ロバート・A・ハインライン『夏への扉[新訳版]』小尾芙佐訳 読みました!
家事全般を人の代わりに行ってくれるロボット・おそうじガール。
人間を低温状態にすることで年を取らないまま時間を経るコールドスリープ。
信頼していた仕事仲間の親友マイルズと、恋人のベルの二人に手酷く裏切られた若き発明家ダンが、仕事実績を横取りされるや席も失い、世間で話題になっているコールドスリープへと手を伸ばす……。
寒い冬に始まり、どこかに暖かな夏へと繋がっている扉はないだろうかと願い求めるSF小説です。
物語の前半は、信じていた仲間から突き放されたダンが、まだ見ぬ未来へと繋ぐ希望をコールドスリープに祈り、自分の敵となったマイルズとベルへの報復に燃える気持ちを駆り立てます。
ダンの語りはけっこうな饒舌で、読んでいるだけでわくわくさせてきます。敵への啖呵、わざと煽らす口先は爽快で格好いいです。
諸刃の剣、ほとんど全てを奪い取られたことへのすてみを思わせる彼の所作。ここのダンは威勢の良さで敵地に突入しただけに、次に来る急降下には本当につらい気持ちになります。
コールドスリープへと至る道程も、希望どころではなく……。
そして後半、ダンは未来で生活をたてながら一人の少女の影を追います。
その子の名前はフレドリカ。かつての親友マイルズの血の繋がらない娘で、古くからダンとよく遊んだとても仲の良い女の子でした。
ダンが彼女に託したある物が要となり、物語を引っ張っていきます。
探していた希望が、気づけば傍まで近づいてきている……ぐいぐいと場を盛り上げて感動のラストへと至ります。
『夏への扉』は、未来への希望が強く感じられる作品です。
これは 未来=希望 という意味合いとはおそらく異なります。
この物語はダンが語りてであることをふまえて、ダンにとっての未来が、自分にとって希望であってほしいという彼の思いが、彼の気持ちとして語りの前面に表れているのだと考えられます。繋がる人間関係、嫌な奴もいれば手を差し出してくれる優しい人々とも出会ったダン。未来、もっといえば彼は生きているこの世界が、きっと自分を幸せへと繋いでくれると信じられる、彼にとっての希望なのですね。
ダンは、世界が好きだ、と言葉にします。
彼のその肯定を、私は心から推します。
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