会社を悩ます問題社員の対応

会社を悩ます問題社員の対応,訴訟リスクを回避する労務管理

「本当は懲戒解雇だが退職願を提出すれば自主退職として処理する」と対応する場合の注意点

2016年02月17日 | 労務管理

ある労働者に懲戒解雇事由があると思っていたので,「本当であれば懲戒解雇であるところ,退職願を提出してもらえれば自主退職として処理する」と言い,退職願を提出し退職してもらいました。このような方法に問題はありますか?


 実際に懲戒解雇 に相当する事由が存在し,裁判で立証できれば退職の意思表示は有効で問題はないのですが,そうでない場合には,当該退職の意思表示は錯誤無効になるという問題があります。

 また,無効と判断された場合,労働者の地位確認とともに賃金請求も請求されていた場合には,その間の賃金も支払わなければならなくなる可能性があるのでより注意が必要です。

 裁判例は,(懲戒)解雇 の告知(その可能性)を伴う場合には,当該解雇が有効にできるかを検討し,これが否定される場合には退職の意思表示に瑕疵(取消または無効)を認める傾向にあります。

 つまり,解雇が有効かどうかは退職勧奨 等から判決までのプロセスを経て初めて確定するものである以上,解雇をちらつかせた退職処理はリスクがあるということです。

 そこで,退職の意思表示が無効になるリスクを回避するためには,労働者に解雇が確実なものではないことを十分に理解してもらったうえで,真摯な退職意思の表明であることを書面などで確認しておく位の周到さが必要と言われています。

 なお,錯誤以外にも,詐欺,強迫,心裡留保(本当は退職するつもりもないのに退職すると言い,その真意につき使用者も知っていた場合)に基づいて労働者が退職の意思表示をした場合にも取消事由または無効事由となりますので注意が必要です。


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遅刻や無断欠勤が多い。

2016年02月16日 | 労務管理

遅刻や無断欠勤が多い。


1 注意指導
 遅刻や無断欠勤が多い社員は,注意指導して遅刻や無断欠勤をしてはいけないのだということを理解させることが重要です。当たり前の話のように聞こえるかもしれませんが,訴訟や労働審判 になって弁護士に相談するような事例では,当然行うべき注意指導がなされていないことが多いという印象です。
 ルーズな勤怠管理をしていた職場の場合,従来であれば容認されていた程度の遅刻や無断欠勤をしたからといって,直ちに処分することは困難ですので,今後は遅刻や無断欠勤には厳しく対処する旨伝え,それでも改善しない場合に懲戒処分等を検討していくことになります。
 口頭で注意指導しても遅刻や無断欠勤を続ける場合は,書面で注意指導することになります。書面で注意指導することにより,本人の改善をより強く促すことになりますし,訴訟になった場合,遅刻や無断欠勤を注意指導した証拠を確保することもできます。訴訟では,労働者側から,十分な注意指導を受けていないから解雇は無効であるといった主張がなされることが多いです。口頭で注意指導しただけで,書面等の客観的な証拠が残っていない場合,十分な注意指導をしたことを立証するのが困難となってしまいます。
 電子メールを送信して改善を促しつつ注意指導した証拠を確保することも考えられますが,メールでの注意指導は,口頭での注意指導を十分に行うことが前提です。面と向かっては何も言わずにメールだけで注意指導した場合,コミュニケーションが不足して誤解が生じやすいため注意指導の効果が上がらず,かえってパワハラであるなどと反発を受けることも珍しくありません。

2 懲戒処分
 書面で注意指導しても遅刻や無断欠勤を続ける場合は,懲戒処分を検討せざるを得ません。まずは,譴責,減給といった軽い懲戒処分を行い,それでも改善しない場合には,出勤停止,降格処分と次第に重い処分をしていくことになります。
 懲戒処分に処すると職場の雰囲気が悪くなるなどと言って,懲戒処分を行わずに辞めてもらおうとする会社経営者もいますが,懲戒処分もせずにいきなり解雇 したのでは社員にとって不意打ちになりトラブルになりやすいですし,よほど悪質な事情がある場合でない限り,解雇は無効となってしまうリスクが高いところです。そもそも,遅刻や無断欠勤の多い問題社員に対して注意指導や懲戒処分等ができないようでは,会社経営者や上司として当然行うべき仕事ができていないと言わざるを得ません。必要な注意指導や懲戒処分を行い,職場の秩序を維持するのは,会社経営者や上司の責任です。

