目黒治療室ブログ

当治療院における治療内容や症例報告です。どこそこのらーめん屋さんに行った等の記事は一切ございません。

眼瞼痙攣治療の備忘録

2019年11月06日 | 眼瞼痙攣

日々の眼瞼痙攣の鍼治療を通しての、気づきや印象に残った事象を備忘録的にまとめた記事です

 

運動型と感覚過敏型

眼瞼痙攣には大きく分けて運動型と感覚過敏型、それらの混合型がある。

運動型は瞼がギューッと閉じてしまったり、パチパチとした瞬目が主症状。

感覚過敏型は、高度な羞明やゴロゴロとした異物感など、瞼の不随意運動はないが、眩しさや痛みを感じてしまい、開瞼が困難なもの。

実際は、不随意運動に眩しさや、異物感を伴う混合型が圧倒的に多い印象がある。

運動型と混合型では鍼治療の効果が高く、高度な感覚過敏型では、効果が上がらないケースが多い。

 

薬剤性の眼瞼痙攣

抗精神病薬、ベンゾジアゼピン、チエノジアゼピン系薬物(抗不安薬、睡眠導入剤)の服用により発症したもの。

以前は、薬剤性眼瞼痙攣は鍼灸治療の対象外と考えていたが、明らかに薬物性が疑われる症例でも緩解するケースがある。しかし、運動型と混合型に限られる。

 

眼瞼下垂の手術後に発症する眼瞼痙攣

眼瞼下垂の手術で、ミュラー筋短縮術やミュラー筋と腱膜を瞼板に縫合する術後に発症することがある。

今まで5例の経験があるが、鍼治療はいずれも良好な経過をたどった。顔や頭部の一部がこわばるなどの強直性が多く、羞明などの感覚過敏は認められないか、ごく軽微であった。

 

座位、臥位での症状の軽重

座位や立位に比べ、臥位だと症状が軽くなることが多い。これは何を意味するのか。

座位や立位では交感神経が優位になり、臥位だと副交感神経が優位になることに関連するのか、または単純に座位や立位よりも、臥位の時のほうが頸部にかかる負担が軽くなることに関係があるのか。ちなみに座位で頸部を牽引しても同様に症状の軽減がみられる。牽引をやめると症状は瞬時にもとに戻る

臥位の時には枕が顔面部に接触するし、牽引時では患者の頸部に施術者の手掌部が接触するので、この時に知覚トリックが作動していることも否定できないが、治療に応用できないか検討の価値は大いにありそう。

ちなみに知覚トリック自体は、全く治療に寄与するものではない。

 

眼瞼痙攣と皺眉筋

眼瞼痙攣では、眉間に皺を寄せる運動が多くなるため、皺眉筋が非常に凝る。グミのような非常に厚みのあるコリを蝕知することもある。このような場合には皺眉筋への鍼治療は大変有効で、皺眉筋のみの鍼施術で頸部や肩の筋緊張まで和らぐことがある。そして開瞼が楽に行えるようになる。

 

食いしばりと眼瞼痙攣

眼瞼痙攣患者には、高頻度で食いしばりや噛みしめが見られる。これは、開瞼困難時に、ミュラー筋を作動させるために歯を食いしばる、もしくは舌で歯を押す行動をとるようになるために起きる現象である。

しかし、開瞼困難から脱した眼瞼痙攣患者にも、食いしばりが見られることがある。

これは、そもそも食いしばりや弄舌癖が眼瞼痙攣のようにジストニアの範疇に入る可能性があるのではないかと思う。いずれにせよ、眼瞼痙攣患者は、食いしばりを伴うことが多い。

この場合は、側頭筋と咬筋への施術がとても重要になる。

 

眼輪筋への鍼施術

眼瞼下垂の鍼治療では、眼輪筋への鍼治療が大変有効。

眼瞼痙攣でも、眼瞼下垂のように瞼の重さを訴える患者がいる。

このような患者数例に眼輪筋の鍼治療を試みてみたところ、全く効果がなかった。

同一症状でも機序が異なるからなのか、興味深い結果となった。

 


ホームページをリニューアルしました!

2019年02月13日 | お知らせ

目黒治療室のブログをご覧いただきありがとうございます。

この度、下記URLへホームページをリニューアルし、スマートフォンからも見やすくなりました。

http://megurochiryo.com

今後ともよろしくお願いいたします。


腰痛治療

2014年12月15日 | 腰痛
当ブログでは、筋筋膜性疼痛症候群(MPS)治療の観点から、何件もの医療機関や治療施設を受診しても良くならなかった方々の症例をもとに、医療機関や治療院でも見逃され易いポイント、また、要点は押さえているけど、施術の仕方が適切でないため、治癒に至らなかった例などを挙げ、当院ではどの様に治療を進めて行くのかを、筋肉の部位別にご紹介していきたいと思います。




2014年春、厚生労働省は国内の2800万人が腰痛に苦しんでおり、しかもその8割が原因不明であるとの調査結果を発表しました。新聞の一面に載り、TVのニュースにも多く取り上げられたので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。



しかし、この調査では、筋筋膜性疼痛症候群(MPS)による腰痛には全く着目しておりません。




MPSはその名の通り、筋肉や筋膜に原因があるため、画像所見では確認できません。
よって原因不明扱いされてしまうのです。




また、整形外科で「軟骨がすり減っている」「椎間板が出ている」「ヘルニアです」などと言われた方の中にも、実はMPSが原因だったということも多々あります。




調査報告によれば、多くの慢性腰痛は「心理的、社会的ストレスにより悪化」するため「抗不安薬による治療」は「強く推奨される」にランク付けされています。




実は、MPSも心理的、社会的ストレスとは密接な結びつきがあるのです。




MPSの好発する筋群は主に、姿勢を維持する時に使われる筋肉などの、持続的に収縮を強いられる筋肉がメインになります。



これらの筋肉の特徴は、いわゆる赤身の筋肉です。回遊魚のアレです。



回遊魚は常に泳いでいるため、常に筋肉に栄養や酸素を送り続けなければならないため、毛細血管がとても豊富な構造となっております。
それぞれの毛細血管には、血流量をコントロールするために交感神経が入り込んでいます。
結果的に、赤身の筋肉は交感神経線維がとても豊富に存在しております。




MPSの好発する筋群もとても似た構造になっております。




精神的にストレスを受けると、交感神経が緊張することは、よく知られているところであります。



ストレス→交感神経優位→血管収縮→筋肉こる→痛い→ストレス・・・のサイクルが成り立ちます。




持続的な筋肉の緊張でコリができます。ひどくなるとカチカチに固まった硬結ができます。これは筋肉が、意志とは無関係に収縮している状態です。これを拘縮といいます。


拘縮状態が続いた筋肉に何が起こるかというと、血流が障害され、これに拘縮によるエネルギー消費の増大が加わって代謝産物が蓄積し、発痛物質のブラジキニンやプロスタグランジンが産生されて痛みを生じます。こうして筋肉が痛みの発生源となり、反射性筋収縮や血管収縮が加わって痛みを強め、痛みの悪循環ができ上がります。




長年腰痛でお苦しみの方の中には、腰に手を当てると、まるでゴルフボールや石ころでも入ってるんじゃないか?って位にカチカチになったモノに触れる方もいらっしゃるのではないでしょうか?




それこそが、筋拘縮のなれの果ての硬結です。まさしく腰痛の原因になっているところであります。




もう石ころみたいに固くなってしまった硬結は、押そうが揉もうが叩こうが、どうにも解決することは出来なくなっている場合が殆どです。




カチカチになった硬結の表面(筋膜)に鍼が到達するとズーンという独特な響きが生じると同時に、「あ、痛かったのはまさしくそこだ!」といったような認知覚が得られることでしょう。
さらに硬結の中に鍼を進めて留めておくことで、硬結の中から血液の循環が改善され、固かったコリがジワジワとほぐれていきます。




初めは、ズーンという響きが怖いという方もいらっしゃいます。
ですが、響きを感じているあいだに起こる生体反応は、血流が改善し、コリがほぐれて体が温かく感じたり、副交感神経の活動が活発になり、リラックスして眠気を催したりと、体にとっては気持の良い反応となります。
ですので、慣れるととても心地良く感じられると思います。





前置きが随分と長くなってしまいました。
では、筋肉別に治療法を紹介していきます





1腰方形筋
腰方形筋とは図の示す位置にある筋肉です。



筋筋膜性の腰痛でも特に多いのではないでしょうか。



軽度のうちは、腰を前かがみにしたりすると痛みが出たり、伸ばすと気持ち良かったりすると思います。




この段階では、マッサージやカイロなどでも十分改善は望めると思います。




しかし、慢性化すると段々固くなり、最後は石や鉄板の様にカチンコチンになってしまう部位です。




重症化すると、痛みの範囲は腰だけに留まらず、臀部や股関節周辺、大腿の外側まで痛みが及ぶことがあります。ですので、他の治療院や医療機関では「坐骨神経痛です」などと言われるケースも非常に多いです。




またこの筋肉は骨盤(腸骨陵というところ)に付着するので、拘縮している状態だと、体幹が患側に側屈した状態になります。
そうすると、脚の長さが左右で非対称になるのですが、カイロや接骨院などで、「骨盤がずれているので脚の長さが左右で違いますねぇ」などと言われたという方にもよく遭遇します。


この様な場合でも、拘縮している腰方形筋を治療してやれば、すぐに治ってしまいます。
脚の長さに影響する筋肉は他にも色々と有るのですが、ここでは省略します。





上述したようなケースでは、鍼の出番です。




しかし、鍼灸院では、腰の治療はうつ伏せの状態で鍼を打つことが多いと思うのですが、慢性化している場合は、その姿位で刺したところで、たいした効果は得られません。

どの様に鍼を打てば良いのかというと、図のように側臥位の状態で刺します。





しかも、この時に重要なのは、腰を少し丸める状態にすることです。
そうすると、腰方形筋が伸展した状態になります。
基本的に、慢性化して固くなってしまった筋肉は、伸展して打たないと、早く良い結果を得ることが出来ません。



そして首は少し後屈させます。こうすると表層の脊柱起立筋は弛緩します。
ですので、脊柱起立筋に対する刺激は少なくなり、刺鍼の効果を腰方形筋のみに集中させることが出来るのです。







2腸腰筋




腸腰筋とは図の示す位置にある筋肉です。大腰筋と腸骨筋を合わせて腸腰筋といいます。









近年、腰痛関連の雑誌記事やTV等で取り上げられる機会も多いの、ご存知の方も多いのではないでしょうか?





