(ハキミの話は続く)
我が軍は憎きイラク軍をイラン領内から駆逐し、その勢いを駆ってイラク領への侵攻作戦を開始した。
とうとう僕にも出番が回ってきた。
4週間の戦闘訓練と政治教育。
使い込んだAK-47突撃銃が配られた。
そのずしりとした重さに、自分がひどく強力になったように感ずる。
「これは悪魔、フセインを倒すジハード(聖戦)だ。」
「ジハードで死ねば、天国に行けるぞ。」
「アッラー・アクバル(アッラーは偉大なり)」
我々は戦車が活動できない湿原で国境を越え、チグリス河とユーフラテス河の合流点アル・クルナを押さえる。
そうすれば、イラクの大動脈であるバグダッドとバスラを結ぶ国道を切断できる。
その後、重要な港湾、石油都市バスラを制圧すれば、フセインの命脈も絶たれる。
僕はテヘラン出身者で構成された部隊に配属された。
小隊長はモストフィー、元大学生だ。
10人ほどの分隊に分かれる。階級はない。
皆、20歳前後の若者だが、1人だけ40台の年長者、ファッサーが居た。
興味を持って、話しかける。
「どうして志願したんですか。」
「若いときにホメイニ師の教えを聞いたんだ。是非、お役に立ちたくてね。」
昔、兵役に就いていたとき、クルドのゲリラと戦ったことがあるという。
夜、攻撃発起点に移動する。
あたりを埋め尽くす大部隊だ。
黒々とした、あし原が広がっている。
分隊ごとにゴムボートに乗り込み、オールを漕いで進む。
所々の目印が頼りだ。
時々、南の方から鈍い砲声が聞こえる。
1時間ほど進み、あしが多くなり、水深が浅くなった。
“ダッダッダッダッ”
前方で銃撃音。照明弾が上がる。
「ボートから下りて前へ進め!」
水に飛び込む。冷たい。
水は胸まで来た。
前に急いで進もうとするが、泥に足を取られ、なかなか進めない。
何本もの曳光弾の矢が、あしの間を抜けて飛んできた。
顔を水中に突っ込んで、夢中で前に進む。
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