3 解雇の検討項目
 注意指導し,懲戒処分等に処しても遅刻や無断欠勤が改善せず,改善の見込みが極めて低い場合には,解雇や退職勧奨を検討することになります。解雇が有効となるかどうかを判断するにあたっては,
 ① 就業規則の普通解雇事由,懲戒解雇事由に該当するか
 ② 解雇権濫用(労契法16条)や懲戒権の濫用(労契法15条)に当たらないか
 ③ 解雇予告義務(労基法20条)を遵守しているか
 ④ 解雇が法律上制限されている場合に該当しないか 等を検討する必要があります。

4 解雇権濫用・懲戒権濫用
 解雇が有効となるためには,単に①就業規則の普通解雇 事由や懲戒解雇 事由に該当するだけでなく,②客観的に合理的な理由が必要であり,社会通念上相当なものである必要もあります。解雇に客観的に合理的な理由がない場合は,②解雇権又は懲戒権を濫用したものとして無効となってしまいますし,そもそも①解雇事由に該当しない可能性もあります。
 解雇に客観的に合理的な理由があるというためには,労働契約を終了させなければならないほど遅刻や無断欠勤の程度が甚だしく,業務の遂行や企業秩序の維持に重大な支障が生じていることが必要です。解雇が社会通念上相当であるというためには,労働者の情状(反省の態度,過去の勤務態度・処分歴,年齢・家族構成等),他の労働者の処分との均衡,使用者側の対応・落ち度等に照らして,解雇がやむを得ないと評価できることが必要です。
 遅刻や無断欠勤が多い社員の解雇の有効性を判断するにあたっては,遅刻や欠勤が業務に与える悪影響の程度,態様,頻度,過失によるものか悪意・故意によるものか,遅刻や欠勤の理由,謝罪・反省の有無,遅刻欠勤を防止するために会社が講じていた措置の有無・内容,平素の勤務成績,他の社員に対する処分内容・過去の事例との均衡等が考慮されることになります。
 注意指導,懲戒処分等で遅刻や無断欠勤をしなくなるのであれば,注意指導等により是正すれば足りるのですから,解雇権濫用・懲戒権濫用の有無を判断するにあたっても,注意指導,懲戒処分等では遅刻や無断欠勤の頻度が改善されないかどうかが問題となります。
 客観的な証拠がないのに,注意指導や懲戒処分をしても遅刻や無断欠勤は改善されないと思い込んで解雇するケースが散見されますが,客観的証拠から改善の見込みがないことを立証できる場合でない限り,実際に注意指導や懲戒処分を行って改善の機会を与えた上で,職場から排除しなければならないほど遅刻や無断欠勤の程度が甚だしく,注意指導や懲戒処分では改善される見込みがないことを確かめてから,解雇に踏み切るべきでしょう。


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年休の時季変更権が行使できるのは,どのような場合ですか?

2016年02月16日 | 労務管理

どのような場合に,労働者による年休の時季指定に対して,時季変更権を行使して,その日に働いてもらうことができるのでしょうか?