いわゆるインナーマッスルといわれるもので、メジャーな筋肉ではありますが、非常に手ごわい相手になります。
なぜかというと、よく雑誌記事などで、腸腰筋のストレッチ方法なんかも紹介されておりますが、腸腰筋が拘縮しているような場合ですと、まずストレッチで効果を出すのは不可能と言っても過言ではありません。



さらに、インナーマッスルというだけあって、筋肉はほぼ全域にわたって深層に位置しますので、体表からは、ほとんど触れることが出来ませんので、マッサージでは非常に困難な場所になります。マッサージが可能な部位は、強いて言えば患者を側臥位にして、背後から腹直筋を避けるようにすれば、大腰筋の下部や腸骨筋の一部はかろうじて可能です。あとは腸骨筋と大腰筋が合流して大腿骨に付着するごく一部分となります。



しかし、上記の触知が可能な部位は、残念ながら治療をする上ではさほど重要ではないのです。





一番重要なのは、最深部の腰椎の直側にある大腰筋なのです。



なぜなら、腰椎からは坐骨神経や、大腿神経、大腿外側皮神経など、下肢に向かう重要な神経が出るのですが、それらの神経の一部は、大腰筋の上述の部位を貫いて通過していくのです。


ですので、大腰筋が拘縮していれば、坐骨神経領域や大腿神経領域に痛みが出ることは想像に難くないと思います。



この時の疼痛部位は、腰だけに留まらず、股関節や大腿後面または外側面、さらに膝の痛みや足の指の痛みや痺れなどが現れます。



姿勢にも顕著に変化が現れます。



腸腰筋は股関節を屈曲させる筋肉ですので、拘縮している場合、仰向けで横になると、股関節がまっすぐ伸びないため、膝や腰の下にスペースができてしまいます。

また立位では、腰椎を前下方に引っ張る力が働くので反り腰となり、視線を床と並行に保つために、顎が前方に突き出した形となります。



ですので、頭部を支えるため首や肩の筋肉に、過度な負担を強いることにもなっているのです。

大腰筋に対するアプローチの仕方は、やはりここでも側臥位が望ましいのですが、腰方形筋の時とは違い背中を丸める姿位は取らずに、患側の大腿を後方に伸展させた姿位をとります。
また、伸ばした大腿の下に、枕などを入れておくと、楽に姿勢が保てます。





こうする、腸腰筋の走行を見てもわかる通り、筋肉を伸展させる姿位が取れます。




そして図で示すように、脊柱起立筋を上方から避けながら、腰方筋を貫き、腰椎の肋骨突起の間を通して大腰筋まで鍼を到達させます。
この時、脚や膝の方までズーンという響きを感じることが多いです。




3腰仙関節部(L5-S1)の多裂筋




場所は図で示した部位になります。




この部位も、腰痛では非常に良く見られるポイントになります。






腰仙関節は、腰椎の中でも特に負担がかかりやすく、変形性腰椎症やすべり症、また椎間板ヘルニアの好発部位でもあり、画像所見上、器質的な変化がよく認められる部位でもあります。
ですので、レントゲンを撮ると、腰痛の原因は「関節軟骨の減少」や「椎間板の減少」などによるものと指摘されることも少なくありません。




しかし近年、整形外科の世界でも、痛みや痺れは器質的な変化とは無関係であると指摘されるようになり、このことはMPSとともにメディアにも登場するようになりましたので、ご存知の方もおられるのではないでしょうか。




では、痛みの正体は何かというと、やはりMPSであります。




関連する筋肉を多裂筋といいます。

この部位の痛みの特徴は
・寝起きの時に固まって痛い。15~20分くらい経過すると少しづつほぐれてきて、動かせるようになる。
・椅子に座ると、立つときに腰が固まって、まっすぐ立てない。
・症状が重くなると、臀部まで痛みが放散する。




他にもありますが、代表的なものは上記の様な症状になります。




アプローチの仕方ですが、やはりここも側臥位でおこないます。
今度は、思い切り体を丸めるように抱え込むような姿位をとります。


そして第五腰椎棘突起の下縁から2~3センチ外側に刺入点を求め、そこから椎体に当たるまで垂直に刺入していきます。




4仙腸関節部の多裂筋




今まで、何件も病院や治療院を巡ったけれど治らず、何年も経過してしまったという方が、当治療院を訪れることも珍しくありません。
その様な方々に特に多いのが、この仙腸関節部の多裂筋による腰痛です。





写真にもある通り、障害されている部位は、体表から比較的深い場所にあり、しかも腸骨を隔てた所に位置するため、直接触れることが出来ません。
そのため、「この辺が痛い」というのは漠然と判るのですが、「ここが痛い」というような明確な認知覚を得にくい部位となります。



以上のことから、非常に見逃され易い部位となっております。




更に厄介なことに、仙腸関節ストレッチなども有るには有るのですが、痛みが出てしまっている状態だと、ほぼ効果はありません。振動を与えたり、上から叩いたりしても全く解決しません。なぜなら仙腸関節は構造上、動きのほとんど無い半関節構造のため、いくら体を伸ばしたり振動を与えたところで、痛みを出している多裂筋や靭帯には何の影響も及ぼさないのです。




鍼治療では、直接障害部位にアプローチ出来るので非常に効果的です。
ですが、刺鍼の方法や角度が非常に特殊で難易度も比較的高いため、それなりの経験が必要となります。




刺鍼時の姿位は腰仙関節の時と同じ姿位をとります。刺入点は第五腰椎棘突起の正中から外側に2~3センチのところから、外下方45度、床面に対して45度の角度で刺入していきます。途中で固いものに当たったら、それは上後腸骨棘という骨の出っ張りなので、一度少し引き上げてから更に角度を微調整して、更に刺入していきます。
グミや消しゴムの様な高弾力の所に当たれば、そこが障害されている多裂筋や靭帯になります。その時、患者は独特な響きを感じ、「まさしくそこだ!」というような認知覚を得られると思います。




また、仙腸関節部が障害されている場合は、腰仙関節も高い割合で障害されているので、同時に治療すると、より効果的になります。

眼瞼痙攣症例集2

2013年01月09日 | 眼瞼痙攣
-症例1-

31才 男性
約6年前、気が付いたら眼が勝手に閉じるようになる。眩しさも強く感じるようになる。都内の眼科病院にて眼瞼痙攣と診断され、12~14週に一度ボトックス注射を受ける。また、大学病院にて、神経伝達速度の検査時にシャルコーマリートゥース病も見つかる。
眼瞼痙攣発症後、鬱状態となり精神科を受診し、抗うつ剤のアモキサンを処方され、二年間服用している。
さらに、慢性疲労症候群も発症しており、座っているのもつらく、ずっと横になっていたいという状態が続く時もある。
その他には、頸と肩、背中の凝り感が非常に強く、「じっとしているのも苦しい」状態。
インターネットで当院を知る事となり、来院する。

鍼治療を開始した当初は、眼科病院の院長に、「眼瞼痙攣は治らない病気だ」と説明されていることもあり、鍼灸治療に対しても、やや懐疑的になっているような印象を受けました。

鍼治療は、週一回のペースでおこなう。三叉神経第1枝領域の低周波鍼通電をおこない、頸肩、背中の筋硬結、自律神経の安定を図る目的で夾脊穴に刺鍼、慢性疲労症候群の治療では、椎骨動脈の血流改善と頸部交感神経の抑制を目的に胸鎖乳突筋、斜角筋に刺鍼をおこなう。

-経過-

3週間を経過。眩しさがやや減弱してきた。
1ヶ月半経過。眩しさは殆ど気にならなくなる。頸や肩の凝り感は残るものの、以前ほどつらくはない。
2ヶ月経過。ボトックス14週目。ボトックスの効果は薄れてきている頃だが、眼瞼痙攣の症状は以前ほどつらくない。ただ、顔をしかめてしまうため、眉間に凝りを感じる。
3ヶ月経過。数日前ボトックス注射を受ける。今までで一番効果が良いように感じる。
5ヶ月経過。ボトックスが効いている間は、眼瞼痙攣の症状は殆ど気にならないようになる。アモキサンの服用を中止する。
7ヶ月経過。アモキサンの服用を中止してしばらくの間は、リバウンドのためか、倦怠感や鬱状態、眼瞼痙攣の症状が悪化したが、その後安定する。
7ヶ月経過。ボトックスの効果が切れている頃でも、瞼が重くなる程度。ボトックス注射を受ける。
10ヶ月経過。ボトックスの効果は切れてきている頃だが、症状は殆ど気にならない。日によって倦怠感を感じたり、気分が落ち込んだりするものの、以前よりは軽い。
12ヶ月経過。眼瞼痙攣の症状は、たまに瞼が重く感じることはあるものの、概ね調子良い。ボトックスは打たずに、様子を見てみることに。
15ヶ月経過。この頃より、瞼の重さを感じることは殆どなくなる。たまに倦怠感を感じる。気分は安定している。
18か月経過。眼瞼痙攣の症状が消失して三ヶ月ほど経つ。たまに倦怠感を感じるものの、眼瞼痙攣は寛解したので、鍼治療はここで終了とする。


