眠れる小鳥

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『平面いぬ。』 感想

2023年10月13日 19時48分29秒 | 小説

乙一『平面いぬ。』 感想です!

ホラー×切なさが心を打つ短編集。
初期の乙一作品の良さがぎゅっと詰まった4編です。


「石ノ目」

地方に古くから伝わる昔話・石ノ目は、暗い夜道で背後に感じる気配に対し、つい振り向いて目にするとその途端に石と化してしまう…という怖い話。和風メデューサのような怪奇が、山間で迷った男性教師2人に降りかかります。彼らは無事に帰還できるのか…
年老いた女性が暮らす、古民家に滞在する教師2人。生物を石に変える力を目の当たりにして女性の怪奇性が増す、背筋のぞぞぞっとなる嫌な感じがあります。ここでホラーの枠にとどまらず、心痛ましいある事情を融合させてくる技巧がさすがです…。恐怖心が哀切さへと変わる、その不思議な感覚がすごくよいです。
思い返せば人の思いが年月を交差する、悲しい物語でした。


「はじめ」

小学生の耕平と淳男が不都合を理由に生み出した、はじめという名の女の子。彼女は擦り切れた格好をしていて抱える環境も良くなくて、という設定をつけ人身御供にしていたら、なんと2人の前にはじめが現れて…どうやら幻覚のよう。耕平と淳男とはじめ、行動を共にするうちに3人は徐々に友情で結ばれていくのでした。
私の一押し短編です。はじめの存在が、2人にとって幻覚でありながら心の底から大切なものになる、絆の繋がりがとにかく愛おしいんです。
関係は悪友に近い3人。年を重ね中学生になり、高校生になり…変わると変わらないの間でたゆたう友情が、たどり着く場所。一介の幻であることを承知の上で2人の男子に寄り添うはじめ、明かされるその理由に思いが込み上げてきます。


「BLUE」

ぬいぐるみが5体、それぞれ王子と王女と騎士と白馬、そしてブルーという端切れでできた女の子。買われてやってきた家で愛を向けられますが、ただ1体ブルーだけが皆からはぶられてしまい。彼女は同じく嫌われる男の子の遊び道具になり散々な目に陥りますが、少しずつお互いに思いを向け合い始めて…
ぬいぐるみが動く恐怖、ファンタジックにはなれないのがリアルです。ブルーの視点が多い物語。家に住む面々の疑念が、いつ膨らんではじけるかとヒヤヒヤします。
底意地悪い登場人物の多さに目が行き、それに対応してブルーの純粋性が眩しいです。でも彼女は心がきれいすぎるんです…結末にはあまりの悲しみでした。


「平面いぬ。」

クラスメイトの縁で、腕に刺青の犬を彫ってもらった女の子・鈴木。可愛らしい犬は、なぜか動き出し、気ままに体中を転々とし始めます。うなったり吠えたり、言うことを聞かなくて、すっかり飼い犬を世話する気分で愛着に心躍ったり。そんな彼女は家族との不和が著しく、反抗的振る舞いをする日々に、衝撃の事実である両親と弟の余命僅かの宣告を知ってしまうのでした。
家族との深いすれ違いが、犬の刺青のユーモラスに程よいバランスで微笑ましく読み進められます。
刻々と迫る命の終わりに悔いを捨てていく家族と、一人残されるのが確定している鈴木。このままそのときを迎えることを考え始める、彼女の不器用な心の揺れ動きが真っ直ぐに伝わります。迷える彼女の決心とその終着に、心からの優しさが溢れました。


乙一先生の小説、あれやこれやの過去作品も新装版で再集録されないかなと思いつつ、心ゆくまで楽しめました。


コメント (2)    この記事についてブログを書く
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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (まじく)
2023-10-13 20:18:49
すごく読書家ですね。丁寧に感想を書かれていて尊敬します。月に何冊くらい読まれますか?
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Unknown (ちいさなはと)
2023-10-13 21:24:16
月に10冊を目標にしてます。小説とラノベを半々くらいで。気ままなただの本好きです!
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