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[2012年1月 更新]
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深夜2時のオリオン

2008-11-09 23:56:22 | ますべ的書き物風落書き
モトカノとの言葉遊びで生まれた短い小説風落書きです。
そんなに長くはないです。

最近ずっとこういう事はしていなかったので、すっかり面白そうなポイントとかは忘れました。

あなたのちょっとした暇つぶしにでもなれば幸いです。

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たいとる:深夜2時のオリオン

ほんぺん。はっじまーるよおー!


静まり返った夜。
窓から見える家々の窓にも灯りはなく、秋も終わる寒空に半月の光だけが仄暗い。
雲のない夜空に、セヴンスターの煙で月が隠れる。
このまま何時間かしたら夜が明けて、また同じ一日が訪れる。
この町は時間が進まない。太陽が昇って、また昇る。
何回同じ太陽を見ても時間は進まない。
この町に住んでいる人々は自分たちの時間が進まない事に気がついていないのか。
それとも気がついていても、自分たちの手に取り戻す事を諦めてしまったのか。
俺だけが知っている。この町は何年もこの町のままだということを。

今の時間は早朝3時。
いつもこの時間に僕は家にあるビデオを見る。
昨日も見ていた。一昨日も。その前も。ずっと昔も。
今日も何も変わらなかったと、誰にも聞こえない独り言とともに。
寒い夜に、ヒトリ。毛布に包まって小さいテレビで見ている。
今日も、明日も。きっとずっと未来も。
何回見ても忘れてしまう内容。大昔に見た気もするが、記憶が曖昧だからもう一度見よう。
そう思って毎日見ている。
繰り返される一日。リセットされる一日。
僕が覚えている昨日の事は、何もない。ヒトツだけ。
ヒトツだけを除いて何もない。

今日が昨日だという事。昨日が明日だという事。

アナタはメビウスの輪を知っているだろうか。
一枚の長方形の紙を一度捻って両端を接着する。
スタート地点を決めて鉛筆でなぞっていけばいい。
メビウスの輪について知っている事はただそれだけ。ただそれだけの事。

俺の一生はメビウスの輪だ。
歳も取らない僕。何年もずっと、ずっと同じ姿。
ああ、どこを糊付けされているんだろう。彷徨い続ける世界。
同じ道を辿る時間。

ビデオが終わった。
何のビデオだったんだろう。内容は覚えていない。
朝だ。太陽がまた昇ってる。
昨日と同じ新聞が配られ、何も変わらない隣の家の猫の散歩道。

俺は、もう飽きた。
この世界に。毎日決まって同じ事しか起こらないこの世界に。
ビデオテープを巻きもどしながら考える事まで同じ。
今日は毎日と違う何かをしてみたい。
と俺は考えた。
ここまで、いつもどおり。

毎日食べていても減らない食パン。
減らない牛乳。減らないチーズ。
ガッコウ?カイシャ?
なんだいそれは。
シゴト?
この世界では聞いた事のない言葉だね。辞書にすら載っていない。
いつも何をしているかって?
チーズを乗せたパンを焼いて、食べて。グラス一杯の牛乳を飲む。
それが朝。
朝から昼までに洗濯と掃除。
そして散歩。
お昼には家に帰ってきてサンドイッチとコーヒー。
食べ終わると朝と昼の食器を洗って読書。
煙草を吸いながら一人で書斎に。
毎日、そんな感じさ。
本は読み終わらない。進んだ分だけ明日には栞は戻り、読んだ内容も忘れているから。
晩御飯は何にしようかな。
そうだ、今日はシチューにしよう。じっくり時間をかけて。
夕方から仕込みにかかる俺の晩御飯。
今日はシチュー。昨日もシチュー。そして、きっと明日も。

他の家の人を見た事はない。
家の中で何かをしているのか、それとも本当家だけで人なんていないのか。

俺は夜の9時に布団に入ってしまう。
寒い、この町は。
早く寝てみても結局いつもどおり。夜の1時半には目が覚めてしまう。
もこもこのスリッパを履いてお湯を沸かし、ホットココアを作る。