-症例2無効例-

45才 男性

約3年前から左下瞼がピクピクと痙攣し始め、徐々に左瞼がギューっと閉じてしまうようになる。その後、左眼につられて右眼も閉じてしまうようになる。その他に羞明感、ドライアイ。
16週に一度程度、都内眼科病院にてボトックス注射を受ける。
症状は、左右では左眼の方が強く、朝よりも午後、夕方にかけて強くなる。休日には比較的軽い。人と対面している時は強くなるが、会議などで大勢の前でプレゼンや発表している時などには症状は出にくい。

身体所見:筋肉質で体格が良い。筋肉は非常に柔軟で硬結は殆ど見当たらない。肩こりなどの自覚は殆どない。

鍼治療では、三叉神経第1枝領域の低周波鍼通電をおこない、天柱、肩井や背部夾脊穴などに刺鍼。しかし硬結が無いため、どこに刺しても手ごたえの様なものが感じられなかった。
治療直後は症状が軽減するものの、数時間すると元にもどってしまう。
6回ほど治療したものの、治療効果が持続することは無かった。

本症例のように、筋緊張を殆ど伴わない眼瞼痙攣は非常に珍しいのですが、筋緊張(硬結)が無いという事は、鍼治療において治療するべきポイントがそもそも無いということになってしまうせいか、治療効果を上げることが難しいように感じた例でした。

咽喉頭異常感症

2012年07月31日 | 咽喉頭異常感症
-咽喉頭異常感症(ヒステリー球)について-


咽喉頭異常感症とは、咽喉頭部に異常感を訴えるが、訴えに見合うような器質的病変を局所に認めないものをいう。具体的な訴えとしては「のどに物がひっかかった感じ」、「のどに物が詰まった感じ」が多い。
上咽頭・扁桃・副鼻腔の慢性炎症、自律神経失調、貧血、内分泌異常、薬の副作用、心身症、癌不安、神経質などが原因と思われることが多い。
初期の下咽頭癌、食道癌で咽喉頭異常感症が唯一の症状のことがあるので、診断にあたって十分な注意をようする。(南山堂医学大辞典より)

とあります。

東洋医学では「梅核気」と呼ばれるものが、これにあたります。


当ブログでは、当院でおこなっている咽喉頭異常感症の実際の治療方法や、症例(有効例と無効例)を紹介していきたいと思います。



-咽喉頭異常感症の鍼治療について-


平成21年の開業から平成24年7月現在までに、20人の咽喉頭異常感症の患者さんの治療をしてきました。開業前や、中国留学中の症例を合わせると、おそらく60症例くらいにはなると思います。
症例数をこなすごとに、治療法も改良し、現在では有効率もかなり高くなってきましたが、それでも若干の無効例もありましたので、それらの症例はのちほどご紹介していきます。



-臨床にあたり、実際感じた具体的な症状や特徴-


・女性の方が、男性よりも多い。

・症状は、「のどがごろごろする」「のどが詰まる」「のどの締め付け感」「指で触られているような感じ」「のどがひっつく感じ」など。発現箇所は咽喉頭部が一番多いが、咽喉頭部から胸部までのほぼ正中線上の範囲で出現する。

・改善因子は臥位、食事(嚥下)、精神リラックス時など。増悪因子は立位、起座位、精神緊張時など。これらの事からも、自律神経の関与が強いことが分かる。改善因子では副交感神経(迷走神経)が、増悪因子では交感神経がそれぞれ優位になる。

・そのほかに慢性的な疲労感、頚肩のコリ感や動悸、不安感等を訴えることもある。




-鍼治療でのポイント-



①症状が出ている部位の真後ろにあたる夾脊穴・・・脊椎棘突起の直側、脊柱起立筋や多裂筋、回旋筋など。夾脊穴には、その高位の交感神経の興奮を抑制する作用がある。

②胸鎖乳突筋、肩甲挙筋、斜角筋など。

以上の部位の治療で改善することが多いが、症状が頑固に残る場合は以下の部位も加える。

③局所の筋群・・・胸鎖乳突筋胸骨頭(特に胸骨に付着する付近)、舌骨体に起始停止する筋群(肩甲舌骨筋、胸骨舌骨筋など)

④眼窩鍼・・・睛明穴や眼窩上跡痕などから2~3センチほど深刺して置鍼。以前、飛蚊症の治療でこの部位に刺鍼していたところ、偶然に咽喉頭異常感症も治ってしまったことがある。以後何例かに追試してみたが、やはり同様の効果が認められた。なぜ効果が得られるのかは不明だが、おそらく三叉神経の第一枝の刺激により、アシュネル反射と同様の反射が起こり、迷走神経(副交感神経)が優位になるのではないかと推測される。




-症例1 40代女性-


約4年前よりのどに違和感を感じるようになる。職場のストレスや、精神的に緊張している時などに症状が強くなる。食事時や休みの日などでは症状が軽減、全く気にならない時もある。
そのほかに慢性的な疲労感、動悸、気分の落ち込みなどを訴える。

本症例は、咽喉頭異常感症の典型的な症例でる。症状の程度に波があり、リラックスしている時には症状が気にならないというようであれば、比較的治癒しやすい(症状が固定しているような場合は治療に抵抗する場合が多い)。
①と②の治療点をメインに4回治療をおこなったところ、随伴症状とともに主訴も消失した。


-症例2 30代女性-

約2年前より、のどに違和感を感じるようになり、その後、違和感が胸部(両乳頭を結ぶ正中上、膻中穴に相当する部位)にも現れるようになる。睡眠の状態が良いと、翌日は一日症状は軽い。ストレスを感じたり、睡眠不足だと症状は強く現れる。

肩背部の緊張が非常に強く、第五胸椎以上の夾脊穴全てに刺鍼し、浅層の菱形筋や僧帽筋などの緊張も全て緩める様な治療をおこなった。胸部の違和感に関しては、第4、第5胸椎レベルの夾脊穴が奏功した。
①と②を中心に治療をおこない、頚部から肩背部の筋緊張、特に脊椎棘突起の直側の緊張を緩和させることで、睡眠の質もよくなり、10回ほどの治療で症状が消失した。



-症例3 50代女性-

約10年前、大変なストレスがあり、それ以来のどに違和感を覚えるようになる。
食事の時は、少し違和感は軽減するが、基本的に消えることはない。近医にてデパスや半夏厚朴湯を処方されるが、症状は変わらない。

①②の治療点だけでは、やや改善はみられるものの、またすぐ戻ってしまう。①~③全て治療し、15回の治療(最初の4回は週2回、あとは週1回のペース)でようやく症状が消失した。

本症例のように、症状にさしたる波が無く、固定している場合は、症状が改善するまで時間がかかる傾向がある。



-無効例-


・50代男性。1年前よりのどに違和感を覚える。「のどがひっつく感じがして、苦しい」感じ。違和感の程度は非常に強そうに見受けられる。食事の時は少し軽減するが、基本的に違和感は常に感じる。
①②の治療では全く改善が見られない。③の治療では、治療している瞬間だけ違和感はやや軽減するが、治療後すぐに戻ってしまう。
結局5回治療をおこなうが、効果はほとんど見られなかった。

本症例の様に、違和感が非常に強く、症状が固定している例では、鍼治療での改善が難しい場合が多い。


・20代女性。約1年前まえよりのどの違和感(狭窄感)を覚える。近医で検査すると、実際に狭窄している所見が見られたとのこと。

本症例でも、①~③の治療を4回ほどおこなったが、症状に改善がみられなかった。
このように、実際にのどの狭窄が認められる症例は1例しか経験が無いが、このような場合にも①~③の治療は無効であった。

眼瞼下垂の鍼治療

2012年04月16日 | 眼瞼下垂
当院でおこなっている眼瞼下垂に対する治療方法、症例等をご紹介していきます。


-眼瞼下垂とは-

眼瞼下垂が起こる原因は様々です。
まぶたを持ち上げる眼瞼挙筋やその筋肉を動かす動眼神経という神経の働きが悪い、まぶたの皮膚がたるんでかぶさっている、病気やケガなどで眼球が小さくなったり陥没したりしている、などの状態が眼瞼下垂を引き起こします。
生まれつきの先天性眼瞼下垂には、眼瞼挙筋の働きが弱いもの、眼瞼挙筋を働かせる神経に異常があるもの、まぶたの形に問題のあるものなどがありますが、最も多いのは筋肉の働きが弱いものです。
それ以外の後天性眼瞼下垂では、挙筋腱膜がのびてしまい眼瞼挙筋が瞼板から離れてしまうものやまぶたの皮膚がたるんでものが多いと言われています。
コンタクトレンズを長期間使用している方、まぶたをよくこする方、目やその周りのケガ、手術をした方などに起こることもあります。
他の病気に関係したものでは、顔の筋肉を動かす神経が働かなくなった顔面神経麻痺や眼球を動かす神経が働かない動眼神経麻痺、筋肉が疲れやすく弱くなってしまう重症筋無力症、骨折による眼球陥没、眼球が小さくなる病気によるものなどがあります。

