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珈琲ひらり

熱い珈琲、もしくは冷珈なんかを飲む片手間に読めるようなそんな文章をお楽しみください。

花人形

2006年07月02日 | 降る雨のウタ



 花で作られた花人形は踊る。
 皆はそれを見てとても喜んでいる。


 花で作られた花人形は言葉を持たない。
 皆は贈った言葉の返事を返してもらえないけど、それでも花人形が好きだから幸せ。


 花で作られた花人形は幸せだから何も知らない。
 金持ちに作られた花人形とは正反対の暮らしをしている農民に作られた泥人形の暮らしなど。



 花人形は知らない。
 自分に近づいてくる泥人形が隠し持つ真意など。



                     フリーデリーケ・ベルンカステル

笑顔

2006年07月02日 | 降る雨のウタ



 あなたの笑う顔が好き。
 何の苦労も知らないその笑みは、華があるから。


 あなたの笑う顔が好き。
 あなたのその笑顔は花が咲いたようで、蝶が集まるように苦労知らずのあなたの華がある笑みに人が寄ってくるから。



 あなたの笑う顔が好き。
 その苦労知らずのあなたの笑みを壊す事が私の歓びだから。



                      フリーデリーケ・ベルンカステル


 

美しいモノ

2006年07月02日 | 降る雨のウタ

 美しいモノを愛でられるあなたは幸せね。
 この世の苦しみなんか何も知らないでしょう?


 美しい希望に、夢をあなたが語れる事も、あなたの友人が語れる事も幸せね。
 私がその希望が叶うその環境が、夢が、希望が壊れればいいと望んでいる事など知らないでしょう?


 美しき花に飾られた舞台で舞を踊るあなたは幸せね。
 その舞台の下で、泥沼にもがく人たちが居る事を知らないでしょう?
 知っていたら、あなたはそんなにも幸せそうに笑ってはいられないものね。
 世間知らずでお金持ちのお坊ちゃま、お嬢様。


                     フリーデリーケ・ベルンカステル

 

お姫様

2006年07月02日 | 降る雨のウタ



 お姫様はとても楽しそうに歌を歌っていました。
 そのお姫様の歌は同じようにお姫様であられるお友達のこと、王子様であられる方たちのこと。


 お姫様はとてもご自分のご友人たちを好いていましたので、いつもそのお友達の事を歌にしていました。
 その歌は幸せに満ちていました。



 お姫様は汚れを知りませんでした。
 この世の苦しい事も、民の暮らしも、全て。全て。全て。


 花よ、蝶よ、大事に大切に育てられたお姫様は同じように花よ、蝶よ、と民たちの血税で暮らすお姫様の暮らしを、王子様の暮らしを歌にしていました。
 民たちは、暴動を起こしました。


 悪かったのは、人の気持ちを何も知らぬ姫か、
 それとも民たちか。



                     フリーデリーケ・ベルンカステル

見つけた。

2006年07月02日 | 降る雨のウタ



 見ぃーつけた。
 あなたの大切な人。


 見ぃーつけた。
 あなたの大切な場所。


 見ぃーつけた。
 あなたが私だけを見ているようにする方法。
 うふふふふ。


                   フリーデリーケ・ベルンカステル

                       

