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ブルターニュの光と風 展

2023-06-23 13:10:44 | 一期一絵

先日、国立西洋美術館の「憧憬の地 ブルターニュ」展を鑑賞し感想を書きましたが、後からほぼ同時期にやはりブルターニュ地方を主題とした展覧会がSONPO美術館で開催されていると知り、再びブルターニュ絵画の旅にゆきました。

ブルターニュ地方はイギリス(ブリテン)のケルト民族が移住した場所だそうです。それでフランス国内でも独特の文化と言語を持っていて、中世までは公国としてフランス王国から自治権を認められていたそうですが16世紀に吸収されたそうです。

「憧憬のブルターニュ」展は殆どの作品が日本国内の美術館のコレクションを一堂に会した展覧会(おそらく世界的パンデミックの影響)でしたが、今回の「ブルターニュの光と風」展はブルターニュ半島の先端近くの街にあるカンベール美術館でコレクションしている作品が来日して展示されてます。

両展には同じ画家の作品が多く展示されてましたが、全体から感じる雰囲気は違っていて、「憧憬のブルターニュ」展では旅に来た人の異文化への新鮮な驚きと旅情を感じ、「ブルターニュの光と風」展ではそこに住んでいる人々の暮らしと自然との向き合いを感じました。

一部を除いて作品の撮影が可能でしたので、今回もスマホで写した画像から選んで載せたいと思います。前回と同様作品にあわせてあつらえた美しい額縁も一緒に載せられるのが嬉しいです♪そして素人の撮影なので見ずらい部分も多いですが(^^;)ご了承ください

それでは再びブルターニュへ・・

 

ブルターニュは大西洋と英仏海峡に囲まれた半島なので、最初に海をテーマにした作品が展示されてました。

テオドール・ギュダン「ベル=イル沿岸の暴風雨」1851年

大きく書かれた展覧会のタイトルの横に展示されてました。ブルターニュ半島南部沖にあるベル・イル島のごつごつした岩に打ちあげる激しい波の様子にこの地方の自然の厳しさを感じさせられます。そしてこの作品をギュダンが描いた35年後に、ほぼ同じところでモネが同じく嵐の様子を描き、「憧憬のブルターニュ展」で「嵐のベリール」という題名で展示されてました。

ブルターニュ地方は天気が変わりやすく、嵐が多いそうです。

 

アルフレッド・ギユ「さらば!」1892年

会場に入るとこの作品が目に飛び込んできます。とても大きな作品です。暴風雨で漁師の小さな船が転覆し、まだ少年の面影が残る息子が溺死してしまう。血の気が失せてしまってるからかもしれないけれど、少年は色白で、もしかしたら初めて父と一緒に漁に出たのかもしれません。この嵐の中、壊れた小船の縁につかまるだけで精いっぱいで自分の命さえどうなるかわからず、息子の亡き骸を連れて帰ることが出来ずそのまま海に沈めなくてはならない。手を離すと永遠の別れになる。その前に精一杯の思いを込めて息子にキスをする。原題は”Adieu!”で、日本語の題より哀しみや切なさを感じます。海辺で待ってるお家の人も帰ってこない少年の事をどんなに悲しむだろう・・・。

 

テオフィル・デイロール「鯖漁」1881年

空色が怪しく波が荒い中、鯖漁をしてます。先ほどの「さらば!」もそうですが、とても小さな船で危険と隣り合わせで漁をしています。

 

アルフレッド・ギユ「コンカルノーの鰯工場で働く娘たち」1896年

海辺では漁師と娘たちが陽気に鰯をめぐって話を弾ませてます。女性は頭に白いコワフを付けてます。工場でもこのコワフは着けていたのかな・・・というよりいつも当たり前のようにつけているのかな。

 

次に大地の様子を描いた作品が何点かありました。

アレクサンドル・セジェ「ブルケルムール渓谷、アレー山地」1883年

大地には大きな花崗岩がむき出しになっていて決して肥沃な土地ではないそうです。畑では蕎麦を育て食べてたそうで、そば粉のガレットはブルターニュ地方の郷土料理なのだそうです。

 

女性は頭にコワフという布をつけていました。そのコワフも地方によって変化があるそうです。

ポール=モーリス・デュトワ「ブルターニュ女性の肖像」1896年

先程の絵の鰯工場で働く女性も付けていた白い筒状の帽子からふわりと布を拡げたコワフ。清潔感があってとても素敵です。

 

リュシアン・レヴィ=デュルメール「パンマールの聖母」1896年

こちらは頭頂部だけにつけるタイプ。

聖母子をブルターニュの働き者で堅実な人柄を感じる女性と幼児(当時は男の子も幼児の頃は女の子の服装をしてたらしい)の姿で表現。まっすぐ正面を見ている姿は厳粛な雰囲気で、中世時代の宗教画を思い起こします。背景にはパンマールの海辺と漁船が描かれ、海と共に生きる人々を幼子キリストは祝福しています。絵を囲む額に刻まれた繊細な木彫はこの地方の家具に刻まれている模様だそうです。

 

ジャン=マリー・ヴィラール「ブルターニュの室内風景」1870年

家の中は土間になっていて、石もごろごろあります。家具はよく見ると石を下に置いて乗せています。そうしないといたんでしまうし、虫も侵入しますからね。大雨や嵐が来ると、土の床はぬかるんだりしたのだろうか。農家や漁師のなかには豊かな家もあったと思いますが、多くは質素で生活の厳しさを感じる家庭だったのではと思います。画家の多くは裕福な家庭出身ですが、この作品を描いた画家はそうではなかったそうで、質素な生活の様子を共感を持って描いています。