▼ 眼瞼下垂の診断
リラックスした状態で正面を見た時に、黒目の中心からまぶたの縁までが2mm以上近づいていれば眼瞼下垂の疑いがあります。
眉毛の上を押さえて動かないようにしてから目が開けるかどうかでも判断できますが、眉間にシワを寄せたままで目を開けてみるやり方でも構いません。
他の病気が無いかどうかも同時に調べますが、物が二重に見えたり、筋肉が疲れやすかったりする場合は、他の神経や筋肉の病気がある可能性があります。
特に重症筋無力症の診断のための検査がいくつかあります。血液検査の他に、注射薬や目薬で筋力が回復するかどうかをみたり、筋肉の働きを電気的に調べる筋電図を取ったりしますが、重症筋無力症は2万人に1人くらいの稀な病気です。



-治療法-


まず、患者を座位にさせ、患側の胃経のツボ、胃ユ、内庭、陥谷等の圧痛の有無を診る。圧痛が認められると同時に、眼裂の拡大が認められるものは、非常に治療効果が出やすい。
ただ、高度な腱膜性眼瞼下垂症(老人性眼瞼下垂症)では、この反応が現れにくく、鍼治療の効果も劣る。

治療部位は、眼輪筋部(眉毛の下縁に沿って3センチほど水平に刺入)、睛明穴(眼窩に3センチほど刺入)。この2か所が最も重要な部位で、そのほかに太陽や陽白、和髎などの眼の周りのツボを使ったりします。
以前は胃経の胃ユ、内庭、陥谷や大腸経の合谷なども使っていましたが、治療効果にあまり違いが見られなかったので、今ではほとんど使用していません。
ただ、以前経験した20代男性の眼瞼下垂の症例で、もともと胃弱で、胃の具合が悪くなると余計に瞼が重くなるという方がいました。この様な症例の場合は、胃の調子を整えることが重要になるため胃ユ、内庭なども使います。

20代~40代で、朝は比較的調子がよく、午後から夕方にかけて瞼が重くなるというような方で、重症筋無力症やホルネル症候群などの疾患でない限りは、高い治療効果が期待できますが、50代半ば以上の腱膜性眼瞼下垂症の場合は、全く効果が出ない場合もあります。

以前経験した珍しい症例では(40代女性)、都内の某美容形成外科で、おでこのシワ取りのためボトックス注射を打ったら、眼瞼下垂になってしまったという方を治療したことがありました。
数日前に注射を打ったばかりで眼裂が2ミリ程しかなく、ボトックスの効果が切れるまでは3カ月ほどかかるとのことでした。
この方は、三か月も待ってられないということで、藁をもすがる気持ちでインターネットで調べ、当院に来院されました。
ボトックスで眼輪筋が麻痺しているので、効果は期待できないということを伝え、とりあえず一回治療してみましょうということになりました。
びっくりしたことに、足にある陥谷というツボを圧してみると、眼裂が4ミリ程に拡大しました。
このような反応が出れば、治療効果も期待できそうなので、続けて眼輪筋部と睛明穴(眼窩部)、陥谷を中心に治療したところ、さらに眼裂の開大が認められました。
結局、2週間のあいだに10回の治療をおこない、ほぼ9割がた回復しました。




眼瞼痙攣の鍼治療

2012年04月04日 | 眼瞼痙攣
いままでに眼瞼痙攣患者を治療してきた経験から、特に有効だった治療点や手法、さらに印象深かった症例、思うように効果が上がらず途中で脱落してしまった症例などを紹介していきます。


-眼瞼痙攣とは-

眼瞼痙攣は、左右両方のまぶた周辺に同時に症状が出現する進行性の病気で、いったん発症すると自然治癒することは極めて困難である。通常、眼瞼痙攣の発症は左右両眼対称性だが、多少の左右さが出ることもある。

初期症状は、まばたきが増えたり、眩しさを感じたりする違和感から始まり、次第にまばたき回数の増加、明るいところでのでの異常な眩しさ感が強くなり、突発的にまぶたがギュッと閉じてしまう現象が現れ、しばしのあいだ、眼を開けることができなくなる。

病気が進行すると、両側の眼輪筋が自分の意志とは無関係に不随意に瞼を閉じてしまう現象が繰り返し起こり、ものを見るためには強引に指で瞼を持ちあげなければならなくなることもある。

多くの場合、次第に痙攣回数が増加し、仕事や日常性買活に大きな支障をきたすようになる。

眼瞼痙攣の具体的症状

羞明感(眩しい感じ)・・・95%
眼が閉じる・・・92%
眼の乾燥・・・51%
眼の違和感・・・41%
瞬き増加・・・26%
開眼困難(指で瞼をむりやり開ける)・・・16%

眼瞼痙攣の原因

眼瞼痙攣の明確な原因は不明であるものの、最も有力な説としては「大脳基底核の異常」が原因ではないかと指摘されている。

顔の筋肉は眼輪筋を含めて全て脳から出る顔面神経の制御下にある。大脳基底核異常説によれば、本態性眼瞼痙攣は「局所性ジストニア」と呼ばれる病気の一つであり、大脳基底核を中心とする運動抑制システムの機能障害によって引き起こされるとされている。

眼瞼痙攣と似ている疾患

片側顔面痙攣、ドライアイ、眼部ミオキミア、眼部チックといった疾患と間違えやすいので、しっかりとした鑑別が必要である。



ここでは、眼瞼痙攣に対して実際おこなっている治療法を紹介していきます。
適応となるのはあくまで本態性の眼瞼痙攣であり、薬剤性のものは不適応となります。
また、ほとんど効果が上がらなかった症例もいくつかあり、それらには、それぞれ共通した特徴がみられるものもありました。それら無効例はのちほど紹介していくことにします。

特に重要と思われる治療部位

・天柱の硬結(首の付け根。後頭骨下縁~第2頸椎の高さのコリ。半棘筋、大・小後頭直筋など)
・肩井の硬結(肩甲挙筋、僧帽筋)
・肩外兪の硬結(特に肩甲挙筋の肩甲骨内上角付着部の硬結)
・胸鎖乳突筋

以上のポイントの筋緊張は、ほとんどの眼瞼痙攣患者に認められるが、特に天柱の硬結の大きさや硬さは、症状の強さに相関しているように思う。眼瞼痙攣の症状にはしばしば左右差が認められるが、右眼の痙攣が強い場合は右天柱が、左眼の場合は左天柱のコリの度合いが強い。また、肩井や肩外兪の硬結は、トリガーポイント理論や経筋理論により、肩~後頸部~側頭部~顔面部・瞼の筋緊張をもたらすことが知られているが、この部位を治療することにより、この一連の筋緊張の緩和が得られる。
このことは、顔面部の筋緊張が眼瞼痙攣の症状を増悪させる悪循環の抑制につながる。
また、胸鎖乳突筋の筋緊張を合わせて治療することにより、頸部交感神経の緊張を抑制することが非常に重要となる。
眼瞼痙攣患者の多くは、過度のストレス環境に長期間さらされた後、発症に至るケースがほとんどであり、胸鎖乳突筋をはじめとする上記の筋肉は、赤筋繊維の豊富な姿勢維持筋で、交感神経が特に豊富な筋群である。
ストレスに長期間さらせれ、交感神経の緊張を強いられたこれらの筋肉は非常に硬くなっており、それが嫌悪刺激となり痙攣を誘発する。

・三叉神経第1枝領域(眼神経)

印堂、陽白、上星など三叉神経第1枝領域のツボに低周波鍼通電(置鍼のみでは効果は低い)をおこなう。
この領域を刺激すると、脳幹の抑制性介在性ニューロンが関与する「exteroceptive suppression」が起こり、三叉神経運動枝支配の咀嚼筋群や顔面神経支配の眼輪筋、副神経支配の胸鎖乳突筋の筋収縮抑制現象がみられる。

また、以前、眼の疾患の治療で睛明穴に刺鍼していたところ、その患者から「喉の異物感が無くなった」と言われたことがあった。
それまで知らされていなかったのだが、この患者は咽喉頭異常感症を二年ほど患っており、漢方薬などを試したが一向に良くならずに諦めていたとのことだった。
ではなぜ、睛明穴の刺鍼で咽喉頭異常感症が治ったのだろうか。
睛明穴は三叉神経第1枝領域であり、この刺激によりアシュネル反射が起きたのではないかと考えられる。
アシュネル反射とは、閉眼時の眼球圧迫で心拍数が低下するというものである。
これは、三叉神経第1枝の刺激が延髄に入り、迷走神経を興奮させることにより起こるとされる。
咽喉頭異常感症では、精神緊張、立位時など交感神経が優位の時に増悪し、臥位、精神リラックス時、嚥下の瞬間など副交感神経が優位の時に緩和することから、アシュネル反射で引き起こされた迷走神経の興奮が、咽喉頭や頸部の交感神経を抑制し、症状を緩和させるのではないかと考えられる。
上記反射を利用して迷走神経活動の活性化をはかることは、自律神経活動の安定化につながり、眼瞼痙攣の症状の改善にもつながるのではないかと考えられる。

また、この領域に刺鍼すると、瞬間的にパッと眼が開きやすくなることがある。これは痛覚刺激により交感神経が緊張し、ミュラー筋が一時的に収縮しておこる開瞼であったり、知覚トリックによる瞬間的な開瞼と考えられるので、治療効果には結びつかないものと思われる。


・頭皮針(要針通電)