勘違い

2006年07月02日 | 降る雨のウタ
 


 ねえ、何を勘違いしているのかしら?
 美しい花畑で笑っているあなたは。


 ねえ、何を勘違いしているのかしら?
 深海の底で両足を抱えて泣いているあなたは。


 ねえ、何を勘違いしているのかしら?
 誰もが自分の声を聴いてくれていると思っているあなたは。



                     フリーデリーケ・ベルンカステル

私が欲しかったものは………

2006年06月30日 | 降る雨のウタ

 あなたはとても幸せそうに笑っていました。
 あなたは真実を知らなかったから。


 私はとても幸せそうに笑っているあなたを見て幸せに浸っていました。
 あなたが何も真実を知らなかったから。


 だけどあなたは蛇にいらぬ知恵をつけられてしまいました。
 私の幸せが徐々に壊れ始めました。あなたが、皹を入れはじめましたから。


 あなたは真実を知ってしまいました。
 私の幸せは完全に壊れました。


 それでもあなたは壊れた硝子の上に裸足で立って、血を流しながらそこで私を待ってくれていました。
 だけど私はダメでした。



 私が欲しかったのは、何も知らないあなたが私に浮かべてくれる笑みと感情だから。
 私が欲しかったのは、虚構だったのだから。
 私は、そこに居るから――――



                   フリーデリーケ・ベルンカステル

欲しかったモノ

2006年06月30日 | 降る雨のウタ

 私には欲しいモノがありました。
 だから私はいつも背伸びをして、手を伸ばしていました。


 私はそれを手に入れました。
 最初のうちは私はいつもそればかりを見ていました。


 それがある事に慣れた私はそれに飽きてしまいました。
 気付くとそれは私の手の平から零れ落ちてしまっていました。



 だけど私はどうしてそれを欲しがったのかもう想い出せなかったので、哀しいとは想いませんでした。

                    フリーデリーケ・ベルンカステル
                     

罪の在り処

2006年06月30日 | 降る雨のウタ
 私はあなたを傷つけます。
 あなたが私を傷つけたから。


 私はあなたに酷い言葉を吐きます。
 あなたは私を言葉で傷つけたから。


 だけど私はあなたに付きまといます。
 あなたが私から離れようとするから。


 私があなたを傷つけるのは、あなたが私を傷つけた事をわかってはいないから。
 私があなたに酷い言葉を口にするのは、あなたが安易に笑いながら口にした言葉を私は永遠に忘れないから。
 私があなたに付きまとうのは、最初に私を裏切り私を傷つけたあなたが私を悪者にして、自分こそが被害者のような顔をして泣いているのが許せないから。
 罪の在り処。
 あなたの罪は、あなたが犯したその罪を知らない事なのです。


                    フリーデリーケ・ベルンカステル 

誰かが

2006年06月30日 | 降る雨のウタ

 誰かが言いました。
 私はかわいそうだと。

 誰かが言いました。
 私が背負わされているあなたは不幸者だと。


 誰かが言いました。
 私はとても不幸だと。


 誰かが言いました。
 私を苦しめるあなたはとても酷い人だと。


 だけど私は気付いていました。
 あなたを背負う私はとても幸せ者だと。
 全てを私が背負うあなたのせいにすれば、裸足で歩く私の行く先が地獄でも、私は全てをあなたのせいにしてあなたを憎んで心の平静を手に入れられるから。



                     フリーデリーケ・ベルンカステル

積み木崩し

2006年06月30日 | 降る雨のウタ

 私は積み木を積み上げます。
 私は積み木の一つとして積み上げられます。
 積み木はとても綺麗に積みあがりました。
 そして世界の変えようのない法則の一つ、重力によって壊されるのです。
 世界によって私が積み上げた積み木は、
 私がその一つとなった積み木は、
 崩されるのです。


                    フリーデリーケ・ベルンカステル

砂の城

2006年06月29日 | 降る雨のウタ
 砂の城。
 私は砂の城を作り続けます。
 一度目の砂の城は波に壊される事などは微塵も知らずに時間かけてとても丁寧に作りました。
 だけどその砂の城は打ち寄せた波にいとも簡単に壊されてしまいました。
 二度目の砂の城作りは心のどこかで波に壊される事を計算して作っていました。だからどことなく一度目よりも見劣りしました。
 三度目の砂の城作りはどこか投げやりです。
 四度目の砂の城作りは、意固地になっている私が居ました。
 城の周りに壁を作り、
 その壁の周りにさらに深い溝を作って、
 なんとか砂の城が壊されないようにしました。
 だけどそれはやはり無駄でした。
 九十九度目はもはや作る気すらありませんでした。
 ですがどこかからか現れた騎士が、私の砂の城の残骸の前に立ってくれました。
 あろう事かその騎士は打ち寄せる波に蹴りを叩き込みました。
 そしてその騎士の出現によって砂の城の残骸はそれ以上壊れる事はありませんでした。
 百度目の砂の城作りは騎士の背中を前にしてしました。
 新たな希望が一度目の砂の城よりも立派なモノを私に作らせました。
 波が来ました。
 そして騎士は今度は波に抗わずに、避けてしまい、百度目の砂の城は波によって壊されてしまいました。
 私は波によって壊されてしまった砂の城を見て呆然としてしまいました。
 百一度目の砂の城作りは嬉々とやりました。
 そして私は今度は自分で波の前に立ちました。
 スカートの裾を広げて壁を作りました。
 波はスカートで防がれました。
 砂の城はほんの少し壊れました。
 百二度目の砂の城の作りは補修です。
 私は先ほどの波で少し壊れた砂の城を補修しました。
 そして砂の城の前に立ちました。
 波から護るために。
 その繰り返しです。
 そして満ちてた潮は干いていき、遠くなった波打ち際を背にして座り込む私は砂の城を見つめて微笑むのです。
 再び満ちた潮と戦うその時まで。



