キシリ徹の!おんぼろファクトリー操業記

キシリ徹の
架空CMソングの作詞・作曲・制作の経緯、小さなハプニングやイカしたグッズ
についての裏話を書きます!

<エッセイ> 『ばあちゃんとイタコ』 (やなせ・第一回)

2020-04-30 19:23:19 | 日記
 キシリ徹のやなせ京ノ介(どちらかというと歌っているほう・メガネをかけていないほう)です

このブログでは、曲の裏話以外に、メンバー2人それぞれのエッセイも時々書いていきます。その第一回です。
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『 ばあちゃんとイタコ 

1.僕の地元はこんなところ

 今年2月、社会情勢がこんなふうになる前、マニアフェスタ Vol.4終了とともに、北海道の実家に帰省した。

帰省は2年ぶりで、ありがたくもキシリ徹で作曲の仕事を頂いたり、取材をしてもらったりと色々あったので、報告も兼ねて一度帰ることにした。

 僕の地元は、北海道の道東、人口5000人割れ・高齢化率45%越えのほぼ限界集落。
コンビニは町に2個で・木材工場は9個ある。街の総面積の95%を森林が占め、3%を木材工場が占める。残り2%で市街地をやりくりしているド田舎だ。

 近年は更に過疎化が進行し、空き家だった家々すら消滅し、そこいらじゅうに空き地の目立つリアルマサラタウンになっていた。
くさむらに入ったらオーキド博士に注意されるかと思った。

そんな状況でも、町のド真ん中に、ピッカピカの新しい箱物の施設が作られたりしている。これは田舎あるあるなのだろうか。空想地図の皆さんに聞いてみたい。

 この町に住む学生は「学校帰りにカラオケに行く・マックに行く」など正統派の中高生っぽい過ごし方が出来ない。

 最寄りのカラオケまではバスで片道680円・30分かかる。
 中学生の財力でおいそれと頻繁に行くことはできないので、歌いたい曲を練習しまくり、溜めまくって3ヶ月に一回・往復1260円かけて行く。
それはちょっとした大イベントのため、一度に7時間半とかカラオケにいる。
マニアフェスタで声が枯れるまで歌った後、中学生の頃の三月に一度のカラオケを思い出す。

 学生たちの町内での過ごし方は、豊かすぎる自然と友達の家の2つを主だったバトルフィールドとして、遊びは自分たちで工夫して考えるしかない。
 その他、ヤンキーの先輩たちはセイコーマートのフードコートで数時間たむろし、店員に注意されている。ヤンキーでなければセイコーマートのフードコートに立ち入ることは許されない。これは後に”ヤンキーにならずんばセイコーマートのフードコートを得ず”という故事成語になっている。
 そして、中学生たちの初デートスポットは専ら、町営の『農業者トレーニングセンター』という施設だった。名前に隠しきれない田舎がにじみ出ているのが当時は恥ずかしかった。

 気候は盆地のため、夏は「今日日本で一番暑かった場所」・冬は「今日日本で一番寒かった場所」として全国ニュースで毎年地名を目にする、異常な寒暖差が特徴である。
 
 そんな、四季が豊かで娯楽に乏しい町で、想像力を駆使し工夫して遊びながら育った。自分たちが出演する妄想のバラエティ番組のテイで、放課後、大喜利や体当たり企画をして遊んでいた。
今の空想・妄想を元にした作曲に行き着いたのは、ド田舎の環境で育まれた、想像・妄想の習慣から必然的だったかもしれない。



2.美人すぎる議員、元気すぎる祖母

 自営業で両親は共働きだったので、幼い頃、母方の祖母に親代わりとして育てられた。

 祖母は今年で87歳で、所々に不調はあるらしいが、ハタから見てもバリバリに元気である。
 特に耳と口と脳が達者で、本当に止めどなく喋っている。
 
 祖母だけでなく、親族が基本的に皆おしゃべりで、実家では僕以外の家族が一斉に喋っているみたいな異常な瞬間が良くある。
 近しい人々に「おしゃべりだねえ」と言われる僕でも、実家に帰れば高倉健扱いだ。(無口という意味で。決して銀幕のスター扱いではない。撮影中焚き火があっても当たらないとかそういう精神性の話でもない)