私が中国での留学中に師事していた、天津中医薬大学第一付属病院の廉先生は、眼瞼痙攣患者に対し、必ず頭皮針を用いていた。
頭皮針とは、中国で広く用いられる針法で、大脳皮質機能局在に相応する頭皮上の特定の区域を刺鍼するもので、とりわけジストニーやパーキンソン病など中枢神経系疾患に多く用いられる。
しかし頭蓋上に針通電刺激をおこなっても、その刺激は頭蓋骨に阻まれるため、直接的に大脳皮質機能局在に作用を及ぼすとは考えられないが、私自身は廉先生の頭皮鍼療法で、多くの患者が改善に向かうのを目の当たりにしており、頭皮鍼には一定の効果があると思っている。
私が考えるに、中枢神経系疾患に対して用いる頭皮針区域は、おもに眼窩上神経や滑車上神経の領域であり、これらの神経は三叉神経第一枝の分枝である。なので結局は三叉神経を刺激していることになる。
このことからも、三叉神経刺激は、中枢に何らかの影響を及ぼし、眼瞼痙攣に対しても好影響を与えるのではないかと考えている。



以上が、眼瞼痙攣を治療するうえでの重要ポイントです。


また、治療当初はボトックス注射との併用が望ましく、ボトックス注射が不要になるまでは、症状の重さにもよりますが、週一回の治療で早くて3カ月程度、平均は大体6ヵ月程度です。
ボトックスが不要になれば、完全治癒までの道のりは近いといえます。



眼瞼痙攣に対する治療成績


H21年5月~H25年1月現在の治療成績(H21年以前の開業前の症例については、手元に資料が無いため統計不可)

寛解(症状消失)・・・18例

脱落・・・7例(眼瞼痙攣症例無効例参照)

治療中・・・7例(うち2例はボトックス注射から離脱)




眼瞼痙攣の症例集

2012年04月04日 | 眼瞼痙攣
ここでは、眼瞼痙攣の症例をいくつか紹介していきます。
後半では、無効だった症例も紹介していきます。




-症例1 眼輪筋切除術を受けた60代女性の例-


この方は、3年ほど前から眼瞼痙攣が発症し、徐々に口元まで痙攣が拡大。1年ほど前に某県の大学病院にて眼輪筋切除術を受ける。その後、都内の大学病院にて12週に一度程度、ボトックス注射を受ける。リボトリールを服用。

おもな症状は以下の通り。


・瞼の痙攣は、パチパチ頻回におこるものと、ギューッと閉じてしまうものとの混合タイプ。

・とにかく眩しく、パソコン画面を見ることもできない。
・歩行時に瞼が閉じてしまい、よく人や物にぶつかる。
・瞼を頑張って開けようとすると、口が「パカッと」開く。
・口元がワナワナとふるえている。

このほかに頸から肩、背中にかけて「鉄板が入っている様よう」なコリ感がある。
治療は基本的に一週間に一度の間隔でおこなう。
初診時はボトックス注射を受けて6週目。

第1診
 身体はやせ形で、頸から肩にかけて筋肉が非常に緊張している。鍼治療は以前にも受けたことがあり、その時受けた低周波鍼通電は、終わってから身体がふらふらしてしまったので、あまり受けたくないとのこと。
非常に神経質そうな印象を受けた。おそらく鍼刺激にとても敏感なのだと思い、刺激量に気をつけながら、頸から背中のコリを治療し、今回は低周波鍼通電に抵抗があるとのことで、三叉神経の低周波はおこなわなかった。

第2診
 前回治療後は頸や肩のコリ感は少し軽減する。痙攣頻度は変わらず。治療は前回と同様。

第3診
 鍼治療後に気分が悪くなるようなこともなく、コリ感の緩和の実感も得られることから、治療に対する安心感のようなものがうかがえたので、三叉神経の低周波鍼通電の治療を追加することを提案する。上額部にかすかに感じる程度で1ヘルツの通電を追加する。

第5診
 頸肩のコリ感は緩和してきたが、ボットクス注射を受けてから12週経過しているので、だいぶ痙攣の症状がきつくなってきた。
しかし眩しさはかなり軽減してきている。
今までは眩しさのため、パソコン画面を見るのが苦痛だったが、今はそれほど苦にならなくなった。

また、ボトックスの効果が切れてくると、気分がものすごく沈み、大変憂鬱になるとのこと。
近日中にボトックス注射の予定。
治療は同上。

第8診
 今回のボトックス注射はかなり効いているとのこと(3週目)。眩しさはほとんど気にならない。
鍼の治療効果として、まず眩しさの緩和が現れることが多く、次いでボトックスの効き目がよくなることが多い。

第11診
 ボトックス注射から6週目。初診時も同じく6週目だったが、痙攣の症状は明らかに軽減しており、パチパチとじるのはほとんど消失したが、ギューっとつむってしまうのはまだ起きる。
電車にて通院しているが、電車内からホームにある駅名の看板やプレートをみることが出来なかったため、車内アナウンスを聞き逃すと乗り過ごしたりしていたが、看板やプレートを見ることができるようになっていた。
リボトリールの服用を中断したとのこと。

第15診
 リボトリールの服用を中断してから気分が沈みがちになる。それに伴い痙攣の症状も悪化。気分障害はリボトリールのリバウンドによるものと考えられる。

第18診
 リボトリールのリバウンドによる気分障害は消失する。気分はとても良いとのこと。ボットックス注射を受けてから13週が経過するが、痙攣の症状はほとんど気にならないとのこと。

第20診
 非常に調子がよい。治療は2週間に一回にする

第23診
 瞼、口元の症状はほぼ消失。

その後2回程治療をおこない、症状が認められなくなったので、治療を終了した。
本症例は、約8カ月の治療期間で緩解に至った症例である。
眼輪筋切除術を受けたが症状のつらさ自体はそれほど変わらず、むしろボトックスの効果が切れてくると、上下瞼の開閉のバランスがさらに悪くなり、物が余計見えにくくなると仰っていた(特に手元など下を見るとき)。
さらに、痙攣を抑えるために処方されていたリボトリールから離脱する時には、リバウンドで大変苦しまれていた様子だったが、ここを乗り越えたら一気に緩解へと向かった。



-症例2 30代女性 自律神経失調症を伴う症例-

3年前、クリニックにて自律神経失調症の診断を受ける。
症状はめまい、動悸、息切れ。
当院の初診時には、症状は発症時より悪化しているとのこと。

2年前、神経眼科にて眼瞼痙攣の診断を受ける。左頬にも痙攣が認められる。12週に1度、ボトックス注射を受ける。

 眼瞼痙攣の症状は以下の通り。
・瞼がギューっと閉じてしまう。
・左頬の痙攣。
・ドライアイ。
・眩しさはそれほど気にならない。

鍼治療は、途中間隔が空くこともあったが、基本的に1週間に1度の間隔でおこなった。


第1診

現在はボトックス注射を受けてから4週目なので比較的楽だが、精神的ストレスを受けると痙攣の症状が強くでる。
首が痛くてうまく眠れないという症状も訴えていた。
手足が非常に冷たく、べっとりと汗をかいている。
頸部の筋肉は非常に緊張している。
肩甲間部(特に五番胸椎以上)の立毛筋反射がみられる。

以上のことから交感神経の過緊張がうかがえた。

治療は、まず頸部筋の緊張や肩背部の筋肉の緊張を緩め、自律神経の安定を図った。
三叉神経の鍼通電は、感じが少し苦手とのことで、すぐに中止し、しばらくの間は見合わせることにした。

第5診

ボトックス注射を受けてから9週目。
ここまでは週一度の治療をおこなう。
首や肩が楽になってきた。夜も眠れるようになる。肩甲間部、特に五番胸椎直側の筋肉の状態が柔らかくなってきた。それに伴い動悸や息切れの症状にも改善がみられた。
痙攣の症状も軽くなってきているとのこと。

第6診

ボトックス注射から11週目。
首肩や自律神経の症状は安定している。
痙攣はまだでるものの、今のところはまだ比較的楽とのこと。

第9診

ボトックス注射から15週目。
ボトックスの効果が切れてきて、痙攣の症状はやや悪化するものの、以前ほどのつらさではないので、少しのあいだボトックスなしで頑張ってみるとのこと。

第12診

首肩、自律神経の症状はほとんど気にならなくなる。
痙攣は、ボトックスなしでも生活できるレベルではあるが、消失することはない。
三叉神経領域の低周波鍼通電を加えるよう説得し、了承を得たので今回より追加する。

第13診

鍼通電が功を奏したのか前回の治療後から、痙攣の頻度が軽減したとのこと。

第15診

ほとんど痙攣が気にならなくなる。
この後、さらにもう一回治療をおこない、痙攣の症状が認められなくなったので治療を終了した。


本症例では、首や肩の凝りの治療や、交感神経の緊張を抑制する治療で、痙攣症状は軽減するが、最後は三叉神経刺激が決め手となったように思う。
三叉神経の鍼通電の重要性を再認識させられた症例であった。



―症例3 40代女性 発症から比較的早期に治療を開始した症例―


本症例は、眼瞼痙攣の診断を受けてから約1カ月で鍼治療を開始した症例である。

夫の転勤に伴い他県から都内に移ってきて、新しい生活環境や、新しい職場になじめず、大変なストレスを感じているとのこと。
しばらくして左眼にごろごろとする違物感と羞明感を覚える。ほどなくして左眼が不随意に閉じるようになり、大学病院の眼科にて眼瞼痙攣の診断を受ける。
同病院にて、左上瞼のみボトックス注射を受けるが、その直後から、右眼瞼にも痙攣がおこるようになる。
その後、右瞼にもボトックスを受ける。

