旅する骨董屋 喜八

チベット圏を中心にアンティークや古民芸・装飾品を旅をしながら売買する喜八の、世界の様々な物や人その文化を巡る旅のブログ。

日本の着物をイスタンブールで売ってみた【後編】

2021年12月13日 | 日記



はい、前編に続き後編。

昨年はイスタンブールでの骨董市で、
着物を販売した訳だが、失敗こいた。

それに懲りず、今年も売ってみました。

まず第一に考えたのは、
販路を変えなきゃならん。

そして、安価で大量生産品の中古の着物ではなく、
ハイエンド向きに高価だが古く質の良い着物を売ってみよう。

安い中古の着物をいくら売っても、たかが知れている。

良い物を売ろう。

「高くても良い物ならば、買う人は現れる」というのが僕の信条。

日本に戻ってきて、
知人の着物問屋さんに、
「良い着物を譲ってくれい」とお願いして手に入れたり、
京都や地方の業者の市場に行ったり、
地方の骨董市に行ったりして、何処にでもある安価な中古着物ではない、
良い着物を集めました。







こーゆー、もろ「ジャパニーズ・キモノ」というのが分かるやつ。
振袖とか、その他、大島紬の古く渋い着物から鮮やかな色の襦袢や銘仙の羽織まで色々、
二十枚程、集めました。

・・・で、またトルコへ渡航。

今回は僕自身で着物を持ち込みました。

無事持ち込めたのは良いが、
まず、物価の安いトルコで、高価な物を売るには富裕層と出会う必要がある。
骨董市でひたすら富裕層を待っても無理がある。

そこで、わしゃ考えたね。

営業しよ、と。

何処に?

まぁ、富裕層は値段の高い店に行くわな。

売りたいのは古い着物だから、
高級アンティーク・ショップかしら。

各顧客を持ってるアンティーク・ショップであれば、
着物に興味を示してくれるかもしれない。

そこで、イスタンブール中のアンティーク・ショップに飛び込み営業しまくりました。
グランドバザールではないアンティーク・ショップへ。

人生初めての飛び込み営業。

しかも、イスタンブールで。

一軒、一軒周り、
「ハロー、日本のキモノ、興味あるかい?」
から始めたのだが、
やってみたが大変で、
日本の飛び込み営業職の人、リスペクト。

全く相手にされない。

まぁ、考えたら当たり前ですよね。
普通は地元の富裕層の他、外国人に「売る」商売をしてる彼ら彼女らに
逆にこちらから物を売ろうというのだ。

ただ、邪見に扱われる事はなく、みんな親切で、
「ウチは無理だけど、あそこの店なら良いかもね」とかアドヴァイスをくれたりもした。

流石にアンティーク・ショップなのか、
日本のブランド知名度なのかどうか分からぬが、
驚く事に、皆、日本の「キモノ」というのを知っていたので、
そこの説明をする手間は省かれた。

周りにまわったが、
全く手応えはない。

「こりゃキツいわー」と思って、
道端の交差点で一休みしてる時、小道が見えた。
その先を覗くと、小道の行き止まりに蔦がかかった雰囲気のある大きな門が見えた。
アンティークなんちゃら、という金属製の看板がかかっていた。
どう考えても高級店である。

行ってみよう。

入ってみたら、外からは想像できない程に奥行きが広く天井が高い店内であった。
並んでいる物は高そうなアンティークばかりである。

中には日本の古い物も何個かあるではないか。

試しに、その日本の古い物の値段を、
従業員らしい若い女性に聞いてみたら、
「それは、1000ドルです」という回答があった。

ふむふむ

高い。
でも明らかに物も良い。

たぶん、日本の高価なアンティークにも興味があるのだろう。

これはイケるかもしれん。

直感で感じた。

「オーナーは何処に居るの?」と尋ねてみたら
奥のゴージャスな応接スペースに座っているのが、
女性オーナーであった。

品があり、
服装や装飾品からして明らかに庶民ではないと分かる、
その女性オーナーに話しかけると、
日本の古い物も好きだと言うではないか。

そこで、概要を説明すると、
興味を持ってくれたが、最初は冷たく、警戒心も感じた。

それは、僕が何者で、どんな物を持っているのか分からなかったからでもあるあろう。
「どうせ安物しか持っていないだろう、そんな物を見ても仕方ないわ」と思われていたのかもしれない。

