未来の少女 キラシャの恋の物語

みなさんはどんな未来を創造しますか?

第14章 善と悪 ⑥

2021-05-29 17:14:01 | 未来記

2008-12-10

6.パレード

 

このスクールでは、毎年さまざまな分野で優秀だった生徒の表彰式がある。

 

スクールの中で一番広い食堂が、表彰式の会場に早変わりして、その日は朝から初級コース・中級コース・上級コースの順番に表彰が行われた。

 

キラシャも表彰式に参加したが、今回は拍手をする側に回った。

 

同じ部屋の子では、リコが共通語の成績優秀者のひとりとして、バッジを受けていた。

 

キラシャは『あたしも、共通語がうまく話せるようになったら、タケルを追いかけて宇宙に行けるンだけどな…』と思った。

 

上級コースの表彰も終わりに近づくと、いよいよ恋愛学のベスト・カップル賞の発表だ。

 

同じ部屋のケイとボブも素敵なカップルだなと、キラシャはうらやましくて憧れていたが、模範となったベスト・カップル賞は、ボランティア活動で活躍したカップルに贈られた。

 

このカップルは、ドームの人が集まる場所に、自分達で育てた花を贈り、今もその花がきれいに咲き誇って、街の雰囲気を良くしているのが、受賞の理由だ。

 

毎年恒例のように、先生方の策略で、子供達には興味のないカップルが選ばれている。

 

生徒による投票では、オリン・ゲームで好評だった、ルディとジャンの美男美女カップルに入れる子が多かったのだが、卒業生ではないということで、除外されてしまった。

 

今回は、お笑い系で評判だった男子と、まったく不釣り合いなくらいお嬢様系のカップルが、異色の組み合わせということで評判となり、ベスト・カップル賞に選ばれた。

 

2つのカップルが、表彰台に上がると、生徒達からキッスのコールが始まる。

 

4人は照れながらも、お互いを見つめ合ってバッジを着け合うと、大勢の拍手と口笛が響く中、何度も練習したキッスを披露した。

 

昼食はいつものように、同じ食堂でハンバーガーとドリンクを受け取ると、適当な所で友達と雑談しながら済ませ、パレードの準備に移る。

 

午後になると、スクールで表彰された生徒達が、その証であるバッジを胸に輝かせて、街で行われるパレードに、音楽隊の後に続いて参加した。

 

中には、人質に遭ったタケルの救出に、一役買ったヒロも含まれている。

 

タケルとのケンカで、飛び級のチャンスを逃したヒロだったが、今まで成績でもらったバッジよりも、今回のバッジの方が誇らしげだ。

 

キラシャには、心配したユウキ先生が病室に来て、タケルが危ない目に遭ったことと、ヒロの機転が事件の早期解決につながって、タケルも無事に救出されたことを教えてもらった。

 

タケルのことを黙っていたことを先生は悪かったと言ったが、タケルの性格を考えて、黙っていたんだと言われると、キラシャは何も言えなかった。

 

キラシャは、結局再テストの結果が出るまで、タケルへのメールをおあずけにした。

 

だって、ちゃんと進級してないと、タケルが戻った時、すっごくバカにされそうだったから。

 

猛勉強の末に、無事に再テストですべて合格という通知を受けて、キラシャはようやくホッとして、タケルに短いメールを送った。

 

しかし、その時にはタケルが、再び人質事件に巻き込まれるなんて、キラシャもヒロも想像していなかっただろう…

 

 

パレードが終わった次の日は、卒業式だ。

 

このスクールに入ってから、長い子供は15年間を過ごしたチルドレンズ・ハウスからの卒業。

 

子供達にとって、先生や先輩から怒られながら、仲間と一緒に生活する毎日から、自分ひとりで部屋を借りて、大人へ仲間入りする第一歩を踏み出す成人の日でもある。

 

キャンドルライトに照らされて、着飾った卒業生達は、保護者や先生方の祝福を受け、代表が挨拶をして、自分達の思い出を語った。

 

ケイの晴れ姿も、これで見納め。

 

髪の毛をきれいにまとめ、お気に入りの服、お気に入りのアクセサリーでバッチリ決めた、モデルのようなケイ。  

 

キラシャは、ケイとの別れ際に、海洋牧場で見つけたきれいな光る石をプレゼントした。

 

「ケイの部屋に、絶対遊びに行くからね。また、きれいな石を見つけたら持って行くよ。今度は、ケイのデザインで指輪でも作ってね!」

 

「あぁ、待ってるよ。いつか、有名なデザイナーになって、キラシャのかわいい結婚指輪、作ってあげるよ」

 

「ありがとう、ケイ。あたしも楽しみだよ。ボブとも、仲良くやってね!」

 

「もちろんだよ。カレッジ卒業したら一緒に暮すンだ。自分の指輪は、自分でデザインしないとね。いい石が見つかったら、ちゃんと持って来るンだよ。じゃぁ、元気で!

 

みんなと仲良くやるんだよ…」

 

ケイはボブと一緒に、スクールを後にした。

 

 

次の日は、終業式。

 

卒業生以外の学年が、再び食堂に集まり、この1年の反省をして、休暇の過ごし方について、諸注意があった。

 

今回は、乱闘騒ぎがあったせいか、外出はなるべく控えめにと指導もあり、財政上の都合もあって、旅行に出かけられない生徒が多かったため、不満な顔が多い。

 

一方、ゲーム会社の好意で、指定された新しいゲームが、休暇限定で無料になるらしい。

 

試験段階のゲームなので、会社は子供達の反応を見て、ゲームの出来栄えを確かめたいのだ。

 

ゲームをして、新しいアイデアを思いつき、その会社に報告した子供には、奨励金が贈られる。

 

子供達にとって、ゲームは単なる遊びではなく、資金源でもあるのだ。

 

ようやく次の日から、休暇が始まる。

 

多くの子供達が、チルドレンズ・ハウスから、保護者の元や旅行先へと移動し始めた。


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