2008-03-02
4.捕らわれの身
タケルは、キララに連れられて、宇宙船の発着場にたどり着いた。
古びた小さな貨物運搬用の宇宙船の前で、船長らしい男が、イライラしながら立っていた。
あまり目が良く見えないのか、男女2人の子供が近づくのを確認して、ようやく声をかけてきた。
「えらく時間がかかったじゃないか、アニョーシャ。あの古いショック銃が効くのは、そう長い時間じゃないんだ。急いでもらわないと困るよ、アニョーシャ」
『アニョーシャ? こいつキララって名前じゃないのか? 』
「アニョーシャはやめてくれって、言ってるだろ? アンタの昔のパートナーだか知ンないけど、その女の名前で、アタシを呼ぶのはやめなよ! 」
「いいじゃないか、アニョーシャ。どうせ、おまえには名前がないんだ。そいつには、なんて呼ばせているのか知らないが、オレはアニョーシャが気に入ってるからな」
『名前がない? いったいこの子は…?』
「ゲームに夢中になってたから遅くなったけどさ。
コイツはアンタのこと、まるっきり知らないンだ。
それより、早く親に会わせて、これからやることを説明してヤンナ! 」
「それもそうだな。そこのボウヤ、パパに会わしてやるから、しばらくじっとしときな! 」
周りにいた2,3人の男達が、タケルの身体を金属の鎖で縛りつけると、キララは無表情でスーッと消えて行った。
「キララ! どこへ行くンだ!」
大声で叫びながら、タケルは自分を縛っている鎖を引き剥がそうとしたが、身体が思うように動かない。
タケルを船内に運ばせると、鎖の先を手すりの柱に固定した船長らしき男は、タケルをしかるように言った。
「あいつは、幽霊なンだ。
オマエはなんて名前付けてるか知らないが、アイツは出たいときに出てくるし、消えたいときにはいつでも消えて行くさ。
人間じゃないからな! 」
「でも、幽霊だったら、あんなにはっきり見えないだろ!
レストランにいたときだって、普通に注文してたし、ジュースだって飲んでたじゃないか! 」
タケルは暴れながら、叫んだ。
「いい加減にしろ! お前は、もうオレたちの操り人形なンだ。自分の立場を考えろ! 」
「いったい、あんたたちは、何者なンだ! オレをどうするつもりだ!」
「ちょっとな。ボウヤに働いてもらいたいことがある。お前サンの家族のためにナ…」
「家族? パパやママに何かしたのか? 何かあったら、オレ、絶対許しちゃオカネェ」
「それじゃ、会わせてやるよ。お前のパパは、この船の中でまだ気を失ってるが、ママはもうすぐ仲間が連れて来る。この2人が無事でいられるかは、お前にかかってるンだよ! 」
船長らしき男は、周りの男たちに手で指図した。タケルと同じように金属の鎖で縛られたトオルが、気絶したまま2人がかりで抱えられて来た。
「どうだ。今のところ、ボウヤのパパは縛られているが、無傷だ。でも、お前さんの返事によっちゃ、パパの命も保障は出来ないぜ…」
男は、持っていたナイフをタケルの顔の前にかざした。
「オレ、まだ意味わかンないんだけど、いったい何をすれば、パパが助かるって言うンだ?」
「そうだな。おじさん達の指示に、ちゃんと従えるか? まずは、それが第一だ」
「何をするのか、言わないと返事できない。おじさんたち、いったい何モンなんだ?」
「オレ達のことは、知らなくていい。ボウヤは言われた通りに動けばいいンだ。そのときには、アニョーシャも現れるだろう。あいつは面倒なことがきらいだからな。
ホントはアニョーシャがやってくれりゃ、簡単に済んだ話なンだがな。あいつは、自分の気に入った奴を使わないと、オレたちに手助けしちゃくれない。
まったく、あいつは気まぐれでわがままな化け猫だよ、まったく…」
「オレには、キララって言ったンだ。友達だと思ってたのが、間違ってたのか…」
「そうだな。まぁ、ボウヤもこの先に人生があるなら、女には気をつけたがいいな。さぁ、どうだ。言うこと聞くのか、聞かないのか?」
そのとき、船の外側で口笛を鳴らす音が聞こえた。
「さぁて、ボウヤのママもご到着だ。あまり、大声を出されても困る。
ボウヤ、悪いがちょっと眠ってもらうよ」
そばで光が見えたと思うと、タケルはすぐに気を失った。
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