ことばの宝箱

素敵な言葉を集めたら、毎日がキラキラ輝き出して・・・
私の小さな宝箱

2008年03月29日 00時36分59秒 | Weblog
我が家のお向かいさんには、とても大きな庭があります。
様々な種類のお花が咲いていて、眺めるのが本当に楽しい。
でも、計画性がないというか、まとまりがないというか・・・
花や木が、あちこちに散らばっているし、どんどん増えていきます。
「もっと、きれいな庭になると思うんだけどなあ。」
買い物帰り、思わず、心の声が出てしまった。
「豪快で良いじゃない?」
横を歩く夫は、あまり興味がない様子。
「はい、よその方のお庭です。私が言うことじゃない、ですよねえ。」
分かっては、いるんです。

ある日、回覧板を届けにお向かいさんの家へ行っていると、
またまた大きな穴を2つ掘っていました。
「何の木を植えるんですか?」
お向かいさんは、うーんと腰を伸ばして言いました。
「まだ、決まっておりませんの。」
そうは、言っても、かなり深く掘られています。
私は立ったまま、穴を見つめていました。
「3月は、出会いと別れの多い時期ですので。」
お向かいさんは、淋しげに微笑みます。
「はあ。」
『出会いと別れ』と『穴を掘る』という行動、どういう関係があるんだろう?
私は首をかしげてしまいました。
お向かいさんは、近くの石でできたイスに腰掛けて言いました。
「別れは、時として、仕方のないことなのでしょうけど、
 その淋しさを、新しい出会いでは埋められない時がございます。
 そういう時には、庭にその方に似合う木や花を植えることにしておりますの。
 花が咲き、木が育てば、その方たちも頑張っていらっしゃるのだろうと、
 私自身が元気付けられますのよ。」
私は、広い庭のあちこちにある木や花を見渡した。
そして、目の前にある大きな2つの穴。
しばらくして、お向かいさんが私を見ている視線に気がつきました。
私は、慌てて回覧板を渡して、帰りました。
家に着くまで、何度もお向かいさんの庭を振り返りながら。

「心の穴に、花や木を・・・」
夜、家計簿をつけながら、ため息が出てしまう。
「どうしたの?」
隣でビールとチョコレートを食べている夫が不思議そうに聞いてくる。
「う~ん、
 お向かいさんの庭、素敵だなあ。と思って。」
夫は、ビールを一口飲んで、笑っています。
「この間とは、正反対のことを言っている。」



翌年の3月。
あの時、掘っていた大きな2つの穴には、
花をいっぱい咲かせた沈丁花と実をたくさんつけた金柑の木がありました。





2 コメント

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Unknown (Shot)
2008-04-01 09:39:47
淋しさを新しい出会いでは埋められないため、その人に似合う木や花を植えるというのに感動しました。
会えないけど近くにいる、話せないけど大きく育てて
その人を思う気持ちが伝わってくる作品ですね。
沈丁花と金柑は甘くてやさしくて・・・・
その人を思い出すでしょう。
Shotさん (わい)
2008-04-01 22:04:19
こんばんは。
読んでくれて、ありがとうございます!

最初にお礼を言わせてください。
Shotさんのブログの沈丁花が本当に綺麗だったので、お話に登場させてしまいました。
素敵なお写真、いつもありがとうございます。
これからも、楽しみにしています☆

好きなテレビ番組の担当が替わってしまい、すごいショックを受けました。
沈丁花と金柑は、その人たちのイメージにぴったりでした。
またどこかで逢えるといいなあ。と思います。