ソ連の潜水艦S13は、ターゲットの左舷、陸側に回り込み、2000mほど離れて追跡した。
ソナー員がマリネスコ艦長に報告する。
「大型船のスクリュー音、2基。その前方に小型船のスクリュー音、1基。」
マリネスコは浮上攻撃を決意した。
吹雪の晴れ間に巨大船のシルエットが見えた。
1000mまで近づいた。
夜間照準器の十字線の交差点と、大型船の船首が重なった。
「発射!!」
船首から3本の魚雷が飛び出した。
ズズン!
佐慈の身体が持ち上がり、デッキに落下した。
ドカン! ドカン!
警報ベルが鳴り響く。
船はすぐに傾き始めた。
頭が真っ白になる。
「くそ!なんてこった!」
崩れ落ちた荷物の間を通り、通路に出る。
黒山の人で押し合い、圧し合いだ。
通路から海に転げ落ちる人もいる。
救命艇のあるボート・デッキに行こうとするが、前に進めない。
徐々に船の傾斜が強まり、通路が波に洗われ始めた。
大波が打ち寄せ、船から落ちた救命いかだが漂ってきた。
佐慈らは、意を決して、海に飛び込む。
いったん海中に沈みこむが、救命胴衣のおかげで浮き上がる。
2、30メートル先のいかだに向かって泳ぎ始めた。
衣類にしみこんでくる水の冷たさに、身体がしびれる。
カール少年は、急に動かなくなり、波間に姿を消した。
半ば、朦朧となりながら、いかだについた。
いかだにやっとの思いで這い上がる。
ぐったりしたマックスを、同乗者に手伝ってもらい、引き上げる。
グストロフ号は横倒しになり、ゴボゴボと海水を吸い込んで、沈んでいった。
まだ多くの人影が見えたのに。
救命艇やカッターが、沈む船の作り出す渦に巻き込まれないよう、必死で離れようとしている。
多数の人が海面に漂ってはいるが、もはや生きてはいまい。
参考図:「死のバルト海」、C.ドブスン他、早川書房、1981
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