名無しの教師の日誌

ある公立中学校教師の教育私論と日記です。

「授業におけるタブレットの活用」の大きすぎるデメリット

2017-08-20 00:54:02 | 教育に関する私論
最近、ICT教育だとかアクティブラーニングだとか色々言われていて

「タブレットを授業に活用しよう」

そういう意見がよく聞かれるようになりました。

これについて、私の意見を述べます。

その前に、私の立場を明らかにしておくと

「タブレットの授業への利用」に反対です。



タブレットを利用した場面は色々と想定されますが

自分にはメリットを大きく上回るデメリットがあると感じられます。

まずは、タブレットを使った授業に共通して言える、デメリットを述べます。

なにより、タブレットで授業をやろうと思ったら、正しいタブレットの使い方を指導するという、指導者側の手間が増えますし

同時に、「身につけなければならないこと」が増えますから、生徒の負担も増加します

要するに、教師・生徒ともに、授業のスタートラインに着くまでの手間が増えるのです。

また、機器のトラブルにより授業が中断されるリスクも増えます。

従来型の授業だと、紙、ペン、黒板、チョークという極めて原始的な、故障しようのない道具を使います。

ところが、タブレットにはどのようなエラーが出るか分かりませんし、何より教師はシステムエンジニアではありません。

本来、教師が子どもの指導に割くべき労力が、タブレットの面倒を見ることに割かれてしまっては、これは重大な損失です。

そのほかにも、状態のよくないクラスだったら、タブレットで授業と関係の無いことをやり始め、遊び始めるというリスクが考えられます。




以下に、いろいろな場合について、タブレット不要論を主張していきます。



・タブレットを使って、みんなの意見をまとめましょう

紙またはホワイトボードとペンで十分でしょう。

なんでわざわざタブレットでやる必要があるのでしょう?



・タブレットで○○について調べましょう。

これもタブレットである必要性がありません。

子どもの調べものは図書室のみで行なうべき!などという過激な主張をするつもりはありません。

インターネットの有効性は認めます。

それでもタブレットである必要性はありません。

据え置き型のPC、すなわちパソコン教室で良いじゃないですか。

キーボードに慣れるのも必要だと思いますしね。



・タブレットとプロジェクタを使って、調べたことの発表をしましょう

そもそも、学校でなぜ子どもに発表活動をさせるのでしょうか?

おおざっぱな言い方をすれば、社会に出るときに人前で話す力が必要だからです。

人前で話す力とはどんな力でしょうか?

第1に、正しい日本語力。

次いで、「その言い方で相手に伝わる?」とセルフチェックを行なう力。

加えて、説得力を大きくする、身振り、手振り、表情、などなど……

まずはこれらの力が付いていないといけません。

これらの力が付いた人が、さらに良いプレゼンテーションを行う一つの手立てとして、パワーポイント等の使用が考えられます。

何が言いたいかというと、パワーポイント等のスキルは、第1に身につけるべき力ではないのです。

まずは原始的な道具で先ほど言ったような力を身につけるべきです。

そして、一般的な小中学生には、それがいっぱいいっぱいです。

パワーポイントまで求めるのは、苦しいと思います。



・(体育の授業で)タブレットで逆上がりの様子を記録しましょう

このような授業が考えられます。

まず、二人一組を作らせ、ペアに1台タブレットを与えます。

一人が逆上がりを行ない、もう一人がそれを撮影します。

その映像を二人で見て、「これは良い」、「これは直さないと」、などと検証し、今度はもう一人が逆上がりをし……これを繰り返します。

当然、逆上がり以外、様々な競技でも行えます。

一見すると良い授業ですが、自分は反対です。

なぜならば、子どもは普通の大人なら絶対にやらないようなミスを当然のようにやるからです。

それはしかたのないことです。だって子どもですから。

それは、タブレットの管理に如実に出ます。

例えば、タブレットをどこかに置くというシンプルな動作でも

普通の大人なら「こんな置き方をしたら、間違えて落としたり、踏んでしまう危険性があるから、やめよう」と思うような置き方を、子どもは平然とやります。

そして、一般的なタブレットは、大人に使われることを想定しています。

なので、子どもは、悪気がなくてもあっさりタブレットを壊す可能性があります

タブレット1台の値段は、まぁピンからキリまでですが

学校というのは、中くらいの性能のものを買います。

だから、1台10万円程度くらいでしょうか。

これ、子どもが壊したら、誰が修理費払うんですか?

保護者に請求、はナンセンスだと思います。

読者のみなさん、想像してみて下さい。

「おたくのお子さんがタブレット壊したから10万円払ってくれ」って学校か市役所に言われたら

「そもそもそんな高価なものを子どもに持たせるなよ!?」って思い、納得できないでしょう?