彼女はイギリスから日本の高価な古い物を買っていて、
着物も個人コレクションも持っているという。

それ相応のレベルを求めているようだ。

そこで僕は「実物を持ってくるよ」と言ったが、
「まずは写真をみせなさい」と返された。

警戒心マックスー

まぁ、全然構いませんよ。

今回は自信がある物も持って来てたので、
「分かった。じゃあ写真を送るね」と返し、
連絡先を交換した。

僕は速攻でホテルに戻り、
写真を改めて撮って何枚か送った。

そしたら、
即レスポンスがあった。

「これとこれは幾ら?」と。

僕は良心的な適正価格を伝え、
「他にも何枚もありまっせ」と言うと
実物を見てくれると言う。

そこで、後日、日程を決めて店に再度行く事になった。

よーやく、商談のテーブルにつけそうだった。

買ってくれるかどうか分からなかったが、
一歩進んだ気がして、スーツケースに着物達を詰め込むと
当日、商談に向かったのだが、
蓋を開けてみると意外な結末が待っていた。

西洋のアンティーク・ソファが並んだ応接室には、
女性オーナーの他に、
パッと見て富裕層と分かるご婦人方が座っていた。

女性オーナーが友達の富裕層の方々を紹介してくれたのだ。

軽い挨拶の後、
僕は着物を出して次々プレゼンテーションを始めたのだが、
どんどん売れて行く。

僕はそこで知る。
イスタンブールの富裕層の財布の中身を舐めていた。

や、安すぎたのか?

1000ドルだろうが物が気に入れば気にしない。

100ドル単位なんて秒殺で決まってしまう。

気に入らなければ物が良くても値段の前にボツになる。

京都の友禅であっても、
古い江戸更紗の着物であっても、
柄が好きではないという理由で、即却下。
一方、柄が気に入れば襦袢であっても速攻で買う。

女性オーナーは流石に見る目が肥えていて、
僕が一番自信があった着物は、自分が絶対買うと言って自分の脇にキープしていた。



オーナーが速攻で気に入った振袖の袖書き。
繊細な手書き、かつ手絞りで古さもある。
よくある安価な量産品ではない。
僕も個人的に持っておきたかった着物だったが、
売れてしまった。
知人着物業者に無理を言って譲ってもらったのだが、
日本でも結構な値段がすると思う。
これは日本でも売れると思う。


・・・で、結果、
ほぼ完売。

一時間ほどで、数千ドルの売上になった。

僕は日々暴落するトルコリラではなく、USドル払いを希望していて、
支払時に気になってはいたのだが、
結果論としてそんな事は気にする必要はなく、
流石と思うのが、富裕層の方々、財布に100USドルの札束を持っていた。

みな、リラなんか当てにせず、ドルを持つ習慣があるのかもしれないが、
ピン札の100USドルの札束をがっつり持っていた。

すごいね、トルコの庶民とは桁が違うわ。

その現金で、
僕はその後のジョージア渡航と滞在の足しにしました。

良かった
良かった

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今回の経験を通して改めて実感している事がある。

今回、単に僕はラッキーであったのであって、
イスタンブールの様々な状況を客観的に考えたら、
この着物の商売をイスタンブールでやろうとしたら、
継続的に常時、同じ結果を出せるとは思っていない。

他にも何軒も超高級アンティーク・ショップを回って営業してみたが、
全員、揃いも揃って興味を示さない。

もし、日本のアンティークや、
キモノを好きな顧客が居れば少なからず反応するだろうが、
それすら無かった事を考えると、
例え、アンティーク・ショップでなくとも、
需要自体がないのだろう。

他にも日本に例えると銀座の様な立地に店をかまえる店舗にも
営業して委託販売はしてくれるという話しもつけたのだが、
話しを聞く限り、高価な着物は売れないようである。

アメリカやフランスなどの欧米に比べたら、
トルコでは、日本の古い物を求める客の絶対数はほんとに極僅かなのは間違いない。

やり方や可能性はまだあるだろうが、
マーケット自体は極めて小さい。

僕は今回、たまたま、ツイていただけだ。

新しい手を考える必要がある。



以上、イスタンブールで着物を売ってみた編でござった。



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