正社員について,試用期間を設けたとしても,本採用拒否(留保解約権の行使)が,解雇権濫用法理(労働契約法16条)により無効とされるリスクがあることから,最初から正社員として雇用するのではなく,まずは有期労働契約を締結して正社員と同様の職務に従事させ,労働者に問題があれば雇止めし,問題がない場合には正社員として登用することがあります。
このようなやり方の法的効力は,どのようなものなのでしょうか?
判例上,労働者の適性を評価・判断するための有期契約期間は,契約期間の満了により労働契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き,試用期間として取り扱われることになり,有期労働契約期間中の労働者が正社員と同じ職場で同じ職務に従事し,使用者の取扱いにも格段変わったところはなく,また,正社員登用時に労働契約書作成の手続が採られていないような場合には,原則として解約権留保付労働契約と評価され,本採用拒否(留保解約権の行使)が許される場合でない限り,労働契約を契約期間満了で終了させることができないことになります(神戸弘陵学園事件最高裁第三小法廷平成2年6月5日判決)。
したがって,労働者の適性を評価・判断することを目的とした有期労働契約を締結した場合に,契約期間満了時に問題社員との労働契約を終了させることができるようにするためには,契約期間の満了により労働契約が当然に終了する旨の明確な合意を書面でしておくとともに,正社員に登用する労働者については正社員登用時に労働契約書作成の手続を確実に採っておくべきことになります。
弁護士がアドバイスを求められた場合は,上記判例を踏まえ,訴訟になっても勝てるように厳密な労務管理をして下さいとしか言うことができませんが,実際上は,判例が要求する要件を満たしているか否かにかかわらず,有期労働契約の形式を採っていた場合の方が,長期雇用に対する期待が低いことが多いせいか,辞めてもらいやすく,紛争になりにくい傾向にあるようです。
どこまで厳密に対応するかについては,訴訟になった場合の法的リスクを踏まえた上で,経営者が判断すべきこととなります。
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