損害を省みず、レイテ増援輸送作戦は続けられた。
本田らもトンボ返りのねずみ輸送だ。
戦死した2人の砲手にかわって、沈没した輸送船の船舶工兵が乗ってきた。
古年兵で、投げやりな態度だ。
さっそく、元漁船員との間で悶着が始まる。
もう、敵は小型船だろうと現地の漁船だろうと、夜間航行している船は、躊躇なく襲ってきた。
昼はマスバテ島に隠れ、夜、レイテ島のオルモックに向かう。
ありがたいことに、今夜は曇り空だ。
オルモックには先客がいた。
中型の貨物船が3隻、揚陸作業をしていた。
本船は1キロほど離れた海上で、はしけに荷物を降ろす。
一時間程で終わり、長居は無用と帰途に着く。
何しろ、山を隔てた50キロ先に敵の飛行場があるのだ。
湾を出ようとしたとき、遠くの水平線上で閃光がいくつも光る。
しばらくして湾の沖合いからも閃光と砲声。
ドンドンドン
「敵艦隊の攻撃だ。味方の駆逐艦と撃ち合っているんだ。」
海上に炎が上がる。
閃光の塊が蛍のように動く。
ひときわ明るい閃光がひとつ。
このオルモック湾の海戦は、日本の駆逐艦2隻とアメリカの駆逐艦3隻の間で戦われた。双方とも駆逐艦1隻を失ったが、日本側は善戦して敵艦隊を撃退、輸送を成功させた。
帰りの本船は重傷者で一杯だ。
狭い無線室にも、腹部を負傷した中尉がひざを曲げて横たわっている。
「水、水をくれ --------- 」
負傷者に水を与えるのは禁じられている。
出血しているらしく、段々弱っていく。
「腹をやられたんじゃ、どうせ助からん。末期の水だ、たのむ。」
たまらなくなり、コップ1杯の水を与える。
「あ~、うまい。 ありがとう --------- 」
一時間程して、様子を見ようと顔を近づけると、うっすらと眼を開けた。
「なあ、通信士、この戦争は負けだ。 兵に食う物も弾を与えられないんじゃ、ダメだ。」
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