襤褸の美は、
日本の襤褸に限った事では無いと個人的には思っていて、
密かに、襤褸の美しさを世界中の布で探している。
チベットの襤褸布に続き、
キリムにもそれを視てみた。
しかも変化球でジョージアのアンティーク・キリム
タイトルで便宜上「ジョージアの」としているが来歴には謎がある。
一見、トルコのアナトリアのキリムかな、とも思えるが、
図柄や雰囲気が若干異なるように感じる。
手に入れたのはジョージアであるが、
ジョージアでも数は少ないが隣国トルコのキリムにも出会える事は出会える。
だが、
このキリムの来歴不明確なところは、
一般の民間人がジョージアの路上で売っていたところにもある。
売り手は英語が全く話せないジョージア人の初老の女性。
その時たまたま、僕はドイツ人の友達と一緒に居たのだが、
彼はロシア語を含む7カ国語を流暢に話せたので、
売り手から詳しい内容を聞く事ができた。
(旧ソビエト領という歴史的な背景からジョージアではロシア語も通じる)
売り手が言うには、
「ジョージアのスヴァネティ地方から持って来たわよ」と言う。
スヴァネティ?
一瞬、僕は「おや?」と思った。
なぜなら僕が知る限り、
ジョージアのスヴァネティ地方での織物文化、キリム等の文化は、
既に失われてしまっている。
そのスヴァネティの古いキリムが何故ここに?
彼女の売っていた他の物を見てみても、
古い台所用品とか皿とか布とか全部ジョージアの物であった。
トルコ物が紛れたのかしら?
素人の売り手がジョージアの物と嘘を付く理由がない。
トルコよりジョージアの物の方が高く売れるという事も無い。
むしろ、トルコのアンティーク・キリムの方が市場価値はあるし、
わざわざトルコからジョージアに、
この状態の襤褸を商売用に持ってきて路上で売る事は考えにくい。
客観的に考えて、
ジョージアに古くから在った物であるのは間違いないだろう。
なので、考えられるのは二通りかしら。
一つは、だいぶ前にトルコから民間人経由でジョージアに流れてきた物
二つ目は、文化が失われる前のジョージアのスヴァネティ地方(またはその他の地域)の古いキリム
個人的には後者であるように思えるが、
来歴は置いておいても、僕が惹かれたのはその姿である。
出会った時には、
これでもかと言うほどに埃まみれで隅っこにグチャグチャに置かれていた。
僕以外であれば、たぶん誰も手にも取らないかもしれない。
ぶっちゃけ、
ほぼゴミの様な見た目であった。
しかし、僕は光る物を感じた。
よく見てみたらボロボロになる程使い込まれ、
補修も施されている。
「美しい襤褸だ」
その圧倒的な存在感に僕は魅了された。
ドイツ人の友達には「え?これを買うの?」と言われたが、
僕にとっては『宝』との出会いであった。
圧倒的な存在感。
広げるとサイズは大きい。
力強い図柄と雰囲気、擦り切れ使い込まれた摩耗感。
頑丈に織られたキリムをどれほどの年月使い込めばこうなるのだろうか。
新しいお土産物とは全く異なる価値観がそこには在る。
人は言うだろう。
「単にボロボロなだけじゃん」と。
だが、
俺は、これこそが美しいのではないのかしら?と想うのです。
手仕事で修復がされている。
修復糸が同一であるので、売る際に修復したのか元々か不明だが、
何故か修復されていない箇所も多い。
そもそも、わざわざ売る為に修復するのであれば、
理由は分からぬが長年放置されていたであろう程、埃まみれの状態では無いとは思う。
因に、キリムの補修は通常は縫い糸では行わない。
新しい糸を繋いで織り直して修復を行う。
現地の美術館のキリムを修復する職人に、
美術館用のキリムを修復している現場を見せてもらった事もあるが、
まずこういった縫い糸での補修は行っていなかった。
この襤褸キリムは、織り直しが出来ない素人が補修したのであろう。
市場に姿を表すキリムとしては補修方法も珍しいと言えば珍しい。
こういった事も日本の襤褸にも共通する手仕事を感じた。
遥々日本まで持ち帰り、
洗い直してみると、白くクスんだその下から美しい姿を表した。
それは、美しいアンティークの襤褸キリムであった。
美しい襤褸
人知れず、ジョージアの片隅の古いキリムに「それ」を視たのでした。
稚拙な当ブログですが今後ともどうぞ宜しくお願い致します。
力強い意匠の素晴らしいキリムですね!
よくぞ見つけてご紹介してくださいました。
キリムも時代が降るにつれて、どこか媚びが入って来たり、細かく正確な織りではあってもノルマ感アリアリのものが増えてきますが、このキリムは見ている者にもパワーを与えてくれる、マジですばらしいピースだと思います。
トルコかジョージアか?という点ですが、スリットの入った綴れ織であることと、モチーフや色使いから、個人的にはトルコのキリムのように感じます。
ただし、3枚目の写真の経糸が露出している部分を見ますと、生成り色と茶色の双糸が使われています。
このタイプの経糸はコーカサスで多く見られ、アナトリアキリムにはほとんど見かけないため、トルコ在住の人がコーカサスに移住して織ったのかなあ、なんて想像を膨らましています。
(結局、どこのキリムか判りません、という話でしたw)
他の記事もとても面白く、中身がぎっしり詰まっていますね。これからもときどき覗かせてくださいー!