 まず注意すべきことは,年休は労働者が時季指定をすることで発生するものですから,使用者が時季変更権を行使できるのは,「事業の正常な運営を妨げる」という例外的な場合に限られるということです。使用者には労働者が時季指定をした日に有給休暇を取得できるよう配慮することが求められています。

 なお,時季変更権を行使する際には,代替日を指定する必要はありません。

 では,どのような場合に「事業の正常な運営を妨げる」場合に該当するかですが,具体的には,その労働者の従事する業務組織の運営上,その労働者が年休日に不可欠な要員であり,他に代替要員の手配が容易にできない場合を言います。

 もっとも,この要件にあたるかどうかは,結局は,諸般の事情を総合考慮して個別的に行うとしか言えないのですが,一般的な考慮要素としては以下のものが挙げられます。

・会社の事業規模,業務内容

・その労働者の担当業務の内容,性質

・業務の繁閑

・代替要員確保の難易

・他の労働者との調整の有無

・指定された有給休暇の日数

・休暇取得に関するこれまでの慣例など

 判例には,労働者による24日間連続での時季指定に対して,その内の12日間の時季変更権を認めた事案があります。ただし,この事案は,労働者が事前の調整もなく時季指定をしてきたこと,労働者の担当業務は専門的知識が必要なもので代替要員の確保が難しかったという事情などを総合考慮した上で,時季変更権を認めたものでした。


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労働委員会や労働局のあっせんや仲裁とはどういうものなのか教えてください。

2016年02月16日 | 労務管理

労働委員会や労働局のあっせんや仲裁など,行政による紛争解決機関について教えてください。


 行政による紛争解決機関としては以下のものがあります。

・労働委員会

① 不当労働行為の審査・救済

② 労働争議(争議行為が発生またはそのおそれがある状態)の調整

③ 個別労働紛争の相談・あっせん

 労働委員会は,労働組合と使用者間の労働条件や組合活動のルールを巡る争いの解決や,使用者による不当労働行為があった場合における労働組合や組合員の救済など,集団的労使関係を安定,正常化することを主な目的として設置された行政委員会です。労働委員会には,都道府県ごとに設置されている都道府県労働委員会と,国に設置されている中央労働委員会があります。

 

・労働局

① 総合労働相談

② 都道府県労働局長による助言・指導

③ 紛争調整委員会によるあっせん

 紛争調整委員会によるあっせんは,当事者の間に弁護士等の学識経験者である第三者が入り,双方の主張の要点を確かめ、紛争当事者間の調整を行い,話合いを促進することにより,紛争の円満な解決を図る制度です。なお,両当事者が希望した場合は,両者が採るべき具体的なあっせん案を提示することもできます。

 

・仲裁

 第一東京弁護士会をはじめ多くの弁護士会には仲裁センターが設けられています。仲裁センターは,当事者間の話し合いで解決できない紛争について,仲裁人等を交えて解決する手続を行う,裁判外の紛争解決機関(ADR)です。

 メリットとして,裁判と違って非公開で手続を進め,裁判よりも迅速に,柔軟で納得のできる解決をもたらすことが可能であると掲げられています。


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会社を休んだ社員が,後日,欠勤を年休扱にして欲しいと言ってきた場合,応じなければならなりませんか

2016年02月16日 | 労務管理

当日になって社員から休むという連絡があり,後日,その社員が欠勤日を年休扱いにして欲しいと言ってきました(いわゆる年次有給休暇の事後請求)。この場合は,年休としなければならないのでしょうか?


 欠勤日を後日,年休として取り扱うかどうかは使用者の裁量に委ねられています。

 したがって,使用者には,労働者から後日年休として処理するよう請求(いわゆる年次有給休暇の事後請求)されたとしても,年休とする義務はありません。

 年休について説明を加えますと,「年休権」は,労基法上の要件(39条1項)が充足されることによって法律上当然に発生するものであり,労働者が年休を取得する時季を指定することを「時季指定(権)」と言います。

 労働者の時季指定に対して,使用者は当該時季に有給休暇を与えることが「事業の正常な運営を妨げる場合」には,時季変更権を行使できます。

 このように,時季指定は,使用者において事前に時季変更の要否を検討し,その結果を労働者に告知するに足りる相当の時間をおいてされなければならないものと解されるため,事後請求は本来成り立たないものです。

 そのため,例えば,就業規則に,有給休暇の申請は前日(または2,3日前)までに所定の休暇申請書(書面)にて届け出るよう定める会社もあります。

 この点,書面にて届け出るよう定めておくことは,年休の管理上および使用者の時季変更権行使の判断をする上で,有効な手段と言えます。


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