目黒治療室ブログ

当治療院における治療内容や症例報告です。どこそこのらーめん屋さんに行った等の記事は一切ございません。

咽喉頭異常感症

2012年07月31日 | 咽喉頭異常感症
-咽喉頭異常感症(ヒステリー球)について-


咽喉頭異常感症とは、咽喉頭部に異常感を訴えるが、訴えに見合うような器質的病変を局所に認めないものをいう。具体的な訴えとしては「のどに物がひっかかった感じ」、「のどに物が詰まった感じ」が多い。
上咽頭・扁桃・副鼻腔の慢性炎症、自律神経失調、貧血、内分泌異常、薬の副作用、心身症、癌不安、神経質などが原因と思われることが多い。
初期の下咽頭癌、食道癌で咽喉頭異常感症が唯一の症状のことがあるので、診断にあたって十分な注意をようする。(南山堂医学大辞典より)

とあります。

東洋医学では「梅核気」と呼ばれるものが、これにあたります。


当ブログでは、当院でおこなっている咽喉頭異常感症の実際の治療方法や、症例(有効例と無効例)を紹介していきたいと思います。



-咽喉頭異常感症の鍼治療について-


平成21年の開業から平成24年7月現在までに、20人の咽喉頭異常感症の患者さんの治療をしてきました。開業前や、中国留学中の症例を合わせると、おそらく60症例くらいにはなると思います。
症例数をこなすごとに、治療法も改良し、現在では有効率もかなり高くなってきましたが、それでも若干の無効例もありましたので、それらの症例はのちほどご紹介していきます。



-臨床にあたり、実際感じた具体的な症状や特徴-


・女性の方が、男性よりも多い。

・症状は、「のどがごろごろする」「のどが詰まる」「のどの締め付け感」「指で触られているような感じ」「のどがひっつく感じ」など。発現箇所は咽喉頭部が一番多いが、咽喉頭部から胸部までのほぼ正中線上の範囲で出現する。

・改善因子は臥位、食事(嚥下)、精神リラックス時など。増悪因子は立位、起座位、精神緊張時など。これらの事からも、自律神経の関与が強いことが分かる。改善因子では副交感神経(迷走神経)が、増悪因子では交感神経がそれぞれ優位になる。

・そのほかに慢性的な疲労感、頚肩のコリ感や動悸、不安感等を訴えることもある。




-鍼治療でのポイント-



①症状が出ている部位の真後ろにあたる夾脊穴・・・脊椎棘突起の直側、脊柱起立筋や多裂筋、回旋筋など。夾脊穴には、その高位の交感神経の興奮を抑制する作用がある。

②胸鎖乳突筋、肩甲挙筋、斜角筋など。

以上の部位の治療で改善することが多いが、症状が頑固に残る場合は以下の部位も加える。

③局所の筋群・・・胸鎖乳突筋胸骨頭(特に胸骨に付着する付近)、舌骨体に起始停止する筋群(肩甲舌骨筋、胸骨舌骨筋など)

④眼窩鍼・・・睛明穴や眼窩上跡痕などから2~3センチほど深刺して置鍼。以前、飛蚊症の治療でこの部位に刺鍼していたところ、偶然に咽喉頭異常感症も治ってしまったことがある。以後何例かに追試してみたが、やはり同様の効果が認められた。なぜ効果が得られるのかは不明だが、おそらく三叉神経の第一枝の刺激により、アシュネル反射と同様の反射が起こり、迷走神経(副交感神経)が優位になるのではないかと推測される。




-症例1 40代女性-


約4年前よりのどに違和感を感じるようになる。職場のストレスや、精神的に緊張している時などに症状が強くなる。食事時や休みの日などでは症状が軽減、全く気にならない時もある。
そのほかに慢性的な疲労感、動悸、気分の落ち込みなどを訴える。

本症例は、咽喉頭異常感症の典型的な症例でる。症状の程度に波があり、リラックスしている時には症状が気にならないというようであれば、比較的治癒しやすい(症状が固定しているような場合は治療に抵抗する場合が多い)。
①と②の治療点をメインに4回治療をおこなったところ、随伴症状とともに主訴も消失した。


-症例2 30代女性-

約2年前より、のどに違和感を感じるようになり、その後、違和感が胸部(両乳頭を結ぶ正中上、膻中穴に相当する部位)にも現れるようになる。睡眠の状態が良いと、翌日は一日症状は軽い。ストレスを感じたり、睡眠不足だと症状は強く現れる。

肩背部の緊張が非常に強く、第五胸椎以上の夾脊穴全てに刺鍼し、浅層の菱形筋や僧帽筋などの緊張も全て緩める様な治療をおこなった。胸部の違和感に関しては、第4、第5胸椎レベルの夾脊穴が奏功した。
①と②を中心に治療をおこない、頚部から肩背部の筋緊張、特に脊椎棘突起の直側の緊張を緩和させることで、睡眠の質もよくなり、10回ほどの治療で症状が消失した。



-症例3 50代女性-

約10年前、大変なストレスがあり、それ以来のどに違和感を覚えるようになる。
食事の時は、少し違和感は軽減するが、基本的に消えることはない。近医にてデパスや半夏厚朴湯を処方されるが、症状は変わらない。

①②の治療点だけでは、やや改善はみられるものの、またすぐ戻ってしまう。①~③全て治療し、15回の治療(最初の4回は週2回、あとは週1回のペース)でようやく症状が消失した。

本症例のように、症状にさしたる波が無く、固定している場合は、症状が改善するまで時間がかかる傾向がある。



-無効例-


・50代男性。1年前よりのどに違和感を覚える。「のどがひっつく感じがして、苦しい」感じ。違和感の程度は非常に強そうに見受けられる。食事の時は少し軽減するが、基本的に違和感は常に感じる。
①②の治療では全く改善が見られない。③の治療では、治療している瞬間だけ違和感はやや軽減するが、治療後すぐに戻ってしまう。
結局5回治療をおこなうが、効果はほとんど見られなかった。

本症例の様に、違和感が非常に強く、症状が固定している例では、鍼治療での改善が難しい場合が多い。


・20代女性。約1年前まえよりのどの違和感(狭窄感)を覚える。近医で検査すると、実際に狭窄している所見が見られたとのこと。

本症例でも、①~③の治療を4回ほどおこなったが、症状に改善がみられなかった。
このように、実際にのどの狭窄が認められる症例は1例しか経験が無いが、このような場合にも①~③の治療は無効であった。