 

ブーダンやモネなど印象派を経て、更に新しい絵画表現へ

ポール・ゴーギャン「ブルターニュの子供」1889年

ブルターニュの美術を語るに欠かせない次世代の絵画表現へとつなぐ大きな礎となった画家。「憧憬のブルターニュ展」では姓がゴーガンとなってましたが、こちらではゴーギャンとなってます。ブルターニュのポン=タヴァン村、そして太平洋南半球のタヒチに何度も滞在し、クロワゾニズム(はっきりした輪郭線と色面で絵画を表現する)を確立し、若い画家に影響を与え、ナビ派が誕生します。この時代の多くの作品の画家解説にゴーギャンからの影響が記されていました。

 

ポール・セリュジェ「水瓶を持つブルターニュの若い女性」1889年

ナビ派の画家。ナビ派は単純化した形に自分の感じた色彩(明るい色が多い)を平面的に塗っています。

この女性は黒い頭巾をかぶってます。ゴーギャンの描く女の子も灰色の頭巾をかぶっていましたが、これはコワフとは違うのだろうか?

 

モーリス・ドニ「フォルグェットのパルドン祭」1930年

パルドン祭りは守護聖人に許しを請う祭りだそうです。女性がかぶるこのボンネットのような白い頭巾もコワフなのかな?人々が聖母子に礼拝しています。フォルグェットの街では毎年9月にパルドン祭りが行われ、何千人もの巡礼者が訪れるそうです。深い信仰心が伺える作品。

 

20世紀初めには暗い色調で作品を描く「バンド・ノワール(黒い一団)」という絵画集団が主にブルターニュで制作したそうです。ナビ派と対照的なグループで、ギュスターヴ・クールベの写実主義絵画の影響を受けているそうです。このバンド・ノワールは「憧憬のブルターニュ展」でも作品が掲げられていたのに私自身今一つわかってませんでしたが、今回で二度目でやっと認識できました(^_^)v。

シャルル・コッテ「嵐から逃げる漁師たち」」1903年頃

写真では見えにくいですが赤い帆の船が海と砂浜の境に停めてます。そこから漁師が急いで海から離れています。バンド・ノワールを代表する画家だそうです。

 

リュシアン・シモン「ジャガイモの収穫」1907年

こちらもバンド・ノワールで、影は黒いですが色彩は明るいので輪郭がくっきりしてます。「パンマールの聖母子」でも見れた小さな白い頭巾をかぶって畑仕事をしてます。強い日差しの下、畑仕事をする女性たち。後ろにジャガイモを入れた袋を担いでいる男性がいますが、多くの男性は漁に行って、大地は女性が担っていたのでしょうね。

 

フェルナン・ル・グー=ジェラール「カンペールのテール=オ=デュック広場」1910年

展覧会の作品を収蔵するカンベール美術館のある街、大きな街のようです。白く目立つコワフに黒っぽい服はよそ行きの装いなのでは。勿論仕事のために街に行くこともあるけど、たまの楽しみに街に出かけに行ってたのかも。人々のざわめきが聞こえるようです。

 

最後にフォービズムとキュビズムの作品が展示されていました。その中で、やはり人々の暮らしを感じる作品を載せたいと思います。

エドゥアール=エドモン・ドワニョー「ポン=ラペの子どもたち」1905年

両親とも働いている中、子供たちも少し大きくなると小さい弟妹たちの子守をしてお手伝いをしている姿は昔の日本と似ているなあと思いました。そして大まかな筆致ながら赤ちゃんや幼児の可愛い様子、そしてしっかり者のお姉ちゃんの姿が目の前にいるような存在感があり、とてもいい絵だなと思いました。

 

ピエール・ド・プレ「コンカルノーの港」1927年

男たちは漁師として体を張って働いている。ベレー帽のような形の帽子をかぶり、長靴を履いている人も。磯の匂いと大きな声で早口で言い合う様子が絵から感じられます。

 

マックス・ジャコブ「二人のブルターニュ女性」1930年

港町にフエナン村のコワフを身に着けた女性が二人描かれた水彩画。コワフにレースのような飾りがついて一際華やかです。ブルターニュの住民であることに誇りを持って立っている。この作品を描いたジャコブはユダヤ人で、のちにナチスにつかまり収容所で亡くなったそうです。

 

展覧会では作品リストと共にブルターニュの地図も配布されていましたので写真にして載せます。

 

ブルターニュから少し話が逸れますが(汗)この地図を見て、モン・サン=ミッシェルはブルターニュとノルマンディの境目あたりにあるのを知りました。

 

同じテーマで開催された二つの展覧会で、19世紀中期から20世紀初頭のブルターニュ地方の自然や人々の暮らしや絵画をじっくりと鑑賞でき、西洋絵画の美術史においても重要な場所であることも知りました。時空の旅をじっくり堪能できた素敵な時間でもありました。

 

展覧会は 福島県立美術館 7月1日~8月27日 

     静岡市美術館  9月5日~10月22日

     豊橋市美術博物館 2024年 3月1日~4月7日

に巡回されるそうです。


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