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第1話(2)

ペルー1989(2)

 深夜、リマのチャベス空港に着いた。
パソコンなどの機材が入った荷物2個を積んだカートを押し、旅行カバンも片手で押しながら、大勢の人が並んでいる税関ゲートに来た。

 そのとき、スポーツ選手のような体つきをした、カーキ色の制服を着た男が近づいてきた。
「タケダ?」
戸惑いながらうなずくと、“ついてこい”と身振りで示す。
荷物が多すぎたのかな、と思いながら男の後を追う。

 男は端のゲートに近づき、警備員と何かしゃべっている。
すぐに男が手招きするので、そばに行くと、何と、ゲートが開かれ、男と武田はそのまま通り過ぎることができた。
狐につままれた思いで男の後を追い、出口まで来ると、今回赴任する農業センターのロドリゲス所長と日本人専門家の真田さんが迎えてくれた。

 所長は、40代の恰幅のよい白人だ。
所長は、武田を連れてきた男の肩を抱いて、包みを渡した。
白髪で、精悍な顔をした真田さんが説明をしてくれる。
「高級機材は持ち込みがうるさくて、正規の手続きをしたら、1ヶ月もかかってしまうんですよ。」
「別ルートを使わないと、この国では何事も上手くいきません。」

 所長にお礼を言って別れ、真田さんの車でホテルまで送ってもらう。
「明日、JICAの事務所に行き、手続きをしてください。」
「たぶん、1ヶ月ほど語学研修などを受けた後、私たちのいるセンターに来ることになるでしょう。」

 薄暗い街中を車は走る。歩いている人はほとんどいない。
「治安はきわめて悪いです。」
「ガルシア政権の失政で経済は破綻状態、左翼ゲリラがテロ攻撃を強めています。」
「夜間の外出は控えてください。移動にはホテル前のタクシーを使うように。」

 「私たちの農業センターのあるワラルは、安全で住みやすい街です。少しでもペルーの農業を発展させ、良い方向に行くよう微力を尽くしましょう。」
武田にとり、テレビの旅行番組では見ることのできない、ペルーの現実の顔に接した、長い一日だった。

     
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