当ブログでは、筋筋膜性疼痛症候群(MPS)治療の観点から、何件もの医療機関や治療施設を受診しても良くならなかった方々の症例をもとに、医療機関や治療院でも見逃され易いポイント、また、要点は押さえているけど、施術の仕方が適切でないため、治癒に至らなかった例などを挙げ、当院ではどの様に治療を進めて行くのかを、筋肉の部位別にご紹介していきたいと思います。
2014年春、厚生労働省は国内の2800万人が腰痛に苦しんでおり、しかもその8割が原因不明であるとの調査結果を発表しました。新聞の一面に載り、TVのニュースにも多く取り上げられたので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。
しかし、この調査では、筋筋膜性疼痛症候群(MPS)による腰痛には全く着目しておりません。
MPSはその名の通り、筋肉や筋膜に原因があるため、画像所見では確認できません。
よって原因不明扱いされてしまうのです。
また、整形外科で「軟骨がすり減っている」「椎間板が出ている」「ヘルニアです」などと言われた方の中にも、実はMPSが原因だったということも多々あります。
調査報告によれば、多くの慢性腰痛は「心理的、社会的ストレスにより悪化」するため「抗不安薬による治療」は「強く推奨される」にランク付けされています。
実は、MPSも心理的、社会的ストレスとは密接な結びつきがあるのです。
MPSの好発する筋群は主に、姿勢を維持する時に使われる筋肉などの、持続的に収縮を強いられる筋肉がメインになります。
これらの筋肉の特徴は、いわゆる赤身の筋肉です。回遊魚のアレです。
回遊魚は常に泳いでいるため、常に筋肉に栄養や酸素を送り続けなければならないため、毛細血管がとても豊富な構造となっております。
それぞれの毛細血管には、血流量をコントロールするために交感神経が入り込んでいます。
結果的に、赤身の筋肉は交感神経線維がとても豊富に存在しております。
MPSの好発する筋群もとても似た構造になっております。
精神的にストレスを受けると、交感神経が緊張することは、よく知られているところであります。
ストレス→交感神経優位→血管収縮→筋肉こる→痛い→ストレス・・・のサイクルが成り立ちます。
持続的な筋肉の緊張でコリができます。ひどくなるとカチカチに固まった硬結ができます。これは筋肉が、意志とは無関係に収縮している状態です。これを拘縮といいます。
拘縮状態が続いた筋肉に何が起こるかというと、血流が障害され、これに拘縮によるエネルギー消費の増大が加わって代謝産物が蓄積し、発痛物質のブラジキニンやプロスタグランジンが産生されて痛みを生じます。こうして筋肉が痛みの発生源となり、反射性筋収縮や血管収縮が加わって痛みを強め、痛みの悪循環ができ上がります。
長年腰痛でお苦しみの方の中には、腰に手を当てると、まるでゴルフボールや石ころでも入ってるんじゃないか?って位にカチカチになったモノに触れる方もいらっしゃるのではないでしょうか?