 今回の帰省で、母親と共に祖母の家に寄ると、いつものようにCSで演歌チャンネルを垂れ流しにしていた。

 それを見ながら、
 「ヒロヤス(ばあちゃんの長男、僕から見て叔父)がこの前病気して~」
 「ユウジロウ(僕の弟)の研修が~」
など、子や孫の話を話したり、
 「今度(山内)惠介のコンサートにまた行く」
 「惠介は歌だけじゃなく、喋りもユーモアがあって面白い」
 「でも(氷川)きよしはサービス精神がない」
と、好きな演歌の話を延々していた。

 僕は、良い曲であれば何でも興味深く聞きたいタチなので、サブちゃんの新曲などにじっくりと耳を傾けていた。
 そして、独り言ぐらいの音量で「この”原譲二”ってサブちゃんの作曲のときの名義だよなー」とボソッと呟くと、
すかさず、祖母が「そう、ペンネームだよ。たぶん20代ぐらいから使ってるんじゃなかったかい」と原譲二についてのプチカウンターウンチクをかました。
耳と口と脳が達者だなあと思った。

 そして、キシリ徹の最近の動向について、祖母に簡単に話すと、
 「どんな作曲の仕事でも、一生懸命やって良いもの作るんだよ。
そしたらまた次の仕事につながってどんどんどんどん大きくなるはずだから。頑張れよ~」と言ってくれた。
普段そんなに話す機会もないので、こんな長尺でエールをくれたことに驚いたし、何より作曲についてめちゃくちゃ無駄なく的確な言い回しで、”もしかしてアンタが原譲二か!?”と思った。
 アンタが原譲二で俺が小金沢昇司かえ!?!?さしずめ弟は大江裕かえ!?!?耳と口と脳が達者か!?!?!?ともかくなんか嬉しかった。

 夕飯時になり、ばあちゃんも連れてうちに帰ろう、となったときに、母親が急になんでもないような顔でつぶやいた。
「あと3年だね、言われた話だと」
祖母が「そう」と同じような顔で返答した。

 何の話?と聞いてみたら、思わぬ展開になった。




3.ばあちゃんとイタコ

 ばあちゃんの夫、つまり僕から見て祖父は、40代で亡くなっている。
ある日、いつものように酔っ払って帰ってきて、翌朝そのまま眠るように、布団で息を引き取っていたらしい。
末っ子である、母親が14歳のときのことだったので、当然僕は祖父に会ったことがない。

 祖父について知ることは、祖母や母の兄弟から聞く
 ・仲間を大切にする人だった
 ・スポーツ、勉強、小唄などなんでも出来た
 ・町長選に出るように周りに薦められたが「そういう責任のある立場は向いていないから」と固辞した
 ・酒好きで、人を集めて毎日一人1升を飲んでいた(絶対盛ってる、チャックノリス伝説か!)

などの人物像と、神棚の近くにある、弓道をやっている勇ましい祖父の肖像のみだ。

 先ほどの”あと3年”の話は、そんな祖父が亡くなった直後の出来事から。
 当時40歳を目前にした祖母は、突然夫を亡くした喪失感からなかなか立ち直れずにいた。
そんなとき、友人から「町に有名なイタコさんが住んでいる」という話を聞きつけ、一度会ってみたらと提案されたらしい。

 少しでも夫と話したい、と思い、当時高校生だった、母の姉(僕からみて叔母)と共にそのイタコを尋ねた。
イタコさんはひとしきりの降霊術的なことを行うと、実際に目の前の彼女の身体に祖父が降りてきた。

イタコの身体を借りた祖父は、祖母に
 「俺は突然死んでしまって迷惑をかけた。本当に迷惑をかけてばかりで申し訳ない。
  だから、俺の力でお前を90までは絶対に生かす!」と約束したそうだ。
 祖母は現在87歳。
そのときの祖父の言葉をもって、”あと3年”と言っていたのだった。

 全く聞いたことがなかったし、母と祖母から突然に飛び出した霊性の話が不思議で、何と言えばいいかわからずぼっとしていた。
 母と祖母は「あのとき私も一緒にイタコさんに会いたかったよ!」「アンタまだ中学生だったからやめるって言ってたしょ」とか笑いながらやりとりしていた。