フリーデリーケ・ベルンカステル
 

あなたを………

2006年06月28日 | 降る雨のウタ
 あなたを私は愛していました。
 あなたに愛されたいと私は願っていました。
 あなたを私の物にしたいと私は願望を抱いていまいました。
 だけど私は知っていました。
 もしも私があなたに私の思いを告げて、例えそれで私があなたと結ばれても、でも私はそれであなたと幸せにはなれない事を。
 あなたは私の太陽でした。
 私は地を這うものでした。
 私はあなたに愛されるにはあまりにも汚れすぎていたのです。
 だから私はあなたを汚したいと想いました。
 泥沼の中に居る私の心をどれだけ綺麗に洗おうが、私は私の心が綺麗になるとは想いませんでしたから。
 どれだけ洗おうが真っ白にならないモノを洗い続けるよりも、
 真っ白なあなたの心を泥沼に沈めて汚す方が楽だと思ったし、
 そして私は、愛するあなたに私と同じように泥沼に沈んで欲しいと思ったのです。そうすれば真っ白なあなたは私と同じように汚れるから。
 そうして私はそれを実践しました。
 そうして私は汚れてしまったあなたへの愛にいとも簡単に冷めてしまったのです。
 私は私があなたを汚す事であなたを私と同じにした時に気がついたのです。
 私がどうして本当にあなたを愛していたのかその理由を。
 私があなたに恋い焦がれていたのは、
 私があなたを愛していたのは、
 私がどうしようもなく汚れていて、
 あなたが泣きたくなるぐらいに真っ白で、綺麗だったからなのです。
 私は真っ白で汚れの無いあなたが好きだったのです。
 ひまわりがいつも恋い焦がれて太陽だけを見ているように、
 地に咲く偽者の大輪の黄色い花が、天上の蒼の中で咲き誇る大輪の黄金の花に憧れるように、
 私は泥沼の中で、泥に塗れながら、真っ白な汚れの無いあなたが好きだったのです。
 あなたが汚れきった私とは正反対だから。
 だからこそ。
 だけど私は私に見合うようになると思ったからあなたを汚したけど、
 私は私と一緒になってもらいたくってあなたを汚したけど、
 でもごめんなさい。汚れてしまったあなたは私の求めるものとは、私が欲しいものとは、私が愛したあなたとは違うのです。
 ごめんなさい。
 ごめんなさい。
 ごめんなさい。
 ごめんなさい。
 どれだけ言葉を尽くそうが私と同じように汚れてしまったあなたが元のように真っ白に戻る事は無いと汚れてしまっている私は知っているけど、それでも私は言葉を尽くして私が私と一緒になってもらいたくって、私が隣に居てもらえるようにと思って、汚したあなたに謝り続けます。


 もしも私があなたを愛した事を後悔するとしたら、どこから後悔するのが正しいのでしょうか?
 そもそもあなたを愛した事を後悔するべきでしょうか?
 私のような汚れたモノが真っ白なあなたを愛するべきではなかった、と。
 いいえ、私はそれを後悔はしたくはありません。
 あなたを汚し、汚したあなたを捨てた私だけど。
 あなたを愛した事は、愛せた事は、あなたを思う事は、あなたが今している事を想像する事は、一日の終わりにあなたと交わした言葉を想い返す事は、とても幸せでしたから。
 その時だけは私は自分がとても醜い化け物である事を忘れていられたから。
 後悔するとするのであれば遠くからあなたへの愛にこの身を満たす幸せに満足する事が出来ずに、隣であなたを愛し、愛される事を願い、真っ白だったあなたを汚した事を後悔するべきなのでしょう。


 もしも真っ白なあなたを愛した私に罪があるのだとすれば、それは汚れた私の真っ白なあなたへの愛の真の意味に気付けなかった事、
 もしもこんなにも汚れた私を愛してくれた真っ白なあなたが一番最初に汚れてしまったその罪があるとすれば、それは同情からこんなにも汚れてしまった私を愛した事、
 私が本当のあなたへの愛を知らなかったように、
 あなたがあなた自身の汚れの無い白さを知らず、自分に自信がもてなかった事。


 それでも私は私が新たに抱いた罪を知り、
 その罪に塗れながら、
 私を愛するあなたを、私が漬かる泥沼に沈めるのです。
 それが私が汚してしまったあなたにできる唯一の謝罪だから。



