ある夜、会社の開発チームの責任者であるラインハルト氏が、見知らぬ青年を佐慈の住居に連れてきた。
知人の息子を2、3日かくまってくれ、と懇願された。
彼は、東部戦線からの脱走兵だという。
“これはえらいことだ。”
戦況の悪化と共に脱走兵が増加しており、ゲッペルス宣伝相が
“祖国に対する反逆者をかくまったものは同罪とみなし、処罰する”
という布告を出し、ゲシュタポ(秘密警察)がかぎまわっているからだ。
青年に“昼間、絶対に部屋の外に出たり、外と連絡をとらないこと、物音に注意すること”
などを約束させた。
食糧などは小分けして調達したり、受領場所をいろいろ変えたりした。
黒パンとスープ、ジャガイモで簡単な食事をする。
「新聞ではソ連軍を押し戻している、と言っているが、どうかね。」
「僕のいた部隊は、ウクライナで壊滅的な損害を受けました。」
「泥の中を数百キロも歩いて後退しました、周りのすべてを破壊しながらね。」
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「ヒットラーの野心のために命を捨てる気はありません。」
しかし、捕まれば死刑、よくて懲罰大隊行きで、生きては帰れない。
空襲警報が鳴り出した。
地下室には連れて行けない。死なば諸共と、毛布に包まる。
ウオーという爆撃機編隊の音、ドンドンという高射砲の発射音が、地下室にいるときとは比べ物にならないくらい、大きく響く。
黒幕を張った窓ガラスがびりびり震える。
ドスン、ドスンという弾着音が続く。
“よかった、大分離れている。”
窓のすきまから外を覗くと、夜空がオレンジ色に輝いていた。
青年は2日間、ずっと寝ていたようだ。
3日目の夜、ラインハルト氏が来て、彼をまたどこかに連れ去った。
参考図:「独ソ戦全史」、デビット・クランツ、学習研究社、2003
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