 続けて母が「でも本当だったらあと3年でしょ」と言うと、祖母は

「そんなね、ヒロヤス(叔父)も病気して心配だし、リョウタロウ(僕の本名)もこれからだし、ユウジロウ(弟)も将来楽しみだし、あと3年じゃ死ねないよ!!とより元気な口調で言ってのけた。

 母の「じゃあどうすんのさ笑」という問いには、
「また新しいイタコさんを探してね、じいちゃんに言いに行く!”3年じゃ足りない、もっと頑張れ!!”って」と豪快に言い放ったのであった。

 40代から女手一人で、4人の子を無事に成人させ、現在は孫もたくさんいる祖母だが、
(特に経済的には)決して、楽な半生ではなかったであろうし、心配事も尽きなかっただろう。
それでも、じいちゃんとの約束の齢90をまだ足りないと言い放ち、あの世のじいちゃんに喝を入れる力強さ。そして、イタコへの絶対的な信頼に少し笑ってしまった。

 ばあちゃんにしてみれば長男である叔父は60を超えている。それでも子として心配し続ける母の親心。
 更に、30になった僕のことも、20前後の弟のことも、皆を心配する慈愛は文字通りのグランドマザーすぎる。
これは100まで生きる、口も耳も脳も達者なままに…と僕は確信した。
じいちゃんにはもっと頑張ってもらい、誰かに良いイタコを紹介してもらえば、呪力+持ち前の生命力の両輪で300歳ぐらいまで生きるかもしれない。

 芸術のフィールドでは、御年91歳のアレハンドロ・ホドロフスキー監督が新作を出したり、現役バリバリの御仁がたくさんいて、そういう人を見ると「歳を取るのも悪くなさそうだしむしろ楽しそうだ」と思ったりする。
人生には面倒なことが多く、嫌になることも多いが、僕は甲本ヒロトが歌うように”生まれたからには生きてやる”と思っている派なので、現役の先人たちの楽しみ方の良いところに倣って、なるべく楽しくいたいと考えている。

 世に知られる作品こそないが、うちのばあちゃんも変わらないぐらい、生きて楽しむこと、に関して現役だった。惠介のコンサートや孫たちの将来、まだまだ楽しみがあるという。
 少しきざな言い方をすると、タモリさんじゃないが、ご先祖のリレーの上にたまたまいる自分は、ばあちゃんの作品の一つなのかも知れない。
それを目的にやっているわけではないが、ばあちゃんの作品が少しでも世に知られたら、ばあちゃんも、会ったことのないじいちゃんもウケてくれるかな、とちょっと思っている。

〈架空CMソング制作秘話〉 「出来る男は漏らさない 大人用紙おむつギルティセーフ」ができるまで (第3回)

2020-04-24 17:00:00 | 架空CMソング制作秘話

  • こんにちは。
キシリ徹のタニケンです。

制作秘話第3回は「出来る男は漏らさない 大人用紙おむつギルティセーフ」です!!


【着想】
 架空の商品名は難しい
 そもそも最初は、「大人用」とかの括りなしで紙おむつのCMソングを作ろうとしていました。
 架空の商品名を考えるのは架空の企業名を考えるよりも断然難しいのです。

 商品の特性をその語感からイメージすることができて、且つキャッチーな商品名を考えるのは至難の技です。実在の商品の企画会議でも相当頭を悩ませる作業でしょう。

 我々の場合、商品がそもそも存在しないので商品を想像することから始まります。
 しかし自分自身、表向きは紙おむつユーザーではないため、「こんな紙おむつあったらいいな~」という想像が全然膨らまない。

 かといって一般的な紙おむつを想像してみても既存の商品「メリーズ」や「パンパース」を超える商品名が思いつかず、ネーミングの段階でかなり難航していました。

 かっこいい大人用紙おむつ「漏らす」=ギルティ?
 そんな折に、やなせが「かっこいい大人用紙おむつにしよう」と持ちかけてきました。

 やなせ曰く、みうらじゅんさんが「なんで紙おむつはみんな同じ(デザイン)なんだ」「おじいちゃんになってもカルバンクラインのおむつとか履きたいよ」といった旨の発言をしていたとのことで、この言葉に深く感銘を受けたそうです。

 そういうわけでやなせから「かっこいい紙おむつの名前、なんかない?」と聞かれたので「ギルティセーフ…」とぼそっとつぶやいたらそれで決定してしまいました。
かっこいいの方向性これでいいの?


