もうすぐ終戦の夏がやってくる。今年は戦後80年と言うことで、テレビや新聞雑誌などで様々な取り組みがされている。それらが歳時記のように扱われ、深く切り込んだメディア媒体が少なくなったと感じるのは私一人の誤謬であろうか。
中国残留孤児・残留婦人、先の戦争に関わる人々の生の声を残したいと考え、これまで30年以上にわたり250人以上の人々を取材してきた。しかし歴史の証言者は年ごとに少なくなり、寂しい限り。そしてまた、たった2,3時間のインタビューで、彼らの経験してきた満蒙開拓の実相を、どれほど伝えられるというのだろうか。まして私などが細々と書いたり話したりしていても、小さな波紋も起きない。それでも彼らの声を『聞いた者の責任』で、細々とでも継承し続けなければならない。老体に鞭打って!と言っても講演依頼は来年1件入っているのみ。
そんなふうにネガティブな気持ちになっていた時、思いがけず上野千鶴子先生からオファーがあり、とても嬉しかった。先生が理事長をしているWAN(ウェメンズアクションネットワーク)での最終講義として公開することになったのだ。
いろいろ悩んだ結果、今回は残留婦人に特化したパワーポイントを作っている。残留婦人固有の問題に焦点を当てて話すつもりだ。
上野先生との30分のトークも予定されているので、ドキドキでもありワクワクでもあります。持病の気管支喘息が起きないことを祈りつつ。
*申し込みはお早めに!
藤沼敏子さん講演とトーク「大日本帝国の残像 ~中国残留婦人の記憶~」
2025.07.11 Fri
昭和16年、大八浪泰阜村開拓団の少年少女たち(藤沼敏子「不条理を生き貫いて:34人の中国残留婦人たち』より)
【開催日時と内容】
9月2日(火)19:00-21:00(オンライン開催)
19:00-20:30 講演「大日本帝国の残像 ~中国残留婦人の記憶~」
20:30-21:00 対談 藤沼 敏子 ✕ 上野 千鶴子
司会:藤澤 空見子
【参加費】
WAN会員:無料
WAN非会員:正社員正職員の方 1000円、正社員正職員以外の方 500円
応援チケット:1000円、2000円、3000円、5000円、10000円
【参加申込】
参加ご希望の方は、以下からお申し込みください(定員100名)。
https://20250902fujinuma.peatix.com/view
【主催】
WAN 藤沼プロジェクト
お問い合わせ info-npo@wan.or.jp
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藤沼敏子さんはオーラルヒストリアン。「主婦」と名のっておられますが、民間の歴史研究者です。これまで4冊の著書で合計250人以上の戦争体験者の聴き取りを行ってきました。わけても満洲引揚時の残留孤児・婦人たちの聴き取りは、その後の壮絶な人生と日本政府の冷酷な仕打ちと共に、たいへん貴重な証言となっています。藤沼さんはそれを以下の著書にまとめて自費出版を続けてきただけでなく、ご自分のHPにアーカイブ「中国残留孤児・残留婦人の証言」を作って動画を公開しておられます。
https://kikokusya.wixsite.com/kikokusya
藤沼さんはこれまで各地で講演してこられましたが、いずれも主催する会の聴衆限定で、非公開となっていました。藤沼さんの貴重な講演を記録し、公開したいと考え、「最終講義」をWANで、とお願いしました。大学に所属する研究者には「最終講義」がありますが、民間人には「最終講義」がありません。ですが、その人にとって「最終講義」にあたる価値のある講義をWANのアーカイブに、とこれまでも何人かの方にお願いしてきました。「最終講義」は、どの人にとっても個人史・研究史・社会史がないまぜになった1生に1度の感動の記録。それをWANに提供しようと同意してくださいました。
WAN最終講義アーカイブ
https://wan.or.jp/article/show/6816
かつては信用できない補助資料としてしか扱われなかったオーラルヒストリーの価値は、このところ歴史学の中でも高まっています。藤沼さんは小さな声を聞く、という態度を大切にしてこられた方です。専門の研究者の誰もなしとげなかったこの証言の蓄積をたったひとりで積み重ねてこられた藤沼さんのお話をぜひみなさまにも聞いていただきたいと思います。
📖藤沼敏子著作リスト
2019『不条理を生き貫いて 34人の中国残留婦人たち』津成書院
2020『あの戦争さえなかったら 62人の中国残留孤児たち(上)~北海道・東北・中部・関東編~』
『あの戦争さえなかったら 62人の中国残留孤児たち(下)~関西・山陽・四国・九州・沖縄・中国の養父母編~』津成書院
(第24回日本自費出版文化賞大賞受賞)
2021『WWⅡ 50人の奇跡の命』津成書院(証言者:元満蒙開拓青少年義勇軍9人/元従軍看護婦3人/元軍人3人/サハリン残留10人/沖縄4人/台湾8人/満州からの早期引揚者13人)
2022『不条理を生き貫いて 34人の中国残留婦人たち 改訂版』津成書院
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【プロフィール】
藤沼 敏子:1953年生まれ。日本語教師時代に中国残留婦人に出会い、中国帰国者の福祉問題に関心を持つ。大学院を経て、専門学校・短大非常勤講師をしながら、中国帰国者や戦争体験者の聴き取りを行う(1990年代)。
よんどころない事情ですべて中断し、家業に従事。その後十何年か経って2013年8月に家業をたたむ。
ちょうどその年の4月に満蒙開拓平和記念館設立準備室の事務局長よりオープンのお知らせと来館案内の電話をいただく。この記念館訪問をきっかけに聴き取りを再開。嬉しくて子どもが野原を転げまわるかの如く、北海道から沖縄、中国、台湾などに取材旅行を重ねる。
上野 千鶴子:WAN理事長。社会学者「慰安婦」問題以降、戦争と性暴力に深い関心を持ち、歴史学、社会学、オーラルヒストリーを越境する『戦争と性暴力の比較史へ向けて』(上野千鶴子・蘭信三・平井和子編、岩波書店、2018年)を刊行した。満洲引揚女性の性暴力経験にも関心を持ち、ドキュメンタリー『黒川の女たち』(松原文枝監督作品、2025年)の解説を書いた。
藤澤 空見子:WAN会員。科学・技術・社会の関係に関心を持ち学業や仕事をしてきた傍ら、ジェンダー・セクシュアリティについても勉強中。今回は一若手として、参加者のみなさんと一緒に勉強しながら進行させていただきます。猫とブランデーが好き。