やっと寄港できると、3,711人の乗客と乗員が心待ちした横浜港の岸壁が見えたとき、よもや下船できないなどと誰が想像しただろう。楽しい思い出の詰まった船旅を終えようとした矢先の災難である。ことはそれだけでは収まらなかった。2週間の停船命令で下船も出来ないのである。その上に、得体の知れない新型コロナウイルスに感染した乗客がいて、そのウイルスが感染するかもしれないという恐怖が加わったのである。
経過を見ると、2020年2月5日に横浜港に寄港して、発熱等症状のある人の検査が始まり、陽性反応の人は下船して病院に入院という日々が繰り返されるのである。発病すれば下船できるという皮肉な運命の中で、一日一日をどんな思いで過ごされたのだろうか。外国の乗客も多数いて、日本の検疫体制への不安なども重なり、相当のストレスがあったと推察される。
何かの「えにし」で寄港した国の民から、白い目で見られていたなんてことになったら、世界中から非難の嵐が湧き起こるだろう。だが、一部では英国籍の船だから追い返したらいいという人が本当にいるそうだ。
130年ほど前、トルコのエルトゥールル号が和歌山の串本沖で遭難し、587名以上の犠牲者を出した事件があった。その大惨事は、日本とトルコの友好の契機となって、今日まで耐えることなく受け継がれているという。今日の日本が、島国根性で寄港するクルーズ船を追い返すようなことがあったら、「なんと情けない国」に成り下ったのかと思わずにはいられない。