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第6話(1)

放浪(1)

 秋山の入院したドンタンの野戦病院に、カーター中尉が見舞いに来てくれた。
「やあ、どうだい、傷の具合は?」
「背中に当たった破片がもう1cm左だったら、一生車椅子だった、とのことです。ラッキーでした。」
「スチュワートはロケット弾をまともに食らってしまった。」
「ブラドッグは重症なので、サイゴンの病院行きだ。」
「エディは、基地でこっそりマリファナをやっていたんだ。川の中に放り込んでやったよ。」

 病院には海軍将兵のほかに、陸軍将兵や政府軍将兵も入院していた。
サイゴン北方の鉄の三角地帯と呼ばれるベトコン支配地域で負傷した兵士と、隣同士になった。

 「海軍さんは歩かなくてよいから、羨ましいよ。」
「そうでもないよ。敵からは丸見え、こちらからは敵は見えないんだ。」
「陸でも同じさ。ベトコン支配地域に入ったら、動くものは全部撃つ。それが女、子供、老人であってもだ、殺されたくなかったらね。」
お互い、戦場のことは思い出したくない。
すぐに音楽やベトナム女性の話になった。

 傷は2週間で治ったが、左手が自由に動かない。
リハビリが必要とのことで、PBR修理センターに配置換えになった。

 戦いは激しくなり、修理に持ち込まれる艇が後を絶たない。
船体に開いた弾痕、破壊されたキャビネット、おびただしい血の跡を見ても、もう心を動かされることは無くなった。
他人の苦しみや悲しみに鈍感になり、“自分だけ無事にここを抜け出せれば、他のことはどうでもよい”という気分だ。

 ジョンソン大統領が北ベトナムとの和平交渉を開始し、アメリカ軍を順次撤退させる方針を発表した。
アメリカ軍将兵の士気が下がっていくのが、明らかにわかった。
秋山もマリファナを覚え、売春宿に通いだした。
金に困ると、ディーゼル油を横流しした。

     
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