 出来る男とは?
 「キャッチコピーも考えてくれ」といわれたので、そこで、「黄昏時にはまだ早い」を提示しました。このフレーズは曲中の2番の歌詞に使われていますね。

 「もっとシンプルでパンチのあるコピーがほしい」といわれたので、そこで「出来る男は漏らさない」というフレーズが誕生しました。

 冷静に考えてみると「そもそも出来る男じゃなくても漏らさないのが普通では?」って考えちゃいますよね。

 この場合は、「漏らす」は失禁ではなく、失禁して外部に漏出させてしまうことを指すのか?

 だとすれば、「出来ない男」とは「紙おむつはダサいから嫌だ!」と駄々をこねて紙おむつを履かずにズボンに染みさせちゃう男を指し、「出来る男」とは、かっこいい紙おむつをキメて、失禁しても涼しげな顔してBarのカウンターでマティーニを嗜む男を指すのだろうか?出来る男認定ガバガバ過ぎない?
 
 その他、この商品名とキャッチコピーに関する考察を以下に記す。
  • 「漏らさない」ではなく「濡らさない」が正。
  • ギルティは尿あるいは失禁を指す。
  • ギルティは発生してはいるが、おむつによって包まれ、外界には顕現していない状態およびこの場合のおむつをギルティセーフと呼ぶ。
 
【楽曲解説】
 この曲については、ソウルやAORを志向して作曲しました。特にやなせはミスターAORことBobby Caldwellが大好きでライブを観に行くほど。
 作曲当時も音源をかなり聴いていました。

 リズム楽器以外には歌、オルガン、ギター、リズムコーラスといった編成で音数もあまり多くせずシンプルなアレンジです。ギターの音とかオブリガードの感じとかGOODですね〜。

 コード進行に関してもBobby Caldwellの「What You Won't Do for Love」を参考にしつつ工夫を重ねました。

 この曲のコード進行は、数々の曲で引用されている他、HIPHOPのフィールドでも2pacがサンプリングしたりと、名曲中の名曲です。

 そんな曲のコード進行を引用しながら作るのは、ある程度の艶感や流麗さが担保されている分、シンプルかつ良質な仕上がりにするのはある種難しかったようです。

 当時やなせが特に聞いていた、70年代のソウル的な洒脱さも加えようと思いましたが、あまり要素が入らず(強いて言うならメロディラインの切なさ・アンニュイさにLeon Wareの影響があります)。

 最終的には、AORに60年代以前のソウルやオールディーズを匂わせる仕上がりになったかと思います。

 あと、まさか自分たちの曲で「Because I love you.」という歌詞を歌うことになるとは思いませんでしたね…。






【その他 裏話】
 デザインについて

このデザインのイラストは、スタッフ酒本が担当しました。出来る男感が滲み出てますね。
 やなせから「『酔いどれ天使』の三船敏郎みたいな男性が夜の波止場でおむつはいてカッコつけてる感じ」などといったリクエストに応じ、細部まで拘って描いてくれました。背景の感じも商品のイメージに一致してCOOL!ですね。
 ところでこの男性、カッコつけてるけどおむつの中ではギルティしているんだろうか。それともただ趣味で履いて見せつけているのだろうか…。
 あとわざわざネクタイ締めて、オムツにシャツインしてますけどこれでフォーマルの装いのつもりなんだろうか?かといってカジュアルなわけでもないし。なんせズボン履いていないからな…。


 
 ラジオにて明かされるギルティセーフ開発秘話
 キシリ徹のからくりナイスキャッチ!第11回には、ギルティセーフの販売元、T&Mコーポレーション代表 峰総一朗さんがゲストで参加してくださいました。
 日用品のファッション化を理念として事業を展開するT&M(TAICHI&Majority)コーポレーション。
 代表である峰さんと、ギルティセーフを始めとする大半の商品のデザインを手掛る世界的デザイナーKIHARA TAICHIさんとの運命的な出会いについて、赤裸々に語っていただきました!
 収録中、またやなせが失踪してしまって大変だったけどいろいろ素敵な話が聞けて最高だったな〜。











〈架空CMソング制作秘話〉 「だるま落とし代行サービス 達磨の達人 達達(だるたつ)」ができるまで (第2回)

2020-04-17 17:00:00 | 架空CMソング制作秘話
 こんにちは!!!!
 キシリ徹の”口からでまかせ”担当のタニケンです。
 第2回は、先週の水曜日に公開されたばかりの「だるま落とし代行サービス 達磨の達人 達達(だるたつ)」について書きます!