それこそが、筋拘縮のなれの果ての硬結です。まさしく腰痛の原因になっているところであります。
もう石ころみたいに固くなってしまった硬結は、押そうが揉もうが叩こうが、どうにも解決することは出来なくなっている場合が殆どです。
カチカチになった硬結の表面(筋膜)に鍼が到達するとズーンという独特な響きが生じると同時に、「あ、痛かったのはまさしくそこだ!」といったような認知覚が得られることでしょう。
さらに硬結の中に鍼を進めて留めておくことで、硬結の中から血液の循環が改善され、固かったコリがジワジワとほぐれていきます。
初めは、ズーンという響きが怖いという方もいらっしゃいます。
ですが、響きを感じているあいだに起こる生体反応は、血流が改善し、コリがほぐれて体が温かく感じたり、副交感神経の活動が活発になり、リラックスして眠気を催したりと、体にとっては気持の良い反応となります。
ですので、慣れるととても心地良く感じられると思います。
前置きが随分と長くなってしまいました。
では、筋肉別に治療法を紹介していきます
1腰方形筋
腰方形筋とは図の示す位置にある筋肉です。
筋筋膜性の腰痛でも特に多いのではないでしょうか。
軽度のうちは、腰を前かがみにしたりすると痛みが出たり、伸ばすと気持ち良かったりすると思います。
この段階では、マッサージやカイロなどでも十分改善は望めると思います。
しかし、慢性化すると段々固くなり、最後は石や鉄板の様にカチンコチンになってしまう部位です。
重症化すると、痛みの範囲は腰だけに留まらず、臀部や股関節周辺、大腿の外側まで痛みが及ぶことがあります。ですので、他の治療院や医療機関では「坐骨神経痛です」などと言われるケースも非常に多いです。
またこの筋肉は骨盤(腸骨陵というところ)に付着するので、拘縮している状態だと、体幹が患側に側屈した状態になります。
そうすると、脚の長さが左右で非対称になるのですが、カイロや接骨院などで、「骨盤がずれているので脚の長さが左右で違いますねぇ」などと言われたという方にもよく遭遇します。
この様な場合でも、拘縮している腰方形筋を治療してやれば、すぐに治ってしまいます。
脚の長さに影響する筋肉は他にも色々と有るのですが、ここでは省略します。
上述したようなケースでは、鍼の出番です。
しかし、鍼灸院では、腰の治療はうつ伏せの状態で鍼を打つことが多いと思うのですが、慢性化している場合は、その姿位で刺したところで、たいした効果は得られません。
どの様に鍼を打てば良いのかというと、図のように側臥位の状態で刺します。
しかも、この時に重要なのは、腰を少し丸める状態にすることです。
そうすると、腰方形筋が伸展した状態になります。
基本的に、慢性化して固くなってしまった筋肉は、伸展して打たないと、早く良い結果を得ることが出来ません。
そして首は少し後屈させます。こうすると表層の脊柱起立筋は弛緩します。
ですので、脊柱起立筋に対する刺激は少なくなり、刺鍼の効果を腰方形筋のみに集中させることが出来るのです。
2腸腰筋
腸腰筋とは図の示す位置にある筋肉です。大腰筋と腸骨筋を合わせて腸腰筋といいます。
近年、腰痛関連の雑誌記事やTV等で取り上げられる機会も多いの、ご存知の方も多いのではないでしょうか?
いわゆるインナーマッスルといわれるもので、メジャーな筋肉ではありますが、非常に手ごわい相手になります。
なぜかというと、よく雑誌記事などで、腸腰筋のストレッチ方法なんかも紹介されておりますが、腸腰筋が拘縮しているような場合ですと、まずストレッチで効果を出すのは不可能と言っても過言ではありません。
さらに、インナーマッスルというだけあって、筋肉はほぼ全域にわたって深層に位置しますので、体表からは、ほとんど触れることが出来ませんので、マッサージでは非常に困難な場所になります。マッサージが可能な部位は、強いて言えば患者を側臥位にして、背後から腹直筋を避けるようにすれば、大腰筋の下部や腸骨筋の一部はかろうじて可能です。あとは腸骨筋と大腰筋が合流して大腿骨に付着するごく一部分となります。
しかし、上記の触知が可能な部位は、残念ながら治療をする上ではさほど重要ではないのです。
