2008-11-01
5.裁判
カイの裁判は、いつになく厳重な監視体制で行われたが、各ホームルームで反省会を行った効果があったのか、特に混乱もなく、決められた日程を終え、静かに判決が下された。
裁判では、相手が手を出したから、しかたなく応じたと、正当防衛を訴える生徒も何人かいたが、裁判官はこう言った。
「パトロール隊員は君達のケンカを止めるために、誰ひとりとして、殴るという行為はしなかった、と報告を受けている。
君達を取り押さえるために、自分が君達のパンチをクラってもだ。
君達には、殴られても殴り返すことをしない努力が、防犯カメラで確認することができなかった。
ここでは、どんな腹の立つことがあっても、相手に危害を加えてはいけないというルールがある。
このルールに従えず、このような暴力行為をおこなった者は、このスクール内での教育を受ける資格がないと判定する。
ケンカをした両グループのうち、スクール内の防犯カメラを確認して、激しい暴力行為を行ったと、裁判員から意見のあった生徒について、次のような処分を行う」
主犯のゼノン以下、暴力行為が甚だしかった生徒は退学処分となり、その数は20人を超えた。
ゼノンに足を引っかけられて気を失ったカイは、被害者なのでおとがめなしだったのだが、自分のせいで仲間が退学になってしまったことに、いたたまれない様子だった。
裁判のあとで、仲間がイジメを受けるかもしれないという気持ちが強かったらしく、キラシャの言うように、自分の言いたいことを訴えることは、できなかったようだ。
そんなカイに、ユウキ先生から他のスクールに転校することも、アドバイスを受けたが、カイの家族も今回のことで、別のエリアへ移る決心がついたようだ。
カイの表情に、少し明るさが戻った。
裁判が終わってから、移住の報告にユウキ先生を訪ねたカイは、こう言った。
「ユウキ タイセツ。
ボク ユウキ ナカッタ。
トモダチ ボクノタメ タタカッタ。
デモ ボク ナニモ デキナカッタ。
カナシカッタヨ。
デモ ツギノ トコデ タタカウ。
センセ ノ ナマエ ワスレナイ」
ユウキ先生のユウキには、勇気という意味もある。
「おいおい、戦うって。ケンカや戦争は、しちゃだめなんだよ。戦わない勇気だって、必要なんだ。この裁判で、それをわかって欲しかったんだけどな」
「OK。ルール ヤ ヒト ダイジニスル。
ヘイワニ ツナガル。
スコシ ベンキョウシタネ。
ミンナニ アリガト ツタエテ。
GOOD-BY…」
カイは、うれしそうにユウキ先生に別れを告げた。
多額の寄付をしていた、ゼノンの親族の皇族も、裁判の結果を受けて、他の安全なドームへ移ることにしたらしい。
ドームの管理局にとって、この判決は資金源を減らすことになるので、裏でいろいろ画策する人もいたようだが、ルールに基づいた判決には、従わなくてはならない。
この裁判によって、大きな影響を受けたのは、もう少し財源があれば、休暇の活動や、旅行にも補助金を出してもらえた子供達だろうか。
補助金を当てにして、旅行の準備をしていた生徒の中には、資金が足らずにあきらめた子もいたようだ。
どのドームも、将来を考えた財源を確保することが、資金を求める住民の支持を受ける元となる。
その犠牲になるのは、やはり弱者である子供達なのかもしれない…。
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