403号艇は、先に旋回を始めた味方の艇の起こした波をもろに受け、横転した。
海中のデッキから、久保田艇長は頭部に怪我をした真田操舵員を助け出し、水面に浮上した。機関員2人を除く4人が船底にしがみついている。
「怪我はないか?」
「大丈夫です。」
方向を変えた味方の艇に、旋回して戻ってきた敵機が襲い掛かる。
たちまち、艇はオレンジ色の炎を吹き出し、よたよたした動きになる。
別の1機が、腹を見せて海面に浮かんでいる403号艇に突っ込んでくる。
「皆、船体から離れてもぐれ!」
バリ、バリ、バリ-----。
機銃弾で穴だらけになった船体は、浮力を失い、石のように沈んでいった。
「岸まで約2キロだ、がんばって泳げ!」
久保田艇長らは船体の破片につかまり、懸命に泳ぐ。負傷した真田兵長は苦しそうだ。
「曹長、無理だ、先に行ってください。」
「弱気をだすな、操舵員がいなけりゃ、船を誰が操縦するんだ。」
アメリカ軍1万6千名は11月1日、ブーゲンビル島中央部のタロキナ岬に上陸した。またもや、ブインの日本軍は袋の鼠になり、存在意義を失ってしまった。そして、補給を断たれたため、すぐに飢餓が始まった。終戦までに、ブーゲンビル島に取り残された日本兵の約7割、4万3千名が飢餓や病魔に倒れ、祖国から遠く離れた南の島の土になった。
久保田兵曹長ら魚雷艇隊の16名は、船乗りの技術を生かしてのカヌーでの魚とりとタロイモで生き残ることができた。
「曹長、我々はいったい、何のために戦ったのですかね。」
「“運命共同体”というやつさ。誰かが“進め”のボタンを押せば、乗り合わせたやつは、いやでも戦うのさ。」
-------- 完 -------
〔参考文献:写真太平洋戦争第8巻、光人社NF文庫〕
最新の画像もっと見る
最近の「大西洋」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
- クリミアの歴史(7)
- 「オリエント急行」バルカンを行く(9)
- ウイルスって何だろう(6)
- 不死身の通信ネットワークを構築せよ!(6)
- ヒトラーのいない第二次世界大戦(7)
- 不思議な病気(8)
- 秀吉の野望と挫折(9)
- 生命の源「アミノ酸」(6)
- 「ドイツ民主共和国」の消滅(8)
- ナイルの水争い(8)
- ドン・カザーク(19)
- 貧者の空軍(9)
- 地震って何?(7)
- 遥かなる海へ(16)
- 北軍兵士の見た「風と共に去りぬ」(12)
- 脳内麻薬を捜せ!(9)
- 19世紀パリの光と影(9)
- 若宮丸の航跡(9)
- 原爆スパイ(8)
- 「北京の55日」番外編(8)
- 「地球外生命」はいるか?(5)
- 「林彪事件」の謎(8)
- 金(きん)(8)
- 国歌いろいろ(6)
- 悪党(鎌倉末期)(6)
- 老化を防げ!(5)
- 森の中に消えゆくトラ(4)
- テスラー成功と挫折(7)
- 国境とは?(25)
- 日記(0)
- 大西洋(696)
- ソマリアの青い海(20)
- 吹雪のバルト海(24)
- ペルシャ湾波高し(24)
- ロック・オン(20)
- ワレ「雪風」ト共ニ(20)
- 騎兵隊、前へ!(26)
- 惑星の動きを探れ!(19)
- 東方見聞録序章(25)
- 元素を捜せ!(25)
- レアメタルは戦略物質だ!(6)
- 種はどこから?(17)
- 智の都、アレクサンドリア(20)
- 文化大革命の嵐(22)
- 世界は微生物で満ちている!(19)
- 連合艦隊の誕生(17)
- 鉄砲見参!(18)
- 成功は失敗の始まり(17)
- 黒船の影(19)
- 石油の一滴は血の一滴(15)
- 前門の虎、後門の狼(8)
- 月をめざして(18)
- 水の不思議と太陽の恵み(17)
- がんの正体をあばけ!(10)
- 旅行(0)
- グルメ(0)
バックナンバー
人気記事