一番重要なのは、最深部の腰椎の直側にある大腰筋なのです。
なぜなら、腰椎からは坐骨神経や、大腿神経、大腿外側皮神経など、下肢に向かう重要な神経が出るのですが、それらの神経の一部は、大腰筋の上述の部位を貫いて通過していくのです。
ですので、大腰筋が拘縮していれば、坐骨神経領域や大腿神経領域に痛みが出ることは想像に難くないと思います。
この時の疼痛部位は、腰だけに留まらず、股関節や大腿後面または外側面、さらに膝の痛みや足の指の痛みや痺れなどが現れます。
姿勢にも顕著に変化が現れます。
腸腰筋は股関節を屈曲させる筋肉ですので、拘縮している場合、仰向けで横になると、股関節がまっすぐ伸びないため、膝や腰の下にスペースができてしまいます。
また立位では、腰椎を前下方に引っ張る力が働くので反り腰となり、視線を床と並行に保つために、顎が前方に突き出した形となります。
ですので、頭部を支えるため首や肩の筋肉に、過度な負担を強いることにもなっているのです。
大腰筋に対するアプローチの仕方は、やはりここでも側臥位が望ましいのですが、腰方形筋の時とは違い背中を丸める姿位は取らずに、患側の大腿を後方に伸展させた姿位をとります。
また、伸ばした大腿の下に、枕などを入れておくと、楽に姿勢が保てます。
こうする、腸腰筋の走行を見てもわかる通り、筋肉を伸展させる姿位が取れます。
そして図で示すように、脊柱起立筋を上方から避けながら、腰方筋を貫き、腰椎の肋骨突起の間を通して大腰筋まで鍼を到達させます。
この時、脚や膝の方までズーンという響きを感じることが多いです。
3腰仙関節部(L5-S1)の多裂筋
場所は図で示した部位になります。
この部位も、腰痛では非常に良く見られるポイントになります。
腰仙関節は、腰椎の中でも特に負担がかかりやすく、変形性腰椎症やすべり症、また椎間板ヘルニアの好発部位でもあり、画像所見上、器質的な変化がよく認められる部位でもあります。
ですので、レントゲンを撮ると、腰痛の原因は「関節軟骨の減少」や「椎間板の減少」などによるものと指摘されることも少なくありません。
しかし近年、整形外科の世界でも、痛みや痺れは器質的な変化とは無関係であると指摘されるようになり、このことはMPSとともにメディアにも登場するようになりましたので、ご存知の方もおられるのではないでしょうか。
では、痛みの正体は何かというと、やはりMPSであります。
関連する筋肉を多裂筋といいます。
この部位の痛みの特徴は
・寝起きの時に固まって痛い。15~20分くらい経過すると少しづつほぐれてきて、動かせるようになる。
・椅子に座ると、立つときに腰が固まって、まっすぐ立てない。
・症状が重くなると、臀部まで痛みが放散する。
他にもありますが、代表的なものは上記の様な症状になります。
アプローチの仕方ですが、やはりここも側臥位でおこないます。
今度は、思い切り体を丸めるように抱え込むような姿位をとります。
そして第五腰椎棘突起の下縁から2~3センチ外側に刺入点を求め、そこから椎体に当たるまで垂直に刺入していきます。
4仙腸関節部の多裂筋
今まで、何件も病院や治療院を巡ったけれど治らず、何年も経過してしまったという方が、当治療院を訪れることも珍しくありません。
その様な方々に特に多いのが、この仙腸関節部の多裂筋による腰痛です。
写真にもある通り、障害されている部位は、体表から比較的深い場所にあり、しかも腸骨を隔てた所に位置するため、直接触れることが出来ません。
そのため、「この辺が痛い」というのは漠然と判るのですが、「ここが痛い」というような明確な認知覚を得にくい部位となります。
以上のことから、非常に見逃され易い部位となっております。
更に厄介なことに、仙腸関節ストレッチなども有るには有るのですが、痛みが出てしまっている状態だと、ほぼ効果はありません。振動を与えたり、上から叩いたりしても全く解決しません。なぜなら仙腸関節は構造上、動きのほとんど無い半関節構造のため、いくら体を伸ばしたり振動を与えたところで、痛みを出している多裂筋や靭帯には何の影響も及ぼさないのです。
鍼治療では、直接障害部位にアプローチ出来るので非常に効果的です。
