあった国際会館で観た。頭の中に血が逆流して、視界が真っ赤に染まり、激情が鎮まるまで、途中から雨の降り出した大阪の街を傘も差さずにひたすら歩き続けた。

 今も当時の気持ちは忘れないが、長い年月が経ち、日にさらされ、雨風にさらされ、さすがに風化している。場末の商店に残るマゼンダやイエローが蒸発してシアンとブラックしか残っていない昭和時代のポスターのように、記憶も色あせ、ただ青ざめた記憶だけが残っている。

 ヴァイオレットとバートレット姉妹には未来がある。希望がある。いつ死んでも悔いはないと思っていたけれど、今年は二度ほど死にかけ、さすがに人生の残り時間を意識したので、なおさらこの作品をいとおしむ気持ちは強い。あの大殺戮の後に、なおも「おれたちは幸せを運び続ける」という京アニに、心から敬意を表したい(まあ、私は幸せよりは、殺戮する方に近しい存在なのだが)。



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