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第6話(6)

最後の海戦(6)

 403号艇は、先に旋回を始めた味方の艇の起こした波をもろに受け、横転した。

 海中のデッキから、久保田艇長は頭部に怪我をした真田操舵員を助け出し、水面に浮上した。機関員2人を除く4人が船底にしがみついている。
「怪我はないか?」
「大丈夫です。」

 方向を変えた味方の艇に、旋回して戻ってきた敵機が襲い掛かる。
たちまち、艇はオレンジ色の炎を吹き出し、よたよたした動きになる。

 別の1機が、腹を見せて海面に浮かんでいる403号艇に突っ込んでくる。
「皆、船体から離れてもぐれ!」
バリ、バリ、バリ-----。
機銃弾で穴だらけになった船体は、浮力を失い、石のように沈んでいった。

 「岸まで約2キロだ、がんばって泳げ!」
久保田艇長らは船体の破片につかまり、懸命に泳ぐ。負傷した真田兵長は苦しそうだ。
「曹長、無理だ、先に行ってください。」
「弱気をだすな、操舵員がいなけりゃ、船を誰が操縦するんだ。」

 アメリカ軍1万6千名は11月1日、ブーゲンビル島中央部のタロキナ岬に上陸した。またもや、ブインの日本軍は袋の鼠になり、存在意義を失ってしまった。そして、補給を断たれたため、すぐに飢餓が始まった。終戦までに、ブーゲンビル島に取り残された日本兵の約7割、4万3千名が飢餓や病魔に倒れ、祖国から遠く離れた南の島の土になった。

 久保田兵曹長ら魚雷艇隊の16名は、船乗りの技術を生かしてのカヌーでの魚とりとタロイモで生き残ることができた。

 「曹長、我々はいったい、何のために戦ったのですかね。」
「“運命共同体”というやつさ。誰かが“進め”のボタンを押せば、乗り合わせたやつは、いやでも戦うのさ。」

     -------- 完 ------- 
 
〔参考文献:写真太平洋戦争第8巻、光人社NF文庫〕
     
     
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