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旅する骨董屋 喜八

チベット圏を中心にアンティークや古民芸・装飾品を旅をしながら売買する喜八の、世界の様々な物や人その文化を巡る旅のブログ。

最高のチベタンターコイズとの出会い

2019年08月23日 | チベットもの


またチベタンターコイズの話題です。

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ザンスカールの旅を終えた俺はレーの街に居た。

骨董屋は知る限りの店はチェック済みであったので、
普段あまり行かないオールド・レーの辺りや、
バザールから離れた旅行者がいないローカル地域を散策してみようと思った。

特に、仕入れを目的としていたわけではない。
観光客はほぼ居ない道をブラブラしてみた。

もろ地元民向けの安価な服屋だとか、
日用雑貨屋が並ぶ場所で、
一畳もない小さな店に俺の目が止まった。

60歳ぐらいだろうか、
年配の女性がチープな指輪とか真新しい物を売っていた。

人ひとり立ったら、店の入口が埋まるほどの小さな店先に居た
その女性。
俺は、彼女の服装に興味を持った。

パンデンをしているではないか。

パンデンとは縞模様の前掛けである。
ラダック人は着用しない。
チベット人女性特有の民族衣装である。

ほー、亡命チベット人なのだね、と思った。

なんか、古いモノ、持ってるかなー、と思い、
暇つぶしに、
話しかけてみた。

彼女は英語はほとんど話せなかった。

俺が、一応、
「古いターコイズある?」って聞いたら、
「たーこいず?ユゥ(チベット語でターコイズ)かね。持っておるよ」
と答えるではないか。

店の商品陳列内容からは期待はできなかったので、
お決まりの、フェイク物が出てくるかと思いきや、
ゴソゴソと店の棚から青い袋を出して、
中身を俺に見せてきた。

俺は驚いた。

すごく良い質の本物のアンティーク・チベタンターコイズが
ゴッソリと出てきた。

おー、持っとるじゃんかの。

俺は、早速吟味し、
まずは
値段を確かめてみた。

「1グラム、いくら?」と。

ラダックではターコイズの値段はグラム(g)単位なのである。

「グラム?違う違う、一個、一個で値段が違う」と
言うではないか。

なんと、
ここラダックで、
チベット・スタイルの売買方法だ。

チベット本土では、ターコイズはグラム単価での取引じゃない。
個別判断、なのだ。

チベット・スタイルだったのか、
単純に、
素人だったから、
業者取引方法ではなかったからだからなのか
分からんが、

ほー、珍しいやり方するね

と思った。

それと同時に、
彼女は専門業者ではないので、
値段は安いだろうと勝手に思っていた。

しかーし、

「例えば、これは、○○ルピーじゃ」
とババァはサラッという。

は?
マジ?

超、高けー

驚くほど高かった。

相場価格を無視してる。

この地で手に入れたものではなく、
チベットから亡命した時に持ってきたので、
家宝的な扱いなのだろう。

んー、
困ったぞ。

良い石が多いので、欲しい。
しかし、言い値が高過ぎる。

よかろう。

そっちがチベタン・スタイルでくるとゆーなら、
俺も
チベット本土での売買スタイルである、
ゴリゴリ値段交渉を思いっきりしてやろう。

ババァだからといって
容赦はせぬぞ。

「コーンチェンボ・レェ(高過ぎるぜ)」

と俺がチベット語で言うと、
突然飛び出したチベット語に、
ちょっとババァは驚いていた。

マレェ〜
(違う・そーじゃない・否定、この会話では高くはないという意味)

と返してくると共に、
あんた、何人?と聞く。

おら、日本人だ。

と答えると、
あー、そーなんだ、と微笑むと、
値段交渉が始まった。

交渉途中、
定番の交渉術である、
買わずに店を出る動作、という演技も通じなかった。
素人ゆえの強さなのか。

チベット本土でも素人から買う場合、
値段交渉が通じない場合が多い。
業者同士では当たり前である駆け引き意識が薄いのである。
持ち主の言い値で買うか、見送るか、という二択の場合が多い。

このババァも同様で、
積極的に売る(現金化する)意思もあんま感じなかった上、
強欲なのか、
物への思いが強いのか、
どーなのか分からんが、
とにかく交渉にはかなり苦戦した。

見送るのはあまりにも惜しいので、
あーでもない、
こーでもない、と
ジェスチャー含め、
色々やった結果、
この値段ならアリかも、とゆー値段までなんとか落ちた位で、
うーむ、
ここらへんが限界だろう、
買おうではないかと思い、
数個を買った。

「トゥジチェ(ありがとう)」
とチベット語でお礼を言って、
(因にラダック語だと、ありがとうは、ジュレー)
店を後にしようとすると、
何か言うではないか。

ん?

家がどーとか言ってる。

よく分からなかったんで、
近くに居た現地民の若い女性を捕まえて、
ババァ、なんて言ってるの?と俺が確かめると、
「家にイーのがある」と言っているらしい。

なに?
あるのか。

見たい。

じゃあ、明日、見せてよ、
と約束して、
翌日再決戦となった。

その翌日の昼過ぎ、
ババァの家にあった、
秘蔵のチベタンターコイズと出会った。

また交渉を再度やる事となったが、
俺に家にある石を見せるとゆー事は彼女も現金が欲しかったのであろう。

長い再戦の結果、
今の時点で自分的に
現実的な金額で現地で手に入れられる範囲ではめっちゃ良いと思える、
美しいアンティーク・チベタンターコイズを買えた。
高かったけどね。



これ、
流動する市場価値は置いておいて、
今の時点では、
俺的には、ある種、理想に近いと思えるかな。
今回、手にしたアンティーク・チベタンターコイズの中でも
飛び抜けて良い。

チベット本土ラサからラダックへ亡命した
チベット人おばちゃんちに在ったターコイズ。

もし、骨董屋などの市場に出ていたら
とうの昔、誰かの元へ旅立っていたと思えるクオリティだろう。






形も独特で、ぽってりとしていて可愛らしい。
紐穴の開け方も極めて特徴的だ。
古さ、色、艶、も最高。
紐穴の摩耗感にもシビレル。
大きさと適度な重さもある。

このクオリティは、
今や、千個に一個もないだろう。


亡命チベット人オババと
アンティーク・チベタンターコイズとの出会いのお話でした。



※写真のチベタンターコイズは嫁ぎ済みです。



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