ですが、刺鍼の方法や角度が非常に特殊で難易度も比較的高いため、それなりの経験が必要となります。
刺鍼時の姿位は腰仙関節の時と同じ姿位をとります。刺入点は第五腰椎棘突起の正中から外側に2~3センチのところから、外下方45度、床面に対して45度の角度で刺入していきます。途中で固いものに当たったら、それは上後腸骨棘という骨の出っ張りなので、一度少し引き上げてから更に角度を微調整して、更に刺入していきます。
グミや消しゴムの様な高弾力の所に当たれば、そこが障害されている多裂筋や靭帯になります。その時、患者は独特な響きを感じ、「まさしくそこだ!」というような認知覚を得られると思います。
また、仙腸関節部が障害されている場合は、腰仙関節も高い割合で障害されているので、同時に治療すると、より効果的になります。
2014年春、厚生労働省は国内の2800万人が腰痛に苦しんでおり、しかもその8割が原因不明であるとの調査結果を発表しました。新聞の一面に載り、TVのニュースにも多く取り上げられたので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。
しかし、この調査では、筋筋膜性疼痛症候群(MPS)による腰痛には全く着目しておりません。
MPSはその名の通り、筋肉や筋膜に原因があるため、画像所見では確認できません。
よって原因不明扱いされてしまうのです。
また、整形外科で「軟骨がすり減っている」「椎間板が出ている」「ヘルニアです」などと言われた方の中にも、実はMPSが原因だったということも多々あります。
調査報告によれば、多くの慢性腰痛は「心理的、社会的ストレスにより悪化」するため「抗不安薬による治療」は「強く推奨される」にランク付けされています。
実は、MPSも心理的、社会的ストレスとは密接な結びつきがあるのです。
MPSの好発する筋群は主に、姿勢を維持する時に使われる筋肉などの、持続的に収縮を強いられる筋肉がメインになります。
これらの筋肉の特徴は、いわゆる赤身の筋肉です。回遊魚のアレです。
回遊魚は常に泳いでいるため、常に筋肉に栄養や酸素を送り続けなければならないため、毛細血管がとても豊富な構造となっております。
それぞれの毛細血管には、血流量をコントロールするために交感神経が入り込んでいます。
結果的に、赤身の筋肉は交感神経線維がとても豊富に存在しております。
MPSの好発する筋群もとても似た構造になっております。
精神的にストレスを受けると、交感神経が緊張することは、よく知られているところであります。
ストレス→交感神経優位→血管収縮→筋肉こる→痛い→ストレス・・・のサイクルが成り立ちます。
持続的な筋肉の緊張でコリができます。ひどくなるとカチカチに固まった硬結ができます。これは筋肉が、意志とは無関係に収縮している状態です。これを拘縮といいます。
拘縮状態が続いた筋肉に何が起こるかというと、血流が障害され、これに拘縮によるエネルギー消費の増大が加わって代謝産物が蓄積し、発痛物質のブラジキニンやプロスタグランジンが産生されて痛みを生じます。こうして筋肉が痛みの発生源となり、反射性筋収縮や血管収縮が加わって痛みを強め、痛みの悪循環ができ上がります。
長年腰痛でお苦しみの方の中には、腰に手を当てると、まるでゴルフボールや石ころでも入ってるんじゃないか?って位にカチカチになったモノに触れる方もいらっしゃるのではないでしょうか?
それこそが、筋拘縮のなれの果ての硬結です。まさしく腰痛の原因になっているところであります。
もう石ころみたいに固くなってしまった硬結は、押そうが揉もうが叩こうが、どうにも解決することは出来なくなっている場合が殆どです。
カチカチになった硬結の表面(筋膜)に鍼が到達するとズーンという独特な響きが生じると同時に、「あ、痛かったのはまさしくそこだ!」といったような認知覚が得られることでしょう。
さらに硬結の中に鍼を進めて留めておくことで、硬結の中から血液の循環が改善され、固かったコリがジワジワとほぐれていきます。
初めは、ズーンという響きが怖いという方もいらっしゃいます。
