サンヒョクはミニョンとユジンの乗った車を見送って途方に暮れていた。ユジンはミニョンを選んで夜の闇に消えていった。二人は長い夜をいったいどこで過ごすのだろうか。そのことを考えると不安で胸が張り裂けそうだった。出てくれと祈りながらかける電話は、何回かけても、電源が入っていないというメッセージを繰り返すばかり。サンヒョクは聞いてくれるアテもない伝言を数回入れた。
「ユジン、僕が悪かった。折り返し電話をくれよ。」
サンヒョクの言葉が寒空に悲しく響いた。
本当は絶望感で膝から崩れてしまいそうだったが、はっと我に返った。ホールには両家の親と友人たちが待っているのだ。こうしてはいられない。慌ててホールへの道を戻りながら、頭の中はどう切り抜けるかでいっぱいだった。ユジンと破局したことはまだ受け入れられないし、わずかな望みがあるならば、やり直したいと思っていた。それなのに、ユジンがミニョンと行ってしまったと知られてしまえば、母親はじめとして皆が何を言い出すか分からない。特に母親のチヨンはユジンを二度と許さないだろう。ユジンと結婚するためには、修復不可能な傷は残したくなかった。サンヒョクはある決意を固めてホールに入って行った。
サンヒョクがホールに入ると、全員の目が一斉に向けられた。皆、サンヒョクが一人で戻ってきたのを見て、驚きと悲しみが入り混じった目で見つめていた。
ユジンの母親のギョンヒがたまらず
「ユジンはどこなの?!」と叫んだ。サンヒョクは覚悟を決めて口を開いた。
「ユジンは、、、僕がソウルに帰しました。僕の判断なんです。」
すると、サンヒョクの母親のチヨンが鼻で笑った。
「嘘おっしゃい。ユジンはチェリンの恋人と逃げたんでしょう。」
「違うって言ってるじゃないですか。」
サンヒョクはイラだって思わず声を荒げた。
「実は話さなくちゃいけないことがあるんです。僕はユジンに酷いことをしました。母さんの誕生日の日、ユジンを家に帰さなかったんだ、、、。」
聞いていた一同は予想外の言葉に驚いた。まるで雷に打たれたように呆然とした。チヨンは顔をしかめて、ギョンヒは苦痛の表情を浮かべた。ヨングクは天をあおぎ、皆固まるしかなかった。父親は驚いたように
「サンヒョク、本当なのか?」と声を振り絞った。
「ユジンはそのことを怒ってるんだ。だから、結婚しないと言ったんだよ。お義母さん本当に申し訳ありません。母さん、ユジンのお母さんに謝ってください。ユジンは悪くない。僕が悪いんですから。さあっ、早く‼️」
チヨンはそんなサンヒョクをショック状態で見つめるばかりだった。
「サンヒョク、なぜそんなことを?失望したぞ。ギョンヒさん、申し訳ありません。」
サンヒョクの父親がユジンの母親に謝った。
サンヒョクの母親のチヨンは、涙を流しながら
「なんてことをしたの、、、」
と席を立って怒りに身を震わせながら出て行ってしまった。
あとに残された皆は、お互いの目を見ることもなく、ただただうなだれるしかなかった。
サンヒョクは、自分の嘘がみんなの心をどれだけ傷つけたかを考えて、心が震えた。しかし、これでいいのだ、これでユジンがミニョンと夜を共に過ごしている事実は伏せられて、まだサンヒョクのもとに戻ってくる可能性がある、と自分の心に言い聞かせた。例え皆に非難されようとも、嫌われようともユジンさえ戻ってくればそれで良いのだと。
そんなサンヒョクを見つめている人物がいた。それはチェリンだった。チェリンは少し考えたような顔をしてほくそ笑んだ。そして、一礼して部屋に戻っていくサンヒョクを追いかけて、ホールを飛び出していったのだった。