 ちょうど公開されたばかりなので、この楽曲の紹介をすることにしましたが、第2回でこんな変わり種の楽曲でいいのか…。





【着想】
 アイデアは2年以上前から
 前述した通り、公開はつい最近なのですが、作曲したのは1年以上前だし、着想を得たのさらに1年前くらいですかね。

 我々の現段階の活動でいえば初期〜中期の楽曲といったところです。着想から2年以上の時を経てやっと公開に至ったのです。


 活動初期(架空CMソング10〜20曲程度)
 初期の10曲の中には、夢を録画するビデオ「タカハシの夢ビデオ」という現実には到底ありえない商品を扱った楽曲があった。

https://youtu.be/QVngeB3FxUs

 「ありそう」な企業や商品を考えることを基本的なルールとしてはいるが、「ありえない」企業や商品を「ある」体で大真面目に作ることは大変バカげていて面白い(そもそもない企業や商品の曲を大真面目に作ることもバカげてはいるが)。
 
 「ありそう」な曲に比べて、勝手なことを謳っても差し支えないので、ボケしろ(素っ頓狂なワードや設定を差し込む余地)が多い。
 
 この頃、また「ありえない」路線の曲を作りたいと考えていました。

 CMソングを制作する上で、目標とする曲の一つとしてクラシアンのCMソングがある。小林亜星さん作曲のこの曲は、曲の中でサービス内容や値段を紹介し、最後に社名が入る。

 短い曲で必要な情報がしっかり伝わるし、一度聴けば忘れられないキャッチーなメロディは流石である。

 当時、改めてこの曲を聴き、その素晴らしさを再認識していた。

 そういった中で「ありえない出張サービス」を作ろうと思いました。

 「わざわざ出張してもらってなにをやってもらおう?」と考えたとき、「だるま落としを人に頼んでやってもらうのめちゃくちゃバカだな…。ていうか人に頼んだら醍醐味なくなるだろ。」と思い、「だるま落とし代行サービス」という言葉を口に出してみました。
 
 その響きのあまりのバカバカしさに、往来で不気味な笑みを浮かべてしまいました。

 そういえばチョコレートプラネットのポテチの袋を開ける業者のネタの影響もありますね。


 作曲は一旦保留に
 アイデアをやなせに伝え、作曲を開始しましたが、曲の方向性がいまいち定まらず頓挫しました。

 思えばこの頃は、現在に比べて二人の中で作曲方法が確立されていなかったように思います。

 企業の具体的なイメージが定まらないなかコードやメロディを考えてみても、既存曲と似たものになってしまったりで納得のいくものはできませんでした。

 他にも候補のアイデアがあったので、この楽曲は一旦保留としました。
 
 なんだかんだでロックオペラ調に
 保留より一年ほど経ったころ、やなせは、僕がテキトーに提案した「洗濯エマージェンシー! クリーニングの花岡」という企業のCMソング制作に着手していました。
 
 やなせが一人で作曲して結果ボツと判断したらしいですが、発案した僕自身、一切覚えていません
 まさしく”口からでまかせ”担当たる所以ですね。

 「洗エマ」は、服が汚れたことに対する嘆きから展開するロックオペラ調の曲として作曲していましたが、歌詞が散文的(といえば聞こえはいいが)でまとまりが無く、曲として成立することができず、僕に聞かせることもなくボツにしたそうです。

 そこで、「だるま落とし代行サービスならロックオペラできるんじゃないか」と考え、「だるま落とし代行サービス 達磨の達人 達達」として再び制作に着手しました。
 わざわざこんな題材をロックオペラにするところが我々らしいですね。

【楽曲解説】
 やなせは当時、札幌のすすきの付近に住んでおり、冬のすすきのの路地をうろうろしながら曲を練っていたので、「冬のすすきの」のイメージが曲に反映されてる(らしいです)。