1週間に一度のペースで鍼治療をおこなう。

眼瞼痙攣の症状は以下の通り。

・ボトックス注射を受けるまでは、左眼のみに症状が出ていたが、今は両側性で左右差は無い。
・眩しい。パソコン画面やテレビモニター、さらに携帯画面も眩しく感じる。
・瞼が閉じてしまう。特に精神的ストレスを受けた時や、歩行時などは顕著に現れる。
・頸の付け根(天柱穴)のコリ感が強い時に症状が強くなる。


第1診

左天柱に非常に硬い硬結が認められる。

治療点は印堂と上星(それぞれ三叉神経第1枝)、左天柱、左の肩甲挙筋と胸鎖乳突筋にそれぞれ低周波鍼通電をおこなう。

治療後、瞼を開けるのが非常に楽になったとのこと。

上記の治療を第8診までおこなった。ボトックス注射の効果もほとんど切れていた頃だったが、この時点で痙攣の症状はまったく認められなくなった。
天柱の硬結は、だいぶ小さくやわらかくなり、コリ感を覚えることもなくなったが、また、もとのような状態になると症状が再発する可能性もあるので、自分でストレッチやマッサージなどを、こまめにおこなうように指導し、治療を終了した。

本症例では、8回(2か月程度)の治療で緩解に至った例であり、今まで経験した中で、治療期間が最も短いものであった。
その後、発症して2カ月の患者を治療する機会があったが、その症例も週1回で、12回程度の治療で緩解に至った。
いずれも発症から間もなく治療を開始できた症例であり、罹患期間が短いほど緩解までの期間が短かくなる可能性が示唆される。




-症例4 40代男性-

3年ほど前から眼の乾燥感が強くなり、眼がしばしばするようになる。その後、羞明感を覚えるようになってから、瞬目回数に増加がみられるようになる。眼科を受診したところ、ドライアイの診断を受ける。
その後、症状が改善せず、そのうち瞼が不随意にギューっと閉じるようになり、都内の眼科病院を受診したところ眼瞼痙攣の診断を受ける。
同病院にて12週に1度、ボトックス注射を受ける。


眼瞼痙攣のおもな症状は以下の通り。

・眼の乾燥感。
・羞明感。
・歩行時、会議中、精神緊張時に特に眼が閉じてしまう。
・頚がこって痛くなると痙攣が出やすくなる。

治療は1週間に1度の割合でおこなった。



第1診

 左右の天柱に非常に硬い硬結を認め、さらに肩甲骨内上角の肩甲挙筋付着部にも硬結を認める。いつもその部位がつらくなるという。また左右の胸鎖乳突筋と斜角筋も筋肉全体が硬結化している。
普段、眠りが浅く、いつも頭がぼーっとしていてなかなか集中できず、常に疲労感を覚えるという。これらの症状は頚筋の緊張により、頸部交感神経の緊張が引き起こす、椎骨動脈の循環障害による慢性疲労症候群による症状と思われる。

治療は、上記の緊張している筋肉と、印堂と上星にそれぞれ低周波鍼通電をおこなう。

第3診

 首肩のコリ感はやや改善するが、痙攣症状に変化はみられない。

第5診

 首肩のコリ感は回を追うごとに改善している。眼の乾燥感と眩しさも少し和らいできた。慢性疲労の症状も以前に比べれば改善傾向にあるとのこと。痙攣症状には、明確な変化は認められない。

第8診

 眼の乾燥感と眩しさは、ほとんど気にならなくなった。瞼の痙攣は徐々に楽になってきた。疲労感は8割がた改善してきたとのこと。先日ボトックス注射を受ける。

第10診
 
 天柱の硬結は、初診時にくらべ柔らかくなり、大きさもソラマメ大から小豆大になる。それにしたがい痙攣の頻度にも低下がみられる。
ボトックス注射の効き目は、以前に比べるとはるかに良く効いているとのこと。

第16診

 コリ感、疲労感はほとんど気にならないが、痙攣症状は横ばい状態。

第19診
 
 ボトックス注射から12週が経過して、効果はだいぶ切れてきているころだが、前回の同じ週数の時よりも楽にすごせる。しかし、まだボトックス注射は必要とのこと。

第21診

 ボトックス注射が非常によく効いているので、日常生活ではまったく支障は無いが、痙攣はいまだ消失していない。
再度、頚部の筋肉を細かく触診すると、斜角筋と胸鎖乳突筋の胸骨頭部の筋緊張が、治療しているにもかかわらず、改善しきれていなかった。筋筋膜連鎖の影響を考慮して上腕二頭筋と小胸筋部などを触診すると、著名な圧痛と筋緊張が認められたので、これらの筋も合わせて治療する。

第22診

 斜角筋と胸鎖乳突筋の弛緩が認められた。痙攣症状にも改善がみられた。

第26診
 
 痙攣はほとんど気にならなくなる。

第33診

 ボトックス注射を受けてから13週が経過。痙攣はほとんど気にならない。

この後、3回治療をおこなったが、その間痙攣症状が認められなかったので、治療を終了した。


本症例は、斜角筋と胸鎖乳突筋部の筋緊張が残存していたため、治療に抵抗し、なかなか症状の消失をみなかった例である。





ここでは、効果が認められず、鍼治療を中止した例を紹介します。

-60代女性-

・眼瞼痙攣発症から約2年半。
・右目の方が痙攣の症状が強い。
・室内では比較的楽に過ごせる。
・ドライアイ
・眩しさが非常に強い。
・屋外だとほとんど眼を開けていられない。

-50代女性-

・眼瞼痙攣発症から約2年。
・左目の方が症状が強い。
・室内では症状は全く現れない。
・眼の異物感。
・口元にも不随意運動が認められる。
・眩しさが非常に強い。


以上の2例はいずれも10回程度、鍼治療を施したが効果が認められなかった。
また、両名とも以前にボトックス注射を受けたことがあるが、かえってつらさが増したとのことであった。
結局、眩しさがつらいのもさることながら、視覚にものが入り込むこと自体が刺激になり、眼をとじたいのに閉じることが出来ないので、非常につらかったと、それぞれ仰られていた。

多くの眼瞼痙攣患者は、そのままの状態では生活に支障をきたすため、ボトックス注射を受けて症状の軽減をはかるのが一般的である。また、そのような方々に鍼治療をおこない、症状の改善がみられることを多く経験してきた。
しかし、上記の2例のように、ボトックス注射をすると、逆につらくなるというのは、鍼治療の適不適の一つの鑑別ポイントになるのかもしれない。


-40代 男性-

・眼瞼痙攣発症から約10年。
・最初は左眼が開けづらくなり、次第に両側まぶたがギューっと閉じるようになる。
・右眼を閉じる時に、右口角が連動して上がる病的協調運動が認められる。
・都内眼科病院にてボトックス注射を数回受けるが、効果は2週間ほどで切れてしまう。現在はボトックス注射は受けていない。

また、過去に10年ほど抗鬱薬の服用歴がある。現在もパニック障害の症状がでることがある。本症例の眼瞼痙攣は、薬剤性のものかどうかは不明。

本症例は、置鍼中に身動きが取れないためにパニック発作が起きてしまい、治療を断念した例である。


そのほかに、妊娠中の30代女性の眼瞼痙攣患者が2名、来院した。いずれも妊娠前より眼瞼痙攣を発症していたが、つわりが始まってから一気に症状が悪化した。病院の方針で2名ともボトックス注射を受けることが出来ず、非常に苦しんでおられた。鍼治療をそれぞれ数回試みるも、治療効果が認められず中止した例である。






異臭症の鍼治療

2012年04月04日 | 異臭症
異臭症は、頭部の外傷や風邪などにより嗅上皮に炎症が起こり、嗅細胞や嗅神経に問題が生じて起こるといわれていますが、原因はいまだに不明のようです。
症状としては、「焦げたにおい」や「ガソリンの様なにおい」などを感じます。これらの臭いのほかにも、「なんとも形容がしがたい、今までに嗅いだ事がないような臭い」という方も、相当数おられます。
臭いのおこるきっかけは、くしゃみ、鼻をすする、爆笑したときなどにおこりやすい様ですが、人によっては何もない時にも突然発症する場合もあるようです。
空気が乾燥している時や、飛行機、地下鉄などの乗り物に乗っている時に悪化しやすく、起床時には軽快する傾向があるようです。
また、症状は片側性もしくは両側性に起こります。



-異臭症の鍼治療をおこなうようになったきっかけ-

数年前、首から右手にかけて痛みと痺れを訴える40代男性が私の治療院に来院し、治療を開始することになった。
数回の治療の後、症状が改善し、当時の赴任先であるニューヨークへ戻っていかれた。
その4か月後、2週間の滞在予定で東京に帰ってこられた。ゴルフが趣味で、大会に出るほどの腕前だそうで、身体のメンテナンス目的で鍼治療の依頼があった。
その折に、発作的に異臭を感じる症状があることについて相談されたのだが、当時はお互い病名も知らずに、私などはそのような症状は聞いたこともなかった。
この方は以前にも、ニューヨークの鼻の権威というドクターに相談したところ、鼻中隔湾曲症と蓄膿症があるので、とにかくここを手術すれば異臭の症状も治るかもしれないといわれ、手術を受けたことがあった。確かに鼻自体はすっきりしたが、異臭症は治らなかったと仰られていた。
そして「実験台になるから、いろいろ試してほしい」といわれ、メンテナンス治療のついでにいろいろ試させていただいた。
その後も4か月に1度程度東京に帰ってこられ、2週間程度滞在するあいだに治療をおこなった。

