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第4話(1)

逃避行(1)

 雲が低く垂れ込めている。
凍るような風が吹き付ける。
戦闘の轟音が三方から押しよせ、灰色の空一杯に広がる。

 「Luftangriff!(空襲!)」
道路際のくぼ地に飛び込む。
グワッ
灰色のシュトルモビク地上襲撃機が、避難民の行列に襲い掛かりる。
道路上を何本もの銃弾の矢が走る。

 ドカ、ドカ、ドカン!!
ロケット弾が行列を切り刻む。

 道路にできた爆発孔の周りには、ばらばらになった荷車や身体の破片が散らばる。
生き残ったものは、のろのろと起き上がり、歩き出す。
傷ついたものは、通り過ぎる行列に救いの眼を向ける。

 湿地帯を通る。
遠くからではわからなかったが、あちこちに砲身がのぞいている。
ドイツ軍陣地だ。

 数人の野戦憲兵が待ち構えていた。
敗残兵を再編成し、前線に送り返すためだ。
明らかな脱走兵は、その場で銃殺されるか、木につるされる。

 私服の男3人は目立つ。
「身分証明書を見せろ!」
陰険な顔の憲兵が怒鳴る。

 「お前たち、国民突撃隊を脱走したな!」
「いえ、私たちはレーダーを作っているテレフンケン社の社員で、西に移動した工場を追及中です。」
「これらの図面は新兵器開発に必要なのです。」
佐慈のパスポートと3人の持っていた図面のおかげで、切り抜けられた。

 100mほど離れた道端の木に1人の男が吊るされ、ゆらゆらと揺れていた。
その男の首には、板切れが掛けられていた。
“祖国を裏切るものは死なねばならぬ。
 総統を信ぜざりしゆえに、我ここに絞首さる。”

     
     
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