そうやって暖を取っていると、また。
ビデオを見たくなる。

窓から顔を出し、セヴンスターに火をつける。
窓から見える家に灯りはなく、寒空にあるのは半月だけ。
煙草の煙が月を隠す。

時間は午前3時。
毛布に包まって、俺はビデオを見始める。
今日も何も変わらなかった。
1人で呟いた言葉は暖かい毛布に包まれて、少し湿っぽくなった。

朝が来て決心した。
今日こそは違う日にしよう。と。
散歩の道を変えよう。
お昼のサンドイッチも、お弁当にしよう。
そうだ、朝のご飯も変えなければ。
チーズはやめて目玉焼きをトーストに乗せる俺。
そして、牛乳を飲み干すとサンドイッチを作り始める。
サンドイッチとウインナー。デザートにまだ少し酸っぱいミカンを添えて。
小さな水筒を二つ。どちらも少し残念ながら自分用だ。
冷たい水と、温かいコーヒーを入れた。

いつもの散歩とは、明らかに違う道。
そうだ、あの山に行ってみよう。
いつも紅葉が綺麗だとしか思ってなかったあの山に。
なにがあるんだろう。どんな道なんだろう。
心なしか弾む気持ち。わくわくしている事に気がついた。

運動靴と、トレッキングシューズ。
どっちを履くか迷っていた。
いつもと同じ日なら雨は降らないだろう。
そう思い結局運動靴にした。

俺は家を出る。
いつもと違う日を求めて、あの山を目指す。
なんだこの昂揚感は。
いや、不安感?
いつもと同じ日に不満はないのか。
なくもない。さしてない。
でも。俺は今日変える。

山の麓についた。
思ってたよりすぐだった。
見上げる山は鬱蒼としていた。
何があるのか。

この山は整備されている。
楽な道とは言えないが、ハイキングコースが示されている。
ロープが谷に落ちないようにピンと張られている。
丸太でできた階段。

小高いところで視界が開けた。
ベンチがある。
既に昼は過ぎていた。
すこし、休もう。
ここでお昼を取る事にした。
俺は水を一口、ゆっくり口に含むと静かに喉を潤した。
山の中腹から見渡すこの町は、俺の家の窓から見るよりも高かった。
そして、思っていた以上に家は多かった。
でも、人影はまるで見えなかった。
サンドイッチを食べ終えた俺はコーヒーを飲み、煙草を吸った。

山頂についた。
そして、俺は驚いた。
映画館だ。
ここには映画館があった。
こんな山の上に。
町を見下すかのように。
もう夕暮れが近い。
下山する頃にはまたあの半月が空高く昇っているだろう。
それは危ない。避けたい。

あなた。
今日はもう遅いです。休む場所をお貸ししましょう。

映画館のドアがすこし開いて老人が出てきた。
怪しみながらも従わざるを得ない俺。
外から見るよりも映画館は広かった。

何か、ご覧に入れましょうか?

そして映画は始まった。
ジージーとうるさい映写機の傍らに佇む老人。
なんだこれは。
懐かしい。そしてなにより、心地よい。

映画のタイトル。

深夜2時のオリオン

どこかで見た映画。
何度も見た気がする。

そうか、コレは俺が夜中に見ているビデオだ。

ええ、そうです。コレは貴方が深夜3時にご覧になられているビデオです。
この町はメビウス。糊はこの山。
そしてこの映画館。オリオン座。
ここに来る事がメビウスの輪を破る鍵だったのですよ。
お疲れ様です。貴方がこの町で最後です。

唐突な毎日との別れらしき事を告げられた俺。
この老人は何者。俺は一体。

それでは、夜中の2時にもう一度映画を上映いたします。
それで貴方の世界は正常に戻るでしょう。
どうなさいますか?
この毎日が繰り返される日常に戻りますか?
それとも、貴方の知らない一日をこれから先毎日送りますか?
チャンスは一度です。一度この山から降りてしまうともう貴方はこの山に来ようとは思わなくなります。
1時にもう一度聞きましょう。考える時間は5時間です。

老人はそう言い残してドアの奥に消えた。
出入り口から外にでる俺。
今日も昇ってきた半月を眺めながらセヴンスターに火をつける。

答えは、でていた。

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煙草が俺の嫌いなセッタなのは、文字映えしそうだったからです。
それだけです。

最後の、『答えは、でていた。』の部分。
答えは自分に聞いてみてください。

一寸先は闇とでも言える世界に足を踏み入れるのか
延々と抜け出せないメビウスの輪の上を歩き続けるのか。
それは、貴方の心ヒトツです。

蛇足でした。

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