フリーデリーケ・ベルンカステル。

あなたが………

2006年06月27日 | 降る雨のウタ
 あなたが私を私として認識してくれるのなら私は嬉しい。
 私は私を私と認識することはできないから。
 これは何度目の現、そんな事を感じ取る私の感覚はとっくに潰えてしまっているから。
 私は私を見る事の出来るモノを何も持たない。
 水は私の顔を映すけど、だけどそれは微風にですら崩される頼りないもの。
 氷は私の顔を映すけど、だけどそれは最初から歪んで私を映している。
 他人の瞳は私の顔を映すけど、だけど他人の瞳に映る私は私を見るその人の持つ私への感情に彩られているから。
 鏡は私の顔を映すけど、だけどその鏡に映る私の顔を見る私の瞳が正しいと一体誰が言い切れるでしょう?
 私自身ですら、私の瞳が正しいとは、保証する術を持たぬというのに。
 だからもしもあなたが混じりの無い純粋な眼で私を私と認識してくれるのなら、それは本当に嬉しい。
 聞いたその瞬間は。
 だって私は私を自分でも認識できないのに、他人のあなたがそんな私を正確に私と認識できる術を持たぬはずだから。
 結局は誰も私を知らない。
 私ですら私を知れない。
 皆誰も、それぞれを、他人を、知らない。
 知らない。
 知らない。
 だから人は孤独。
 だから人は少しでも自分を知りたくって、他人を求める。
 その私の隣に居るあなたの瞳に映る私がたとえ嘘偽りの私でも、私はあなたの色に彩られた私を見る事が出来て、


 そして私はあなたが染めたその色の私なら、演じようと思えば、演じきれるから。



  フリーデリーケ・ベルンカステル


 はい。相変わらず元ネタを知らない一般の健全な読者さんを置いてけぼりの私のブログです。(笑い
 だけど本当にあんな綺麗な詩を作れるなんて凄いですよね。
 

幽霊

2006年06月08日 | 降る雨のウタ

 私は幽霊。
 私は暗い場所に居る。
 ずっと。
 それを泣いてくれるあなた。
 私は小首を傾げる。
 そしたらあなたは泣いた顔で笑った。
 泣きながら、
 笑った。
 矛盾している。


 私は幽霊。
 私は幽霊。
 でも私は、本当は生きている。


 温かい体。
 伸びる髪に爪。
 手足。
 成長する身体。


 私は幽霊。
 幽霊なのは、存在が。
 私は社会から、自分を切り離したから。


 いいの。


 私が生きるにはこの社会は辛すぎた。
 人間関係がきつすぎた。
 世の中の仕組み全てがきつすぎた。
 誰も私をわかろうとはしてはくれなかった。
 誰も私を、しらない。
 わかってくれない。



 私は、ここに、居る。




 私はここに居て、
 でも、私は私がそこに居たらダメになると思ったから、
 自分で自分から社会を切り離した。


 いいの。


 私が社会を必要としないように、


 社会も私を必要とはしないから。


 私は要らない子。


 だから私は、幽霊。


 私は、幽霊。



 いいの。
 私がいいから、いいの。


 幽霊の私は社会とは切り離された。


 だから社会にいる人は、そのシステムを効率的に動かすための名目、幸せを手に入れていく。
 進学、就職、結婚、出産、子育て、子の自立、子の結婚、孫の誕生、そして………死――――


 いいの。



 それは社会で生きている人のご褒美。
 だから私は、いいの。


 私は私の部屋で日がな一日を過ごす。
 私の世界は私の部屋。
 いいの。
 そこから外の世界は、私には辛すぎるから。
 だからいいの。
 一日は24時間。
 学生だったら6時起床。8時半から学業開始。16時から部活。18時から塾。20時に晩御飯。21時に入浴。22時に勉強。23時に雑談、雑ごと、24時に就寝。
 でも私は、24時間この部屋で、窓から私が切り離した世界の音を聴きながら、そこでじっとしているだけ。
 いいの。
 それでいいの。
 私には辛すぎるから。
 だからそれでいいの。


 ――――イイノ、ッテ、ナニガ?



 ホントウハ、サビシイ、クセニ!!!


 イツモ、ナイテイル、クセニ!!!


 ヒトリガ、カナシクッテ、


 ヒトリガ、サビシクッテ、


 ヒトリガ、クルシクッテ、


 本当は何時だって泣いているくせに!!!