 この曲を作る上にあたり、10ccの3rdアルバム「The Original Soundtrack」をよく聴きました。

 ポップスに実験的な要素が多分に盛り込まれたアルバムです。

 特に、このアルバムを機に脱退するゴドレーとクレームによる実験的な音響の面白さや、感覚には大いに影響を受けています。

 そういった影響を盛り込むべく、アレンジにはかなり時間をかけました。

 あと、もちろんクイーンも聴き直しました。アルバムで言えば「QueenⅡ」「オペラ座の夜」

 楽曲終盤のリードギターの音作りなど、少しブライアン・メイ風味を加えました。

 全体のオペラ的歌唱法は、クラウス・ノミを意識しています。(特に裏声の雰囲気)

 他に言えば、ちょっとだけショパンの風味をいれたり、キング・クリムゾン「Moonchild」の間奏の静けさをイメージしたりしてます(前回は日本のバンドのMOON CHILDの話を書いたな)。

 この曲の歌詞は、だるま落としで窮地に立たされた人に光が差し込んでくる感じです。

 「失敗したら終わりです」っておそらく誰の共感も得られないことを深刻に歌うの頭おかしいですね。










 
【その他 裏話】
 広告デザインについて

 
 広告のデザインについては、スタッフに担当してもらいました。イメージとしてはクラシアンなどの冷蔵庫マグネットの感じですね。

 「お電話一本!とりあえずすぐ行きます!」とか具体的なことを言わない文言は我々の作品では多く登場しますね。「桃園滋法律相談事務所」とかです。


 だるま落とし、遊戯の中で一番つまらない説
 「だるま落としは遊びの中で一番つまらないんじゃない?」とよく言っていた(だるま落としフリークの方がいたらごめんなさい)。

 幼いころ、児童館や親戚の家などで数回やった記憶はあるが、熱中した覚えが一切ない。成功させた記憶もない。

 「だるま落としやろー!」ってなったことあります?
 
 だるま落としを探して
 動画を作成するにあたりだるま落としが必要だったため、だるま落としを探して近所を歩き回った。

 100円ショップやリサイクルショップ、大きめのスーパーなどを探したが見つからない。
 けん玉コマは売っているというのに…。

 隣町の比較的大きい100円ショップに電話で問い合わせてもみたが、最近は入荷してないとのこと。やはり一番つまらない説は有力だ。

 「もしかして駄菓子屋にあるのでは?」と思い、一縷の望みをかけて駄菓子屋に向かった。

 店内にはけん玉や輪投げ(だるま落としの次につまらないと噂される遊戯)は陳列されていた。

 店主に「だるま落としありませんか?」と尋ねたら驚くべき言葉が返ってきた。

 「だるま落とし?昨日全部売れちゃったよ!!」



 …






 ……………







 だるま落としが売れた?そんな馬鹿な。

 私はとんだ思い違いをしていたのか?自分の認識が覆される恐怖と屈辱を感じ、言葉を失った。

 店主は無慈悲にも言葉を続けた。

 「コロナの影響で、みんな家で遊べるものを買っていくんだよ。」

 その説明にはある程度合点がいったため、私は少し気を取り直した。

 ゲームだけではなくそういった昔ながらの玩具の需要も高まっているのか。

 それはこのご時世で少し微笑ましいというか、文化的に好ましいことのように感じた。

 しかし、だるま落としで子どもたちの心は満たされるのか?有り余る余暇元気消化することはできるのか?私はだるま落としで10分以上遊んだことがない

 腑に落ちないという気持ちを排除することは敵わなかったが、それよりも目下の問題を解決しなければならない。

 またしてもだるま落としを入手することができなかった。
 
 このご時世にこれ以上外を出歩くのは好ましくない。
 
 背に腹は代えられない。最早、私にはamazonの力を借りる他に道は残されていなかった。
 
 だるま落としが届いて
 翌日、だるま落としが届きました。とりあえず久しぶりに遊んでみた。けっこう面白かった。小一時間くらい遊びました。





 
 〈終わり〉



〈架空CMソング制作秘話〉「〜60歳からの美容〜エンドレスビューティーマネジメント 小柳美容グループ」ができるまで (第1回)

2020-04-10 17:04:36 | 架空CMソング制作秘話
こんにちは。キシリ徹のドラムのタニケンです

ここでは、キシリ徹の楽曲の制作秘話や、楽曲解説などを書いていこうと思います。

第1回は、「~60歳からの美容~ エンドレスビューティーマネジメント 小柳美容グループ」についてです!


