珈琲ひらり

熱い珈琲、もしくは冷珈なんかを飲む片手間に読めるようなそんな文章をお楽しみください。

水溜り

2007年07月09日 | 降る雨のウタ



 下を向いて歩いていた。
 ただ見えるのは暗鬱なでこぼこのアスファルト。
 僕の歩く道は大人にたくさんの可能性の芽を出すはずの土をアスファルトで固められた道。
 鬱屈とした思いで暗澹と道を進む。
 ただ進む。
 道は決められていた。
 ただアスファルトで固められた道を。
 下を向いて歩いていた。
 だけど、
 そしたら僕はアスファルトに溜まった水溜りを見つけたんだ。
 水溜りが映していたのは空だった。
 青い空は大人の手が付けられていなくって、
 無限の広がりを見せていた。
 それを見ていた僕の気持ちは何ともいえない悦びに花開いたんだ。
 僕は両手を開いて、飛行機が滑走路を走るように道を走った。
 僕は空が飛びたかった。
 その空に飛び出せるのなら、僕は僕の好きな場所に飛んでいける。
 両手を広げて、
 全ての可能性を覆い潰してしまったアスファルトの道を蹴って、
 僕は空に飛び上がった。
 空から見た地上は全てアスファルトに覆いつくされていたけど、
 それでもそれはたくさんの道に枝分かれしていて、その行く先は空からでも見えなかった。
 憧れていた空は、飛びあがった瞬間に、足のつかぬ事が恐怖に思えて、僕はただひたすら空で飛び続ける事に専念する。
 ただ僕はがむしゃらだった。落ちないようにするために。
 アスファルトの道を歩いていた時のある意味の安全はもう無い。
 僕はあれだけ憧れた空に飛び上がったくせに太陽に向かって飛ぶ勇気は無くて、ただ空を落ちない様に飛んでいる。
 飛ぶ前に飛ぶ事に対して抱いていた憧れや想いなんてもう遠い向こう。
 何もかも忘れてただ飛ぶだけの僕。
 そんな僕に、その枝は優しかったんだ。
 疲れた僕はその枝にとまる。
 とまれる事が嬉しかった。
 安心できた。
 僕はいつの間にか鳥になっていた。
 枝にとまって羽を休めた。
 枝を手に入れた僕は空を飛びまわり、枝にとまる日々。
 ただそれだけの繰り返し。
 それでもそれは僕にとっては僕が心に抱く全てを騙す事が出来る優しい日常だった。
 

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