未来の少女 キラシャの恋の物語

みなさんはどんな未来を創造しますか?

第19章 試練を乗り越えて ⑦

2021-03-17 16:42:33 | 未来記

 2013-01-28

7.老兵からのメッセージ

 

その広場に集まった人達の熱気が、音楽と踊りで最高潮に達したころ。

 

太鼓の音が、だんだんと場外へと離れていった。

 

笛や他の打・弦楽器を鳴らしている人は、広場の中央に集まってきた。

 

太鼓の音が遠ざかり、やがて消えてゆくと、アフカ・エリアでもっとも親しまれている曲が流れはじめ、静かで美しい音色に変わった。

 

広場のお祭りの様子を映していた画面も、アフカ・エリアのドーム外の自然を映し始めた。

 

人々は、踊りをやめ、静かにその風景を目で追った。

 

祖先から代々に受け継がれた自然。

 

自然は、すべての生き物を包み込み、命を育む場所と教えられてきたアフカの民族。

 

ドームの世界は、とても便利で、快適な日常生活を送ることができる。

 

しかし、ドームで必要なエネルギーや食料は、ドームの管理者達によって配給される。

 

ドームを利用する人達には、自分達で採ってきた自然のものをドームに持ち込んで食べることも許されなかった。

 

その不満が、民族間の紛争に拍車をかけてしまい、戦争が勃発したのだ。

 

人々は、あらためて自然の映像の美しさに引き込まれていった。

 

地球の自然を守ろうと戦っていたアフカの民族にとって、自然の風景を眺めることが、何よりも心を潤す原点なのかもしれない。

 

和やかな雰囲気に包まれ、ひとりの老人が映像に登場した。

 

老人は、人々に語り始めた。

 

「皆さん。

 

私を覚えておられるだろうか?

 

地球に向かって、大流星群が襲ってきたときのことを…。

 

私は防衛軍の一員として、皆さんと共に愛する地球を守るために戦った、

 

エリック・マグナーです」

 

集まっていた人々は、オーっと歓声を上げた。

 

ドーム社会を推進する人達には、エリック・マグナーが、大流星群襲来による混乱を十分に抑えられなかった、最悪の軍人という評価しかなかった。

 

しかし、アフカ・エリアでは、今も同じエリアの英雄として、あこがれの存在だ。

 

あの時、混乱したアフカ・エリアに、エリックの指示による防衛軍の助けがなかったら、隕石の衝突で、大切な自然を子孫へつなぐこともできなかったと思う人は多い。

 

もう死んでしまったというのが通説だったので、生きていたことにびっくりする人もいた。

 

地球を守ろうというエリックの力強い言葉に、勇気をもらって苦難を乗り越え、生き延びた人達。

 

彼の老いてしまった姿をあらためて見守りながら、静かに涙を流した。

 

 

「このような素晴らしい祭典の場に

 

みすぼらしい老人が出てきたことを、不満に思われる方もおられるだろう。

 

せっかくの楽しいひとときを邪魔して

 

たいへん申し訳なく思っています…」

 

 

この言葉に、「そうだよ」と不満そうにブーイングする若者もいたが、

 

多くの人はエリックに対して、温かい拍手と好意的な声援を送った。

 

 

「だが、戦争が一時的でも中断し、

 

その中で、危険を押してこの広場に集まってくださった皆さんに

 

これ以上の争いから、1日も早く解放されることを願って、

 

もう一度、11年前の地球の危機を救ってくれた、勇士達からのメッセージを伝えたく、

 

命果てる前に、お話をする決意をいたしました。

 

 

長引く戦争のさなかに、身体の大部分をやけどした少女が、

 

わがアフカ・エリアのドームの街づくりにも貢献してくれている

 

MFiエリアの医療で、無事に完治したという話を聞き、

 

その子の帰郷を待って、その元気な姿を皆さんにも紹介したいと思ったからです」

 

 

眩しいライトが、いきなりパールを包み、映像にも映し出された。

 

パールはびっくりして、思わず泣きそうな顔をしたが、パールのお母さんが後ろから、

 

「パール。あなたの回復を応援してくれた人が、たくさんいるのよ。

 

お礼の気持ちで、笑顔でごあいさつしてね」

 

 

と声をかけられ、神妙な顔をして、アフカ・エリアの言葉で

 

「皆さん、ありがとう…」と言った。

 

その姿を映像で見守っていた人々も、歓喜の声をあげた。

 

 

「パール。突然のことで、びっくりさせてしまったようだね。

 

だが、君が再びこのアフカの地で、笑顔を取り戻すことを私は願っているよ。

 

きっと、自らを犠牲にして、地球を救ってくれたあの勇者達も

 

君の笑顔を見守ることだろう。

 

 

どうか、ここにお集まりの皆さんも、

 

これまでの戦争の苦しみに、心くじけることなく、

 

若い人は、戦争をせずに暮らせる日々を目標にして、

 

この戦いの日々を、無事に生きて乗り越えて欲しい。

 

みんなが平和に暮らす日々のために。

 

それが、自分の幸せを棒に振ってでも、あなた達の生きる地球を守り通した

 

勇者達からの伝言でもあるのです…」

 

 

その時、広場は真っ暗闇に包まれた…。


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