【着想】
 キシリ徹として、最初に作った曲です。こいつは。

 CMソングを聴き漁るようになってから、資生堂や、NOEVIRコスメティックルネッサンスのCM動画をよく見ていたので、美容系のCMソングが最初になったのも必然だったのかも。

 美容系といえば他にも大塚美容形成外科のCMソングなども僕らにとっては馴染み深いものでした。あの曲も最高なんだよな。


プロジェクト立ち上げと同時に着想
 ある日、やなせから「キシリ徹ってユニット名で架空のCMソングを作るから、架空の企業名とコピーを考えて」とLINEがきました。 説明不足が過ぎる。

 LINEを見た数秒後には、僕の頭に「小柳美容グループ」という言葉が浮かんでいた。

 「グループ」って言葉を付けると「実態は知らないけど、それなりにでかい企業なんだろうな」という感じがして面白い。

 そういう企業けっこうありますよね。あと、いま考えても美容グループの前に付く言葉は「小柳」が最適だよな~。

 より胡散臭さとか大げさな感じをエッセンスとして加えたら面白くなりそうだと思い、~60歳からの美容~エンドレスビューティーマネジメントを付け加えた。
 「エンドレス」とか大げさな横文字は総じて面白い。

 2分足らずでやなせに返信したところ、すぐさまやなせから返信が来た。

 「すでに曲を思いついたわ」とのこと。

 こうしてキシリ徹を結成してからものの数分で、初仕事「~60歳からの美容~エンドレスビューティーマネジメント小柳美容グループ」のCMソング制作依頼を受注する運びとなりました。


【楽曲解説・聴きどころ】
 コード進行や曲の展開がギュッと凝縮されている感じで、いかにも我々らしい楽曲の仕上がりになったなと思います。リバーブの感じもGOOD!ですね。

 この時期やなせはソウルを聴き直していたので、Donny Hathawayなどの影響も多分に盛り込みました。

 そうは言ってもソウルをまだしっかりとは咀嚼できておらず、ポップスのフィールドでソウルをやっているような仕上がりになり、そういった点もこの楽曲の魅力と言えると思います。

 最後にいい感じの声でタイトルのナレーションが入るのが素敵ですね。
 それこそコスメティックルネッサンスのCMの雰囲気に影響を受けていたから、ナレーション部分は最初から決めて作曲しました。

 歌い方に関しては、MOON CHILDの影響などもあるかもしれないですね。あと、僕(タニケン)の裏声のコーラスも冴えてるな~。以後の楽曲で頻繁に裏声のコーラスを要求されるようになった一因かも。
 コーラスに関してもMOON CHILDの1stアルバムの感じを意識していますね。

 こう振り返ってみると、我々が高校生のときからよく聴いていたMOON CHILDのポップ感と、作曲当時傾倒していたソウル感が融合された楽曲といえますね。







【その他 裏話】
 フリー素材のおばあちゃん
 
 この広告のデザインは友人に依頼して作ってもらいました。おばあちゃんはフリー素材。
 当時「フリー素材のおばあちゃん」という言葉がツボだったので二人で連呼していた。

 「いい曲だな~」って言っちゃう
 最初に作った曲にして、いかにもやなせらしいコード感や艶感タニケンっぽいワードセンスの光る楽曲であり、我々の意匠や活動について手っ取り早くが伝えられる楽曲なので、非常に愛着があります。

 しかし、マニアフェスタでは、リクエスト用のお品書きの一番上にあるため、なかなかリクエストしてもらえず…。

 なのでたまにリクエストしてもらうと、演奏後に必ず「いや~いい曲だな~」と必ず言ってしまう。

 いい曲なのでもっとリクエストしてくれよな!

 からくりナイスキャッチの初回ゲストも小柳美容グループから
 You Tubeで公開中のキシリ徹のラジオ「からくりナイスキャッチ!」第1回ゲストも小柳美容グループから小柳正幸会長がいらっしゃいました!

 小柳会長に、おでん屋台を経営していたころから小柳美容グループの設立に至るまでの経緯や、美しさを維持するための通過儀礼などについて語っていただきました。

 収録中にやなせが失踪してしまうし、小柳会長はハイパー癖の強いおじいちゃんだし、めちゃくちゃ大変だったな~。


〈終わり〉