ですが、響きを感じているあいだに起こる生体反応は、血流が改善し、コリがほぐれて体が温かく感じたり、副交感神経の活動が活発になり、リラックスして眠気を催したりと、体にとっては気持の良い反応となります。
ですので、慣れるととても心地良く感じられると思います。
前置きが随分と長くなってしまいました。
では、筋肉別に治療法を紹介していきます
1腰方形筋
腰方形筋とは図の示す位置にある筋肉です。
筋筋膜性の腰痛でも特に多いのではないでしょうか。
軽度のうちは、腰を前かがみにしたりすると痛みが出たり、伸ばすと気持ち良かったりすると思います。
この段階では、マッサージやカイロなどでも十分改善は望めると思います。
しかし、慢性化すると段々固くなり、最後は石や鉄板の様にカチンコチンになってしまう部位です。
重症化すると、痛みの範囲は腰だけに留まらず、臀部や股関節周辺、大腿の外側まで痛みが及ぶことがあります。ですので、他の治療院や医療機関では「坐骨神経痛です」などと言われるケースも非常に多いです。
またこの筋肉は骨盤(腸骨陵というところ)に付着するので、拘縮している状態だと、体幹が患側に側屈した状態になります。
そうすると、脚の長さが左右で非対称になるのですが、カイロや接骨院などで、「骨盤がずれているので脚の長さが左右で違いますねぇ」などと言われたという方にもよく遭遇します。
この様な場合でも、拘縮している腰方形筋を治療してやれば、すぐに治ってしまいます。
脚の長さに影響する筋肉は他にも色々と有るのですが、ここでは省略します。
上述したようなケースでは、鍼の出番です。
しかし、鍼灸院では、腰の治療はうつ伏せの状態で鍼を打つことが多いと思うのですが、慢性化している場合は、その姿位で刺したところで、たいした効果は得られません。
どの様に鍼を打てば良いのかというと、図のように側臥位の状態で刺します。
しかも、この時に重要なのは、腰を少し丸める状態にすることです。
そうすると、腰方形筋が伸展した状態になります。
基本的に、慢性化して固くなってしまった筋肉は、伸展して打たないと、早く良い結果を得ることが出来ません。
そして首は少し後屈させます。こうすると表層の脊柱起立筋は弛緩します。
ですので、脊柱起立筋に対する刺激は少なくなり、刺鍼の効果を腰方形筋のみに集中させることが出来るのです。
2腸腰筋
腸腰筋とは図の示す位置にある筋肉です。大腰筋と腸骨筋を合わせて腸腰筋といいます。
近年、腰痛関連の雑誌記事やTV等で取り上げられる機会も多いの、ご存知の方も多いのではないでしょうか?
いわゆるインナーマッスルといわれるもので、メジャーな筋肉ではありますが、非常に手ごわい相手になります。
なぜかというと、よく雑誌記事などで、腸腰筋のストレッチ方法なんかも紹介されておりますが、腸腰筋が拘縮しているような場合ですと、まずストレッチで効果を出すのは不可能と言っても過言ではありません。
さらに、インナーマッスルというだけあって、筋肉はほぼ全域にわたって深層に位置しますので、体表からは、ほとんど触れることが出来ませんので、マッサージでは非常に困難な場所になります。マッサージが可能な部位は、強いて言えば患者を側臥位にして、背後から腹直筋を避けるようにすれば、大腰筋の下部や腸骨筋の一部はかろうじて可能です。あとは腸骨筋と大腰筋が合流して大腿骨に付着するごく一部分となります。
しかし、上記の触知が可能な部位は、残念ながら治療をする上ではさほど重要ではないのです。
一番重要なのは、最深部の腰椎の直側にある大腰筋なのです。
なぜなら、腰椎からは坐骨神経や、大腿神経、大腿外側皮神経など、下肢に向かう重要な神経が出るのですが、それらの神経の一部は、大腰筋の上述の部位を貫いて通過していくのです。
ですので、大腰筋が拘縮していれば、坐骨神経領域や大腿神経領域に痛みが出ることは想像に難くないと思います。
この時の疼痛部位は、腰だけに留まらず、股関節や大腿後面または外側面、さらに膝の痛みや足の指の痛みや痺れなどが現れます。
姿勢にも顕著に変化が現れます。
腸腰筋は股関節を屈曲させる筋肉ですので、拘縮している場合、仰向けで横になると、股関節がまっすぐ伸びないため、膝や腰の下にスペースができてしまいます。