いろいろと試行錯誤している間に症状が軽減してきて、やがて治療点や手法もある程度固まってきた。再現性も得られたことから、これをきっかけに広く異臭症患者を受け入れて治療をするようになった。


当ブログでは、私が実際におこなっている鍼治療の治療点や手法、症例などを紹介していこうと思います。




-鍼治療の治療点や手法-


・天柱(後頭骨下縁~第二頸椎レベルの硬結)・・・右天柱に硬結がある場合は右鼻に、左天柱に硬結がある場合は左鼻に症状が出る傾向がある。
・睛明・・・眼窩に1.5~2センチ刺鍼
・攢竹・・・下方に向け1センチ程刺鍼
・眉衝・・・上方に向け1~2センチ程度刺鍼
・天枢・・・症状が出ている時に、ここを圧して軽減するものは、ここにも刺鍼。
・上星・・・上方に向け1~2センチ刺鍼
・印堂・・・上方に向け1~2センチ刺鍼

*攢竹と眉衝、上星と印堂はそれぞれペアにして、低周波鍼通電をおこなう。


異臭症は、罹患期間にかかわらず、誘発刺激によってのみ発症する患者の場合には緩解しやすく、誘発刺激が無いにもかかわらず発症する患者(こちらの方が圧倒的に多数)の方が、緩解するまでの期間は長くかかる傾向がある。
週1回程度の治療で、3~4カ月程度の治療期間を要す。



異臭症の症例集

2012年04月04日 | 異臭症
-症例1 40代女性-

2年前より突然左の鼻から異臭を感じるようになる。最初は3~4日に一度程度の割合で発症していたが、一年くらい前から毎日発症するようになる。
耳鼻科に3件通院したが、精神的なものだろうといわれ、抗生物質を処方されるのみ。

・臭いは、ガソリンのにおいとタマネギの腐敗臭を足して二で割った様なにおい。
・くしゃみや鼻をすすったりで誘発される。
・なにも誘発因子が無い時でも発症することもある。
・一度発症すると、寝るまで治らない。
・異臭は左鼻のみ。

治療は1週間に一回の間隔でおこなう。



第1診

 左天柱(首の付け根。後頭骨下縁~第2頸椎の高さのコリ。半棘筋、大・小後頭直筋など)に非常に硬い硬結と、またその外側に、頭板状筋の外縁部とみられる一筋の策状硬結と、肩甲挙筋の硬結を認める。
左の頸から肩にかけて、いつもコリ感を感じ、ひどくなると目の奥の痛みや頭痛がおこる。その時は必ず異臭を感じるとのこと。


治療点
 天柱、風池、頭板状筋、肩甲挙筋の硬結部にそれぞれ低周波鍼通電。
 上星と印堂、左攅竹と左眉衝をそれぞれ対で低周波鍼通電。
 睛明に置鍼。


第3診

 異臭発作が2日に一度くらいになってきた。コリ感はすこしづつ軽減してきているとのこと。眼の奥の痛みと、頭痛はでなくなった。


第6診
 
 異臭発作が3~4日に一度程度になった。くしゃみなどをしても、発作が出にくくなった。肩のコリ感や頭痛は、ほとんど気にならなくなった。


第10診

 異臭発作は1週間に1度程度になる。発作が出ても、1~2時間で消えるようになる。


第14診
 
 異臭発作は出なくなる。左頸から肩にかけての筋緊張の度合いは左右差がほとんどみられなくなる。

本症例は頸の筋緊張の状態と異臭症の症状の消長に、明らかな相関がみられた例であったので、頸の筋肉のセルフケアの方法を紹介し、治療終了後もこれを継続して行うよう指導した。




-症例2 20代男性-

約三年前から突然、左鼻に異臭(焦げくさいにおい)を感じるようになる
最初は3~4日に一度程度であったが、今ではほぼ毎日発症するようになる。
発症中は、たばこの煙が非常にくさく感じる。
くしゃみや鼻をすする、大笑いなどで誘発される。誘発刺激が無い限り発症はしない。
起床時には消失している。


治療は第3診までを週一回ペースで、それ以降は2週に一回ペースでおこなう。


第1診

 左の天柱~肩にかけて非常にこっている。本人も同部位がつらいと訴えている。
 治療点は天柱、や僧帽筋、肩甲挙筋などの硬結部に低周波鍼通電をおこなう。
 ついで左睛明穴に刺鍼し上星と印堂、左眉衝と左攢竹をそれぞれ対にして低周波鍼通 電をおこなう。


第2診

 前回の治療後、特に症状に変化はみられない。

第3診

 1週間のあいだ、症状が出たのは一回のみ。居酒屋で知人と会食中、大笑いした時に 発症したとのこと。

第4診
 
 あらゆる誘発刺激があっても症状がでることはなかった。

第6診

 症状が出ることが無くなったので、治療を終了した。



本症例は、第3診以降症状の消失がみられた。今まで経験した中では緩解するまでの期間が最短であった。
この方は罹患期間が三年にも及び症状もほぼ毎日現れていたが、誘発刺激がなければ症状が出ることは無かった。以前も1例だけ、このように刺激が無ければ発症しないという患者を治療する機会があったが、やはり7回程度の治療で緩解に至った。
このような方は、わずか2症例しか経験がないが、もしかしたら緩解しやすい傾向があるのかもしれない。
 



-症例3 30代女性-

7年程前、突然左鼻から異臭を感じるようになる。いくつかの耳鼻科を受診するが、いずれも原因不明といわれ、抗生物質を処方されたりした。
2年ほど前から、右鼻からも異臭を感じるようになる。


おもな症状は以下の通り。

・左鼻は2~3日に一度、右鼻はほぼ毎日発症。
・異臭は左鼻で濃く、右鼻では薄い。
・左右でそれぞれ異なる臭い。なんとも形容しがたいが、腐敗臭のような感じ。
・発症中は、コーヒー、タバコ、線香などのにおいが非常にくさく感じる。
・くしゃみ、鼻をすする、笑う(爆笑)などが誘発因子となる。
・一度発症すると、寝るまで治らない。


治療は、第1診~第8診までを週2回、それ以降は週1回のペースでおこなう。


第1診

 基本的に前述の治療点に施術をおこなう。そのほかに首肩のコリに対しても治療をおこなう。


第2診

 前回の治療日と翌日は発症しなかった。翌日は両鼻ともくしゃみにより発症した。
 
第5診
 
 発症の回数は徐々に軽減している。軽くくしゃみをする程度では発症しなくなった。

第8診

 先日右鼻で発症したが、一時間ほどで自然に消失した。自然に消失したのは初めて。

第11診

 左鼻はほとんど発症しなくなった。右鼻は3~4日に一度程度。この頃より、誘発因子が無ければ、発症することは無くなった。

第13診

 くしゃみや鼻をすするなどしても、発症しなくなった。爆笑した時のみ発症する。

第15診
 
 誘発刺激があっても、症状がでることはなくなった。

第17診
 
 症状が出ないので、治療を終了した。




片側顔面痙攣(顔面痙攣)の鍼治療

2012年04月04日 | 片側顔面痙攣(顔面痙攣)
片側顔面痙攣とは、片側の顔面筋が、自分は意図していないのに痙攣し続けてしまう病気です。
発症の原因としては、頭蓋内で、脳幹から出る顔面神経が、血管により圧迫されることによって起こるとされています。



-症状-
 初めの症状は、上瞼か下瞼の痙攣に始まり、進行すると同じ側の目の周りや口の周りの筋肉も痙攣するようになってしまいます。
口をすぼめたり、口角っを横に引くと痙攣が誘発されます。





いままで顔面痙攣患者を治療してきた経験から、特に有効と感じた治療点や手法、適不適の鑑別点、治療成績などを紹介していきます。また、症例報告として、有効例と無効例をいくつか紹介していきたいと思います。


-鍼治療の適応となるもの-

・入浴中は痙攣回数が減少する。
・本を読む時など、顔が下を向き、後頚部に負荷が掛る時に、痙攣回数が増加する。
・患側の天柱に硬結が認められる。(後頭骨下縁~第2頸椎の高さにあるコリ)
・頸や肩がこると、特に痙攣が起こりやすい。
・リラックスしているときには痙攣が起こりにくい。

上記の特徴がみられる場合は(こちらの方が多数派である)、たとえMRI検査で、顔面神経の圧迫所見が認められていても、鍼治療による改善が十分に期待できる。


-鍼治療の不適応となるもの-

・睡眠中などでも痙攣が止まらない。
・天柱に明確な硬結が認められない。

上記の特徴がみられる場合は、血管による圧迫部で、血管の拍動により顔面神経が刺激され、顔面神経の過敏性が非常に高くなっていることが示唆されるので、鍼治療対象外となる。鍼治療の対象となるのは、この前段階の状態まで。


以上が鑑別のポイントとなります。



-治療点-

患側の天柱硬結・・・低周波鍼通電か単刺雀啄
側頸部の筋緊張・・・胸鎖乳突筋、斜角筋、肩甲挙筋。置鍼か低周波鍼通電

*翳風穴や牽正穴からの顔面神経への刺鍼効果は、顔面痙攣に対しては認めれないため、使用していません。



なぜ頚部の治療で顔面痙攣が改善するのかは、今のところ不明である。しかし、これまで治療してきた、顔面痙攣の診断を受けた患者の中には、神経血管減圧術を受けたにもかかわらず再発した例(1例)や、MRIで神経の圧迫所見が認められない例(2例)、また頸椎ヘルニアの発症と同時に顔面痙攣を発症(画像所見異常なし)した例(1例)を経験してきた。いずれも瞼、頬、口角など、顔面の片側全てにわたり痙攣が認められる症例であったが、画像所見では異常が見られなかった。上記の症例は全て、頚部の治療により緩解に至った。
以上の症例は、頚部の筋群が原因で、顔面痙攣を発症したことが示唆される。
また、その他の患者については、いずれも画像所見で異常が認められ、そのうちの多くは、手術を勧められた患者である。

