月夜の願い

月が好きな国がありました。
月の綺麗な夜は、決まって、お城で舞踏会が開かれます。
今夜も、国中から集まった人たちが楽しそうに踊っています。
お姫様は、その様子を見ているだけで、幸せでした。

舞踏会が盛り上がってきた頃、
お姫様は、そうっとお城の外に出て行きます。
輝く月に手を合わせ、国民全ての幸せを願うのでした。

三日月の夜。
お姫様は、嬉しそうに舞踏会の様子を見ていました。
その中に、とてもよく目が合う男性がいました。
お姫様は、目が合う度に、にっこりと微笑みます。
舞踏会が盛り上がってくると、お姫様はそうっとお城の外に出て行きました。
輝く三日月にお願いごとをしています。
「お姫様。」
振り向くと、先ほどまで舞踏会にいた良く目の合う男性が立っていました。
「僕のことをお忘れでしょうか？」
男性は、子供の頃に1度だけ会ったことのあるお姫様の婚約者でした。
「一緒に踊っていただけませんか？」
彼が手を差し伸べました。

小さく輝く三日月の下で、お城から聴こえてくる微かな音楽に乗せて、
二人は軽やかに踊りました。

それから、舞踏会の夜は、月の下、二人きりで踊るようになりました。
踊りながら、いろんな話をしました。
少しずつ、しっかりと二人の仲が深まっていきました。
しかし、仲良くなった分、お姫様はよそよそしくなっていきます。

満月の夜。
いつものように踊りが終わっても、彼はお姫様の手を離しません。
彼は、もう片方の手で胸ポケットからリングを取り出しました。
宝石のないシンプルなリングです。
それをお姫様の指にゆっくりとはめました。
そして、お姫様の手を空にかざします。
リングの上に、ちょうど満月が重なり、宝石のように輝いています。
キレイな満月のリング。
お姫様はうっとりとリングを見つめています。
「僕と結婚していただけますか？」
彼は、真っ直ぐな目でお姫様を見ています。
お姫様は、少し考えるように目を閉じ、
それから満月を見上げると、ゆっくりと話し始めました。
「私の願いは、国民全てが幸せになることでした。
　私は、ただ、その事だけを月にお願いしてきました。

　しかし、あなたと再会して、
　私は、私自身の幸せを願ってしまったのです。
　本当は、国民の幸せが、私の幸せのはずなのに・・・

　今、私は、国民全ての願いが叶うことを祈っています。

　私の願いは、一番最後にお願いします、と。」

彼は、お姫様の手を両手で優しく包みました。
「僕の願いは、あなたの幸せです。
　国民の願いが、僕と同じものなら、
　僕と結婚していただけますか？」
お姫様は、迷いながらも、小さくうなずきました。


翌朝、
お城から喜びの拍手が国中に響き渡るほど、鳴り続けました。
その真ん中で、うっすら涙を浮かべて微笑むお姫様がいました。