未来の少女 キラシャの恋の物語

みなさんはどんな未来を創造しますか?

第18章 見えない明日 ④

2021-04-02 17:24:09 | 未来記

2012-02-28

4.行方不明の兄達

 

パールには、2人の兄と1人の姉、そして1人の弟がいた。

 

意識の戻らないパールのお父さんと、そばで甘えるパールをみんなでじっと見守っていると、少し騒がしい男の子の声と足音が聞こえてきた。

 

やがてこの部屋の前で その足音が止まった。

 

「ママ、パールはどこ?

 

ボク、待ち切れなかったから、マリおねぇちゃんを外へ置いてきたよ。だって、マリおねぇちゃん、中へ入ろうとしないンだもン!」

 

パールは、不安そうにその少年の顔を見つめた。

 

その少年も、ギョッとした顔をしてパールを見つめた。

 

「パール…?」

 

パールはうなずいて、民族の言葉で少年に話しかけた。

 

 

「セブ?

 

私、見事に変身したでしょ?

 

もう、新しい身体に生まれ変わったの。

 

前みたいに、あなたの鼻水を私の身体になすりつけないでね! 」

 

 

パールの弟は、鼻をたらしたいたずら顔でニヤリとしながら、OKのサインを示した。

 

キラシャ達は、パールのママに言葉の意味を説明してもらい、笑いながらセブを取り囲んだ。

 

セブは民族の言葉しか話さないが、パールの通訳で、こんなことを言っていたようだ。

 

 

「うちの兄弟は、ここじゃ、そんなに多い方じゃないンだ。

 

だって、多いとこだと、10人以上はザラにいるもン。

 

まぁ、死んでく子も多いけど…。

 

 

でも、うちはどんなに食べるモンがなくっても、分け合って食べて来たンだ。

 

パールは、いつも最後の一口をボクにくれたよ。

 

だけど、ボクの口に入れるとき、いつもこう言うンだ。

 

『あなたの鼻水を 私の身体になすりつけないでね!』って…」

 

パールは、通訳しながら自分のセリフを、さも真剣そうに言ったので、キラシャ達も吹き出して笑った。

 

1人っ子のキラシャは、兄弟が多いパールをうらやましく思った。

 

パールの姉マリは、エア・ポートから同行した青年が、外まで迎えに行ったらしく、一緒に部屋に入って来た。

 

とても仲が良さそうな雰囲気で、お互いを見つめては、照れた顔をしている。

 

マリも、パールを見ると驚いた様子だったが、やがて母親似のやさしい笑顔になると、

 

「パール、会いたかった…! 」と言って、ギュッと抱きしめた。

 

パールは、青年のことをマリに紹介してもらい、ちょっとうらやましそうにほほ笑んだ。

 

パールのママも、ニコニコしながら、青年とマリの出会いや、交際が順調に進んでいることを話した。

 

「この2人の将来が楽しみで、私達家族は、今をつないでいます。

 

どんなつらいことがあっても、この子達が次の時代を、自分達で乗り越えて、平和に暮らすことができるように、希望を託したいと思うからです。

 

けれど…」

 

パールのママは、生死をさまよっている夫の姿を見つめながら、苦痛の表情を浮かべた。

 

「パールの2人の兄は、行方不明なのです。

 

亡くなったという知らせはないものの、一番凄まじい戦いの時に出て行ったのですから、生きているという望みはほとんどありません。

 

例え生きていたとしても、捕虜として冷酷な民族につかまっていたら、死んでいるよりもっとつらい日々を送っているのではと思うと、胸が張り裂けそうになります…」

 

オパールおばさんは、姉に与えられた試練の重さを想って、車いすから手をのばし、姉の手を握って自分の頬にあてた。


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