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フランシス・ベーコン展

2013-03-28 19:46:26 | 一期一絵
数年前、友人に誘われて映画「アイ カム ウィズ ザ レイン」を見に行ったことがあります。
最初、猟奇殺人犯の部屋が描写されていて、その中に殺人犯が死体を加工して作ったオブジェが置いてありました。それがフランシス・ベーコンの初期の作品の立体化したものでした。

ベーコンは鮮烈な色彩を使ったり、黒っぽい絵でも色合いに魅力がありますが、この映画のオブジェはぬるぬるした肌色で、ちょっとだけ絵にはないものを付け加えて、それで殺人鬼の奇抜で異常なオリジナル作品を表現していたのですが・・・。これはベーコンの関係者の方々は知っていて了承済みだったのでしょうか。ちょっと気になります。
 
いずれにしろゾクッとする暴力的とさえ感じるその絵の世界はなぜか惹きつけられる魅力があります。

皇居のお堀の周りの桜は満開に咲き、暖かい春たけなわの3月28日に、国立近代美術館で開催されている
フランシス・ベーコン展(3月8日~5月26日)を見にゆきました。


このベーコンの日本での大回顧展は30年前、まだご本人が存命中にやはり近代美術館で開催されてます。
その30年前の展覧会に、私も行きました。

これが30年前のパンフレット

数年前に横浜美術館のコレクション展示でもこの人の作品を見ましたが、まとまって見れたのは私も30年ぶりです。

作品は前回と同じものも数点ありました。
この人がゲイであることは前回の展覧会やパンフレットにははっきりとはいってません。今回知ってから30年前のパンフレットを読むとなんとなく示唆している言葉がありました。時代が変わりはっきり言うことに、抵抗がなくなったのでしょう。

ベーコンご本人が認める最初期の作品から凄まじいエネルギーと攻撃性が見られ、不完全に描かれた人体や動物に動きや叫ぶ声が感じられます。

人物像習作(1945ー46年)
何故、口を開け、叫ぶのか。

この叫びは特にベラスケスの「法王インノセント10世」や枢機卿の絵をアレンジした作品に顕著にあらわれてます。

肖像のための習作Ⅳ(1953年)・・・この絵は、なぜか口を手でおおってますが・・・

本当は此の絵をいいたかったのです。今回の展覧会にはでてませんが

口を開けて叫んでます
この絵からいろいろな物語が想起できてしまうのですが、なんとも罰あたりな物語になってしまいます。黄色の柵もなんだか恐怖心を増幅させてしまう。

そして参考にしたベラスケスの絵はこちらです


印象深くぞくぞくするこのシリーズについて、展覧会で上映されていた映像にこんな言葉があったです。
質問者「ローマに行った時、ベラスケスの絵は見ましたか?」
ベーコン「いや、見る勇気がなかった。法王の絵を冒涜した者として・・・」
成程、法王の絵をアレンジして描くにあたって、絵を単にモチーフとして突き放して見ていたわけではなかったようですね。後ろめたさや罰あたりな気持ちを持ちながら、それでも自分にとって得難い題材として容赦なく自分の絵の世界に引きずり込んだ。・・・そう知ると、危ないものを見てしまっている気がさらにこの絵の印象を強く感じさせてしまいます。

今回の展覧会には出品されてないけど同じ時期の作品にとても好きな絵があります。それは牛の胴体を二つに開いた肉片の前に人物が口を大きく開けている作品です。映画「羊達の沈黙」を観たとき、あ、ベーコンのようだとおもったものです。今回も30年前の前回も展覧会で見れなくて残念!
私はやっぱりこの初期の頃の荒削りで暴力的で罰あたりなシリーズに魅力を感じます。


そして・・・16世紀の哲学家フランシス・ベーコンとの繋がりも考えてしまいます。
30年前の展覧会の紹介ではこの16世紀の哲学者の傍流の子孫と説明されていましたが、今回はベーコン氏ご本人が本当に子孫か「疑わしい」と言っていたと書かれていました。

この人の作品は全てガラスつきの額装をしています。ガラスを通して作品を見ると自分の姿が写るので、これもなにか意図があるのかと思いましたが、壁に貼られた説明では、その意図を完全に否定していました。

ベーコンの絵は色彩が豊かになり、ゴッホの絵のアレンジの連作やスフィンクスの連作を経て、明るい色彩の世界が展開します。
三副対の作品が多くなり、攻撃性は薄れ、背景は均一な塗り方になり穏やかな色合いとなり調和を感じました。
特にいいなと気に入ったのが2点ありました。どちらもあまり大きくない作品です。

一つは友人の画家を描いた三副対
「ルシアン・フロイドの肖像のための三習作」(1965年作)
残念ながらインターネットで画像が見つからなかったのですが、鮮やかな赤を背景にして、才気走る画家の勢いを感じます。

もう一つはベーコンの恋人を描いた三副対

「ジョージ・ダイアの三習作」(1969年作)
これは。今回の展覧会のポスターにもなった作品です。
顔立ちを歪めるのはこの画家の定番ですが、背景のベビーピンクとこの人物の色合わせが美しいです。ジョージ・ダイアは破滅型人間でベーコンとも喧嘩がたえなかったそうですが、そんな彼を慈しみ包み込むような優しい色合いのピンクが愛情の現われのような気がして・・・。この人を愛しいと思っていた気持ちが感じられる絵だなぁと感じました。
ただこの三副対には何故か顔の中に黒い丸い穴みたいなのが描かれてます。まるで弾丸が貫通したみたいに。2年後自殺する予感がその黒い穴を顔に描いたのでしょうか。

まだ作品はいろいろありますが、この辺でやめておきます。
この展覧会の副題は
「目撃せよ、体感せよ、記憶せよ」
なかなかセンセーショナルな言葉です。
印象派などの絵を愛する方には最初は刺激が強くてアクが強すぎてすぐには受けいれられないかもしれません。
私も最初はそうでした。でも何度も画集を見て次第に此の絵が痛快に思えてきたのです。いい子ぶっていない絵のおもしろさ、心に潜む攻撃性をくすぐられる爽快さ。
なにより一度みたら忘れられないインパクトを感じます。

今回の展覧会はベーコンの絵に触発された舞踏家土方巽やペーター・ヴェルツのパフォーマンスの映像も見れます。

パンフレットは今回は購入するのをやめました。すでに30年前に買ったものがあるし、パンクしている本棚の状態を考えて・・・。

その前回のパンフレットに今回の展覧会には展示されなかった作品が乗ってますが、こんなモデルの作品もありました。



上のブルーの背景の作品は晩年の恋人ジョン・エドワースを描いた三副対(1980年作)。爽やかで穏やかな背景の水色が人物と美しく調和してます。
下の赤い背景はミック・ジャガーがモデルの作品(1982年作)です。ミック・ジャガーの背景は鋭く鮮烈な赤。アーティストの色!







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