では公金で修理します?ただでさえ学校にかけてもらえるお金は少ないのに。

安価なデジカメでやればいいんですよ。

この場合、必要な動画時間は数十秒です。

1万円弱程度のデジカメで、十分可能です。

こちらの方がよっぽど、リスクを抑えて、同様の活動ができるじゃないですか。

ちなみに、ちゃんとそのようなリスクを分かっている教師は、「タブレットじゃないといけない状況」以外はタブレットを使用しないようにしよう、と努めますので

折角導入された高価な機械はあまり活用されずにほこりをかぶっていくわけです。



・(理科の授業で)タブレットで実験結果をまとめましょう

私は理科教師なんですけど

タブレットを活用した授業のモデルケースとしてこれを提示されたとき、えっ!?って思いました。

実験でデータを取り、それをグラフにまとめるというのは良くある授業です。

従来型の授業だと、原始的に、これをグラフ用紙を用いて行ないます。

それをタブレットでやってみては?という提案です。

もっと具体的に言っちゃうと、Excelですね。

Excelはデータ処理ソフトとしてとても優秀だと思います。

商業科高校に進学し、それから事務職に就職するという進路パターンは多いですが

Excelに慣れておけば、そうゆう時に、役立ちます。

だから、Excelでデータ処理をさせることには、賛成です。

でもそれをやるなら、タブレットよりもノート型パソコンの方がどう考えても良い。

社会人ならば、Excel使ったことありますよね?

想像してみて下さい。

何か表やグラフを作れ、って言われて、ノートパソコンとタブレット、どちらでやりたいですか?

子どもも一緒です。

無意味に能率が悪いことをやれと言われると、萎えるのです。

そんな子どもの意欲を殺ぐような授業を、私はやりたくありません。



長々と書いてしまいましたけど

「タブレットの利用の促進せよ」というお上からの号令は

「なんか新しいことをやれば仕事してる感がでるんじゃね?」という幼稚な発想にしか思えません。

それとも、タブレットPCを売りたいメーカーとの癒着ですかね?

ちなみに、私は数ヶ月前、「タブレットをどのように授業に活用していくか」をテーマにした、研修会に参加してきました。

参加者は、私の所属する地区の各校の代表教師達で、講師に某大学の先生やN○Kの制作部門の人……結構大がかり。

そこで行なわれた研修内容が、参加者全員分のタブレットが用意されているのに

・大きな紙にアイディアを書いた付箋を貼り、整理すること
(知っている人には、KJ法と言った方がわかりやすいかも)

・各自の意見をホワイトボードとペンを用いて発表

もう、この研修内容自体が、タブレット不要論じゃないですか。

で、恐ろしかったのが、その研修会で、同じ市の某小学校の校長先生の発言。

「公金で買っていただいたものは、活用しなければならない。
よって、タブレットが導入された今、子どもたちのために使わなければならない」


いやおかしいでしょう。

タブレットの利用で子どもたちの学習が向上すると予想されるなら、使うだけの話で

タブレットの使用が前提ってのはおかしい。

こうして、子どもの実態とかを無視した、タブレットありきの研究授業とかが行なわれていくのです。

そんな授業、教師も子どもも不幸にします。

うちの校長先生がこんなことを言う人でなくて良かった、と心底思いました。


タブレット学習にもメリットはあります。

誤解の無いように言いますが、私は、教育におけるタブレットの利用を否定しているのではなくて

現在の公教育の、統一カリキュラムにのっとった一斉授業のスタイルだと、タブレットを利用しても、メリットよりもデメリットが大きくなるだろう、と主張したいのです。

公僕である私が特定企業名を出して賞賛するのもどうかと思いますが

ベネッセのチャレンジタッチのコンセプトは素晴らしいと思います。

とても教壇ではできない発言ですが、こうゆうことを言えるのはブログの良いところですね。



実は、今年度、うちの学校にタブレットが導入されました。

45台だったかな?正確には覚えていませんが。

まぁ45台だとして、1台10万円だとして、450万円。

仮に、大量購入割引が発生していたとしても

そうゆうのはハードウエアだけを購入するのではなくて

様々なソフトウェアやそれらへの様々なサポートにも費用が発生します。

なので、ざっと概算で、500万円程度のお金が動いていると予想できます

これだけの予算があったら、もっとやれることあるはずです。

臭いトイレをきれいにする

壁や廊下をきれいにする

「いつも使う教室ではないから」と机や椅子が昭和のままの特別教室の設備を新しくする

40年くらい前から現役と思われる、体育館放送室の設備を買い換える……

なんぼでも思いつくんですけどね。

ちなみに私は何年も前から、体育館放送室の機械について、「いつ壊れてもおかしくないから新しくしてくれ」と要請していますが、実現することなくはや4年。

現状壊れてないんだから壊れるまで使えとのこと。

卒業式前日に壊れたら、誰がどのように責任を取ってくれるのか、とても興味深いです。

タブレットよりよっぽど安いハズなんだけどなぁ。


最新の画像もっと見る