 ずっと願っていた。
 大好きな両親に愛され続けていく事。
 何時か誰かと出逢って、愛される事。
 子どもが欲しかった。
 その子を何よりも愛したかった。


 欲しかった。
 自分の居場所。
 自分を愛してくれる人。
 愛する事を許してくれる人。


 恋しい、恋しい、恋しい、恋しい、恋しい、恋しい、人が恋しい。
 誰かが恋しい。



 でも、いいの。
 私は部屋の窓のカーテンを閉ざす。
 それで殻を厚くする。
 布団にもぐって、闇の中に降りる。


 いいの。


 だって私には何も無くって、
 私には社会は辛すぎるから。



 そうしていつか、いいの、は、許して、に変わる。



 私は私が社会を切り離したのに、
 でも切り離された社会は私に責任を求めて、
 私は否が負う無く社会を認識させられる。


 いいの。
 私はいいの。
 いいの。
 いいの。
 いいの。
 いいのっ!!!
 いいの、
 いいの、
 いいの………
 いいの…………


 私は幽霊。
 幽霊だから、幽霊が見えて、当然。


 その幽霊はにこりと笑って、
 私に生前の事を色々と話してくれた。
 私は私が社会を捨てた。
 でもその人は強制的に切り離された。
 サビシイ?
 私が前髪を揺らせると、
 幽霊は笑った。
 笑いながら私の頭をくしゃっと撫でてくれた。


 そして逆に幽霊は私に問うた。
 そんなにも自分が嫌いなのかい? と。
 私は、私が、うん、嫌い。
 大嫌い。
 私の全てが嫌い。


 そしたら幽霊は言った。
 どうか自分が自分の一番の味方になってあげて、と。
 自分が自分を一番に愛してあげないと、救われないから。


 でも、私は、私を許せないから。
 私は知っている。
 私が幽霊になって、両親が苦しんで、悲しんでいる事を。
 だから私は嫌い。
 私は私が、一番嫌い。
 許さない。
 許せない。
 私が大好きな人を傷つけたから。
 だから私は、私が嫌い。



 私は、幸せになっては、ダメ…………



 幽霊は寂しげに笑い、
 そして言った。
 幽霊は私のピアノのファンだった、と。
 私のピアノの音色に心救われた、と。
 私の弾いていたピアノの音楽が、悪霊になりかけていた自分を救ってくれたのだ、と教えてくれた。
 私は何も言えなかった。
 幽霊は優しく笑い、言った。



 私が居てくれて、良かった、と―――
 私が居たから、自分は悪霊にならずに済んだのだから、と。
 私が今ここに居て、
 ここに居た事が、
 私の存在が、幽霊にとって本当に何よりも幸せだった、と。
 幸福だと。
 そして幽霊は言った。
 絶対に私の味方、だと。
 私が私を許せなくとも、
 私が世界中から非難されても、
 私が私の罪全てを告白して、
 それを全部聴いても、
 幽霊は私の味方だと、そう言ってくれた。



 そして幽霊は私の味方で、
 幽霊は私に救われたから、
 だから何よりも私に約束して欲しいと言った。



 いつか私の目の前に現れた、私を好いてくれる男が愛の告白をしたら、そしたら自分の罪なんか全て忘れて、忘れられなくとも、それでもその男が好いた自分を信じて、その愛を受け入れて欲しい、ください、と。
 過去の自分よりも、
 過去の自分の罪よりも、
 今、目の前にいる、生きている人間を、
 その心を大切にしてください、と。



 幽霊は言った。
 大丈夫だよ、と。


 いいの。
 いいの。
 いいの。
 私は、幽霊で、いいの。


 それでも生きている人の温もりは温かくって、
 触れた温度は、私の温度と、溶け合って、
 私を温めてくれる。


 私は幽霊でいいの。
 でも、生きている人の温もりが、私を人にしてくれる。



 幽霊は言った。
 どうか、過去の自分よりも、
 過去の自分の罪よりも、
 今、目の前にいる人の、私を好いてくれた男の人の好いてくれた感情を、生きている人間を大切にしてくれ、と。
 幽霊は絶対に私の味方だから、と。



 そして幽霊は、私のピアノに救われた。
 私が確かに今、ここに居てくれてよかった、と、
 私はちゃんとここに居るのだと、
 そう伝えてくれて、


 そして私はいつか私を好いてくれた男の人と私とで、今ある私と戦い、そうして誰もが今私に願っている私の幸せを得る事を願ってくれている、と、
 ちゃんと私がいつか現れる私を好いてくれた男の人のその感情を受け入れる事も、
 その男と一緒になって、幸せになる事も、
 それを選択する事も、
 そのために戦う事も、
 ちゃんとその時の私を信じてくれているから、
 だから心配していない、と笑って、幽霊は、言ってくれた。


 大丈夫。私の味方だと、幽霊は言いながら消えた。



 私の体温に握った手から伝わる私を好いてくれた男の人の体温が、何よりも愛おしかった。
 私は、生きている。
 その体温が、そう教えてくれた。




 →closed