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🤳《不易流行》🤳あしたの詩を唄おうよ…🎵

 故郷は遠くにありて・・・忘れかけてた【遠い背景の記憶】原点回帰[210]【あゝりんどうの花咲けど】 

2023-12-12 | こころの旅

    あゝりんどうの花咲けど (昭和40年学習研究社「美しい十代」10月号P90~97)
第二章:佐千夫の目は燃えた。玲子は本能で、佐千夫の感情のあらし
      を直感した。玲子は目を閉じ、佐千夫の腕に力がこもる・・・・・・・。
 今回は、【あゝりんどうの花咲けど】編集版【5】P30~P32(原本P96~P97)の紹介です。
 ふたりがはじめて、ことばでおたがいの気持ちをたしかめ合ったのは、年が明けた冬休みのある日であった。
 受験勉強の気分転換にと、そのあたたかい日、ふたりは日帰りの沖ノ島行きの観光船に乗った。海の上で、ふたりは
並んで、白く光る波をみつめた。海の風はつめたくなかつた。島の港からロープ・ウェイで、沖ノ島の中心をなしている
山頂へ上がる。 ゴンドラのなかからはるかに下を見やる。ホテルやゴルフ場が、絵のように見えた。客は二人だけだった
。 玲子がささやいたのだ。 「今、ロープが切れて落ちても、あたし、あなたといっしょなのね」 手は、佐千夫の腕をつか
んでいた。玲子のことばの奥の意味は、佐千夫にはまっずぐにわかった。 「そう、いっしょだ」  若い女の乗務員は、遠
慮して、ガラスに顔をつけて外をみつめている。ふたりは手を握り合った。 「あなたといっしょだったら」 と、玲子は顔を
伏せながら、 「死ぬのだってこわくない」 佐千夫の胸は、とどろいていた。呼吸を静めながら、耳もとに口を寄せる。 「
好きだから?」 「ええ、好きだから」 「ぼくもだ」 そのはじめての愛の告白のつづきを、玲子は山頂のベンチでつぶやく
ように言った。 「でもあたし、きっとあなたよりも先にひとりで死ぬわね」 「そんなバカな」  はげしい語調で、佐千夫は
否定した。それからじぶんのからだの弱さを嘆く玲子のことばと、その気弱さを叱るように激励する佐千夫のことばがかわ
されるうちに、いつのまにか、玲子のからだは佐千夫の腕のなかにあった。そこは、茶店の裏で、大きな岩が左右の目を
さえぎっていた。海に何隻かの小舟が浮かんでいるだけである。小さく見える。 「ぼくといっしょに強く生きるんだ」佐千夫
は玲子の胸を抱きしめて、命令するように言った。玲子は、うるんだ目でうなずいた。激情が、佐千夫をとらえた。佐千夫
の目は、燃えた。本能で、玲子は佐千夫の感情のあらしを直感した。玲子はふるえた。おののいた。けれども、近づいて
くる佐千夫の顔を、玲子は避けなかった。逆に、からだをかたくしたまま、目を閉じた。玲子を抱いている佐千夫の腕に力
がこもった。 瞬間、ふたりはお互いのくちびるお感じた。それは、すぐに離れた、玲子は耳まで赤く染めて、顔を伏せた
。 息苦しい。 「おこった?」 佐千夫のわびるような声に、玲子はかすかながら、横に首を振った。ただただ恥ずかしか
っただけである。 

 冬休みは、沖ノ島でのその強烈な記憶をふたりの胸にきざんで、たちまち過ぎた。三学期になった。受験生たちは、顔
つきまでかわってきた。 「あたしは、ムリはできないからだだから、気がらくだわ、あなたも気をつけてね、からだをこわし
ちゃ、元も子もなくなるわ」 「きみこそ、クラスメートのペースに乗ってついやりすぎるなよ。ぜったいだいじょうぶなんだか
ら」  入試の期日は、ちがっていた。玲子は父につきそわれて上京し、佐千夫は大橋をはじめ数人の友だちと上京した
。駅まで、母といっしょに岡本謙三も見送りにきた。 「あれ、どこのおやじだい?」 ふしぎそうにきく大橋に、佐千夫は笑
って答えた。 「ひょっとしたらおれのおやじになるかもしれん人なんだ」 もう佐千夫は、じぶんに遠慮しているふたりの
おとなを、逆に気の毒に思うようになっていた。 入試は、おわった。佐千夫と玲子ははじめて顔を合わせ、おたがいの
できぐあいをたずね合った。ふたりとも自信はあったが、 「まあまあだ」 「あたしも、まあまあってところ」
 玲子の発表が、先にあった。自信のとおり合格であった。佐千夫はじぶんのことのようによろこびながら、いよいよ、おれ
はぜったい落ちられないぞ。そう思った。佐千夫も合格した。まっさきに、佐千夫はそれを玲子にしらせた。電話で玲子は
「ばんざい」を叫んだ。
 こうして、ふたりは同時に、親のもとを離れて東京での学生生活を送ることになった。それはからだの弱い玲子にとって
も貧しい佐千夫にとっても、けっしてなまやさしい生活ではないはずであった。
 次回は、あゝりんどうの花咲けど (昭和40年学習研究社「美しい十代」9月号P127~135)
第三章:はじめて玲子を見たとき、佐千夫は吸いかけた息をとめた。濃いまつげにかこまれた
      玲子のひとみに、窓外の景色が流れていた・・・・・。
【あゝりんどうの花咲けど】編集版【1】P33~P37(原本P76~P79)を紹介します。





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2 コメント

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Unknown (ra9gaki_do)
2021-11-01 21:01:55
こんばんは(^-^)
今日も大変お疲れ様でした。
いつも温かいリアクション
ありがとうございます。

11月が明けました。
今月もどうぞ宜しくお願い致します。
返信する
Unknown (kenzos18_2014)
2021-11-02 06:22:47
@ra9gaki_do お早うございます…。コメントありがとうございます。こちらこそ、宜しくお願いします🙇⤵️
返信する

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