また立位では、腰椎を前下方に引っ張る力が働くので反り腰となり、視線を床と並行に保つために、顎が前方に突き出した形となります。
ですので、頭部を支えるため首や肩の筋肉に、過度な負担を強いることにもなっているのです。
大腰筋に対するアプローチの仕方は、やはりここでも側臥位が望ましいのですが、腰方形筋の時とは違い背中を丸める姿位は取らずに、患側の大腿を後方に伸展させた姿位をとります。
また、伸ばした大腿の下に、枕などを入れておくと、楽に姿勢が保てます。
こうする、腸腰筋の走行を見てもわかる通り、筋肉を伸展させる姿位が取れます。
そして図で示すように、脊柱起立筋を上方から避けながら、腰方筋を貫き、腰椎の肋骨突起の間を通して大腰筋まで鍼を到達させます。
この時、脚や膝の方までズーンという響きを感じることが多いです。
3腰仙関節部(L5-S1)の多裂筋
場所は図で示した部位になります。
この部位も、腰痛では非常に良く見られるポイントになります。
腰仙関節は、腰椎の中でも特に負担がかかりやすく、変形性腰椎症やすべり症、また椎間板ヘルニアの好発部位でもあり、画像所見上、器質的な変化がよく認められる部位でもあります。
ですので、レントゲンを撮ると、腰痛の原因は「関節軟骨の減少」や「椎間板の減少」などによるものと指摘されることも少なくありません。
しかし近年、整形外科の世界でも、痛みや痺れは器質的な変化とは無関係であると指摘されるようになり、このことはMPSとともにメディアにも登場するようになりましたので、ご存知の方もおられるのではないでしょうか。
では、痛みの正体は何かというと、やはりMPSであります。
関連する筋肉を多裂筋といいます。
この部位の痛みの特徴は
・寝起きの時に固まって痛い。15~20分くらい経過すると少しづつほぐれてきて、動かせるようになる。
・椅子に座ると、立つときに腰が固まって、まっすぐ立てない。
・症状が重くなると、臀部まで痛みが放散する。
他にもありますが、代表的なものは上記の様な症状になります。
アプローチの仕方ですが、やはりここも側臥位でおこないます。
今度は、思い切り体を丸めるように抱え込むような姿位をとります。
そして第五腰椎棘突起の下縁から2~3センチ外側に刺入点を求め、そこから椎体に当たるまで垂直に刺入していきます。
4仙腸関節部の多裂筋
今まで、何件も病院や治療院を巡ったけれど治らず、何年も経過してしまったという方が、当治療院を訪れることも珍しくありません。
その様な方々に特に多いのが、この仙腸関節部の多裂筋による腰痛です。
写真にもある通り、障害されている部位は、体表から比較的深い場所にあり、しかも腸骨を隔てた所に位置するため、直接触れることが出来ません。
そのため、「この辺が痛い」というのは漠然と判るのですが、「ここが痛い」というような明確な認知覚を得にくい部位となります。
以上のことから、非常に見逃され易い部位となっております。
更に厄介なことに、仙腸関節ストレッチなども有るには有るのですが、痛みが出てしまっている状態だと、ほぼ効果はありません。振動を与えたり、上から叩いたりしても全く解決しません。なぜなら仙腸関節は構造上、動きのほとんど無い半関節構造のため、いくら体を伸ばしたり振動を与えたところで、痛みを出している多裂筋や靭帯には何の影響も及ぼさないのです。
鍼治療では、直接障害部位にアプローチ出来るので非常に効果的です。
ですが、刺鍼の方法や角度が非常に特殊で難易度も比較的高いため、それなりの経験が必要となります。
刺鍼時の姿位は腰仙関節の時と同じ姿位をとります。刺入点は第五腰椎棘突起の正中から外側に2~3センチのところから、外下方45度、床面に対して45度の角度で刺入していきます。途中で固いものに当たったら、それは上後腸骨棘という骨の出っ張りなので、一度少し引き上げてから更に角度を微調整して、更に刺入していきます。
グミや消しゴムの様な高弾力の所に当たれば、そこが障害されている多裂筋や靭帯になります。その時、患者は独特な響きを感じ、「まさしくそこだ!」というような認知覚を得られると思います。
また、仙腸関節部が障害されている場合は、腰仙関節も高い割合で障害されているので、同時に治療すると、より効果的になります。