ギイは一瞬遅れたが、人馬の流れに巻き込まれ、走り出した。
喚声をあげ、全速力で疾駆する。
こちらに向きを変えようとする敵騎兵の群が、一気に近づく。
槍の柄を体に押し当て、汗でぬれた馬の首に顔を寄せ、前方を凝視する。
ギイは正面からぶつかってきた敵の騎兵に向かって、槍を突き出した。
槍は空を突いたが、穂先を避けようとバランスを崩した敵兵は、馬上から消えた。
混戦を走り抜け、馬首をめぐらせようと立ち止まったとき、横合いから人馬が襲ってきた。
敵騎兵のサーベルが光を反射し、白く輝く。
その一振りをかろうじて避けたギイは手綱を引き締め、夢中で槍を突き出した。
槍は敵兵の腹部に深々と入り、抜けない。
槍を手から放すと、敵兵は串刺しのまま、もんどり打って地上に落ちた。
次の戦いに備え、サーベルを抜こうとするが、手が震えて中々抜けない。
ロシアの騎兵隊は死傷した人馬を残し、サッと退却していった。
「追うな!次の襲撃に備えろ。」
ギイは馬から下り、自分が倒したロシア兵の側に寄った。
男は大きく目を見開き、苦しそうに息をしている。
ギイは男の腹に足を掛け、力を入れ、槍を引き抜いた。
引き抜いた孔から血がビュッと吹き出し、男の緑の軍服を真っ赤に染めた。
ギイは頭の中が真っ白になり、足早にその場を離れた。
ロシア軍はスモレンスクでの会戦を避け、小競り合いをしただけで、橋を爆破し、撤退していった。
スモレンスクの街は炎上しており、遠征軍の得られた糧秣は少なく、休息の場所も得られなかった。
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