以上の事は、一部の顔面痙攣は、頸部の筋が主因となっていることが示唆される。また、神経血管減圧術をおこなうと、90%ほどは完治することから、当然、原因の多くは頭蓋内の病変部にあることは明確であるが、画像所見上、血管による圧迫が認められても、多くの顔面痙攣は、頚部の治療により改善が期待できることを物語っている。

頚部の筋、特に天柱部の硬結は、眼瞼痙攣など一部の神経系疾患の症状の消長と相関がみられることから、顔面神経の過敏性に対し、何らかの関与があるのではないかと思われる。




-H21年5月~H24年3月現在の治療成績-(H21年以前の開業前の症例については、手元に資料が無いため統計不可)

寛解・・・12例

無効・・・3例(顔面痙攣症例 無効例参照)

脱落(効果は認められるものの、緩解まで至らず脱落してしまった例)・・・5例

治療中(H24年3月24日現在)・・・4例




顔面痙攣の症例集

2012年04月04日 | 片側顔面痙攣(顔面痙攣)
-症例1 30代女性-


約1年前から、左下瞼がピクピクと痙攣するようになる。痙攣の範囲が徐々に左頬から左口角へと広がる。脳神経外科にてMRI検査を受け、顔面神経の圧迫所見が認められ、片側顔面痙攣と診断される。ボトックス注射で痙攣を抑えるか、手術しか方法はないと告げられる。


おもな症状は以下の通り。

・痙攣は左顔全体がピクピクと小刻みに痙攣したり、左外側に左顔面全体が引っ張られる様な痙攣が起こる。
・左天柱部(首の付け根。後頭骨下縁~第2頸椎の高さのコリ。半棘筋、大・小後頭直筋など)から左肩にかけて強いコリと痛みを感じる。
・左頬のこわばり感。
・頚肩のコリ感が強い時は、特に痙攣が起こりやすい。
・入浴時やリラックスしている時には痙攣は出にくい。

治療は1週間に1度の間隔でおこなう。



第1診

 天柱、肩甲挙筋、僧帽筋部に圧痛、硬結を認める。

天柱、肩甲挙筋、僧帽筋の硬結部に低周波鍼通電をおこなう。
また、腰痛も訴えていたため、腰部の鍼治療も並行しておこなった。

治療直後は顔のこわばりが取れてすっきりしたとのことだが、痙攣の程度に変化はみられなかった。


第3診

 少しずつ頚肩のコリ感が軽減してきて、痙攣回数も多少は減ってきた。


第8診

天柱部を押圧すると、痙攣がぴたりと止まるようになる。天柱部の刺鍼方法を単刺雀啄に切り替える。


第9診
 
 前回治療後に天柱部に2日ほど痛みが残り、痙攣回数も増加したが、痛みが引くと、痙攣回数が10分の1程度まで軽減した。



第14診

天柱の硬結はほぼ消失した。それに伴い痙攣回数もさらに減少したが、消失には至っていない。
頚部の触診にて、肩甲骨内上角と胸鎖乳突筋の鎖骨頭に硬結が認められたため、同部位に低周波鍼通電をおこなう。


第18診 

 痙攣の回数は徐々に減少している。

第25診

 痙攣は消失した。
頸肩がこると再発の可能性があるため、セルフケアの方法を指示し、治療を終了とした。

本症例は、第10診までは比較的順調に痙攣回数の減少がみられた。しかし長時間のPC作業により、胸鎖乳突筋や肩甲挙筋の筋緊張が残存していたため、痙攣消失まで期間を要した例である。




-症例2 40代女性-


1か月半ほど前に左頚を寝違える。その2日後くらいから左下瞼がピクピクと不随意に動くようになる。その数日後から左頬にも痙攣が現れるようになり、左頬の筋肉がこわばるようになってきた。近所の脳神経外科を受診。MRI検査にて顔面神経の圧迫所見が認められ、顔面痙攣と診断された。根治には手術が必要と言われる。


鍼治療は週1回の頻度でおこなった。


おもな症状は以下の通り。

・口をすぼめると、左下瞼と左頬にかすかな痙攣を認める。
・引っ張られるような、大きな痙攣は認められない。
・パソコン業務などで、頚が疲れてくると、痙攣の頻度が増す。
・入浴時は軽減。




第1診

 寝違えてから随分時間が経過しているが、左頚部の左回旋可動域は20度程しかなく、それ以上回旋しようとすると、痛くて回らない。また左天柱部(首の付け根。後頭骨下縁~第2頸椎の高さのコリ。半棘筋、大・小後頭直筋など)と、左僧帽筋と肩甲挙筋に顕著な硬結と圧痛を認める。

上記の圧痛点にそれぞれ刺鍼する。
治療後、頚部の可動域に改善がみられ、左右差はほぼ無くなる。

第2診

 頚の痛みはほぼ無くなったが、いまだ天柱部のコリ感は強く、特に仕事中などに痙攣が気になる。


第4診

 コリ感はだいぶ改善された。痙攣も回数がかなり減少してきたが、午後から夕方にかけて出現する。


第8診
 
 天柱部の硬結はほとんど消失する。口をすぼめても痙攣は出なくなった。これをもって治療を中止した。



本症例のように、まず先に頚部痛が起こり、次いで同側の顔面痙攣が発症した場合は、比較的短期間に緩解する傾向がある。
 以前にも、頚部から手指にかけて痛みと痺れを訴えて、整形外科に受診したところ、頸椎ヘルニアの診断を受けて、ほどなくして同側の顔面痙攣を発症した患者を治療する機会があったが、2回の治療で痛みが取れ、それと同時に痙攣症状も緩解した症例を経験したことがある。





-症例3 50代男性-

約2年前から、右の下瞼がピクピクと痙攣するようになり、現在は右側の頬、口角まで痙攣するようになった。脳神経外科を受診、脳幹部で顔面神経が圧迫されていると言われる。

おもな症状は以下のとおり

・右の顔面全体が引っ張られる様な痙攣がおきると、耳の中でごそごそと雑音がする。
・右頬のこわばり感。
・痙攣は朝方は軽度で、午後から頻度が増す。
・痙攣は、ストレスや疲労で増悪傾向。
・リラックス時や入浴、飲酒により軽減する。


治療は最初の4回を週2回の頻度でおこない、それ以降は週1回のペースでおこなう。



第1診

伏臥位では天柱部(首の付け根。後頭骨下縁~第2頸椎の高さのコリ。半棘筋、大・小後頭直筋など)の硬結は顕著ではないものの、右側臥位で、頚部を前屈させ、後頚部を伸展させた状態だと、右天柱部の硬結が顕著になった。
まず伏臥位にて頚部、肩、肩背部の筋緊張部に刺鍼。次いで右側臥位にて頚部を前屈させ、天柱、胸鎖乳突筋、肩甲挙筋にそれぞれ低周波鍼通電をおこなう。



第4診

痙攣の頻度が軽減してきた。特に顔全体が引っ張られるような大きな痙攣は、ここ1週間ほど回数が減ってきている。耳の中の雑音はほとんど無くなる。



第6診

痙攣はピクピクと小刻みなものだけになった。午前中はほとんど気にならないが、午後から夕方にかけてまだ痙攣が出る。



第10診

身体が疲労しにくくなってきた。右天柱部の硬結は以前に比べるとかなり小さく柔らかくなってきているが、まだ左右差が認められる。まだ、口をすぼめると小さな痙攣が右の顔全体に認められるが、普段はそれほど気にならなくなってきた。



第14診

口すぼめで、右下瞼のみ痙攣が認められる。普段はほとんど痙攣は出ていないという。



第18診

口をすぼめても痙攣がでなくなったので、治療を終了した。




無効例



-50代女性-

①約4年前から右瞼の痙攣が始まり、次第に右顔面全体に痙攣が出るようになる。
②リラックス時や入浴中、睡眠時にも痙攣がおこる。痙攣のため、夜に眼が醒めることもある。
③肩、頚のコリ感の自覚はあるが、天柱の特徴的な硬結はみられない。


治療を1週間に1度、計5回おこなったが、症状の軽減が全く見られなかった。顔面神経の過敏度が非常に高く、鍼治療の適応とならないと思われたので、治療を打ち切った。この他にも1例、同様の所見を持つ症例を経験したが、4回治療をおこない、効果が全く認められなかったので、治療を打ち切った。
②と③の所見が認められる場合は、鍼治療は不適応と考えられる。


-50代女性-

・約18年前から左瞼の痙攣が始まり、次第に左顔面全域に痙攣が起こるようになる。
・リラックス時や入浴中には、痙攣回数の減少がみられる。
・左の天柱に巨大な硬結を認める。

1週間に1度の頻度で治療をおこなう。治療直後は、痙攣回数に、若干の軽減が見られるが、1~2日で元の程度に戻ってしまう。10回ほど治療をおこなうが、効果の累積が見られないので、治療を打ち切った。
本症例のように、発症からの期間があまりにも長期に及ぶものは、顔面神経の過敏性が相当に高まっており、また、筋繊維の硬化が相当に進んでいるため、鍼治療の効果が現れにくいものと考えられる。